【再掲】第43話 バスタオルを巻いて






  あたしはどこまで世話好きなのだろうか?


「いやー、ええ湯やったわ!」


 ウィラの言う通りでいい湯だった余韻をそのままに、早く身体を拭かないと湯冷めをしてしまう。


 ロッカーの鍵を開けてバスタオルを取り出し、脱衣場に上がる前に拭いた身体をもう一拭き、僅かに残った水気を取ってから髪の毛も同じく、あとはドライヤー任せといったところか。


 湿り気と温もりを帯びたバスタオルの次の役割は、あたしの身体を巻いて隠す文明人のあり方か。


 大きめだけど長さがギリギリなのは、なんとか収まった大きな胸のせいであり、いつものことながら笑うしかないね。


 自分のことが一段落したその次は、湯上がりで湯気立つ身体を拭くウィラに視線を移した。


 なんと言うかこれまた愛玩動物的なかわいさがあり、さっきの豪快なシャンプータイムもあってか、何故か無性に手伝いたくなってしまった。


「ウィラ、手伝うぜ?」


「なんや、そらうちお姫様やからな、くるしゅうない」


 今度はお姫様気分だろうか?


 どことなく高貴なお嬢様っぽい雰囲気もあるからか、お似合いと言えばお似合いだけど、どちらかと言えばあどけなさだろうか。


 まるで本当に妹が出来たような感覚と言うのか、妙に世話を焼きたくなるのはきっと、ウィラの持つ天性のなにかに魅了されたのかもしれない。


 自分の身体を拭いていたバスタオルをあたしに手渡し、万歳のポーズで待つウィラは、万全の受け入れ体制の模様……おいおい、子供か?


 無邪気にも満面の笑みを浮かべ、あたしを急かすものだから……ああ、クールダウンは当分先かもね? HAHAHA!


「ナギぃ、ちょっとおさわりが過ぎるんとちゃいますか?」


「さっき湯舟で散々ボディタッチしてきたのは誰だ?」


「そら……ナギのチョモランマが気になってもうたんやから、うちの手が勝手に動いたんや」


「へぇ、と言うことはさ、今のあたしも同じ気持ちなんだろうな?」


「せやな、ナギもおっちゃん住んどるやん?……あっ……んんっ……」


「おい、なに変な声出してるんだよ?」


「「HAHAHA!」」


 変な声を通り越してさ、色っぽい声だったから思わず手が止まったぜ?


 ついでとばかりか、ウィラにとって敏感なところの周りへ触れる度に身を捩らせるものだから……ああ、変な雰囲気になる前にさっさと拭きあげてしまおう。


 万歳のポーズであたしに拭きあげられるがまま、ウィラの色白でスラッとした身体は美しく、まるでシルクのような肌の感触がバスタオル越しに伝わる。


 また、背中を拭くときには抱きしめるときのように触れ合い、肌と肌が重なりを描けば……いかんいかん、今日は何回危ない事を考えているんだい?


 あたしはただ、ウィラの身体を拭いているだけなんだぜ? HAHAHA!


 ま、邪な感情が湧くのもきっとさ、自業自得とはいえ傷痕持ちのあたしと違い、綺麗な状態を保っていて羨ましく思ったからだろう。


 邪念は一旦はどこかへと預け、かわいいウィラちゃんの笑顔を見て落ち着いて……よし、拭きあげを再開しよう。


 長くこれまたスラッと伸びた手足はクォーター分のギフトであり、都会を歩けば即モデルとしてスカウトされてもおかしくないだろうと思うぐらいだ。


 口を開いたときの遠慮のなさと違ってかなり控えめな二つの丘、手の中に収まる程度のボリューム感は……これはこれで複雑な話になるな。


 持つもの、持たざるもののジレンマってところか、あたしからすれば羨ましいと思う一方、ウィラからすればきっと別の問題であろう。


 ああ、胸の話はタブーって程ではないけど、デリケートな話題でもあるからね。


 次にフォレスト・ガンプのような脚の速さを見せたウィラは、当然のようにフィジカルも優れており、スラッとしていながらも筋肉質だからね。


 あたし程じゃあないけど腹筋は割れているし、長い脚も程よく締まっていて美しく……よし、拭き終わった。


「ほら、あとはドライヤーで頭を乾かそうか」


「ナギ、ありがとな。ほんでドライヤーやけど、これ、十円玉入れなあかんな」


「ああ、果たして何枚必要なのか?」


「二回分は必要なんとちゃいますか? ほんならあれや、うちの財布から……ナギナギナギ!」


「騒々しいな、どうした?」


 身体を拭き終えたウィラは一糸も纏わず、バスタオルを手に持ったまま番台前のドリンクケースに……って、待て待て待て!?


「ウィラ! タオルを巻け!!」


「あっ、忘れとった?!」


「「HAHAHA!」」───。







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