【再掲】第42話 湯上がり美人二人
◇
足をいっぱいに延ばせる湯舟が快適過ぎたせいか、のぼせる手前まで浸かり続けて頭がぼんやりとしてきた。
溶けだしていった疲れよさらば、このまま浸かり続けていたいけれど、気持ちを切り替えて湯上がってしまう前にここから抜け出さないとね?
先ほどから口数が減ったウィラに向かって時折、視線を向ければ同じくしてあたしと目が合い、笑みを浮かべるもどこか熱いものが漲っているような気がした。
もしかしたら、どちらが先に上がるか?……なんてね、知らないうちにサイレント・バトルが始まっていたのかもしれないが、もしそうだとしてもさ、あたしはここで降りるよ?
己を知り彼を知れば百戦危うからず、孫子の一節だったかな?
このまま謎の我慢大会に付き合ってのぼせてしまったらさ、全裸のまま担架で運ばれてしまいかねない未来が見えるし、そもそも190cm近いあたしが、担架に収まりきるのかさえ怪しいんだ。
いつまでもあたしとウィラが浴槽に浸かっていたらさ、ただの迷惑にしかならないし、ここで自身の愚かさを思い知るなんてアホ過ぎるだろ?
だからさ、ほどほどで降りると決めて、あたしは立ち上がった。
「ナギ~! うちの勝ちやな~?」
やっぱりというか、妙に口数が減ったかと思いきや、いつの間にかあたしと戦っていたのかよ?
勝利の女神が微笑んで喜びひとしおな余韻に浸ったのか、顔だけでなく全身までもを薄紅色に染め上げながら浮かべる笑みは、無邪気さの中にほんの少しの狂気を垣間見る。
おそらくウィラは、何か一つのことに没頭するタイプなのか、または意外と辛抱強いよか、あるいは譲れないことがあれば絶対に曲げないタイプなのかもしれないね?
あたしは特になにか没頭するタイプではないし、辛抱強い訳じゃないものの、譲れないときは絶対に曲げない頑固なところと言うか、似た者同士だから親近感を覚えるけどさ……流石に長風呂で倒れたら元も子もないぜ?
「おいおい~、いつの間にか勝負していたのかよ~? 今回はお前の勝ちでいいけどさ~、お望みなら今からサドンデスでもするか~?」
「あ~、そら遠慮しときますわ~」
「「HAHAHA~!」」
さて、ものわかりの良いウィラのおかげで、我慢大会の延長をする必要もなく、一緒に湯舟から上がればふわりと揺らぎ、あたしらは互いに支えあいながらカランの前へ。
少しぬるめに調整した上がり湯をかけて、火照った身体を湯冷めしない程度に整えた後、タオルで身体を拭いては絞ってを繰り返し、脱衣場から見る富士山の壁画の眺めを改めて一瞥。
ああ、いい湯だったよ───。
◇
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