【再掲】第41話 溶けていくように







  まるで大型犬を洗っているかのような、ウィラの豪快なシャンプータイムに呆気をとられ、桶に満たしたお湯でこれまた豪快に流すものだから、見ていてとても気持ちいいものだった。


 その間、女の子らしさというジェンダーの壁を乗り越えたウィラは、高貴な日独クォーターの狐顔美人の関西人の見た目から、豪快さはなんとなく関西人らしいと言うか……なにも知らなければ想像を越えたギャップを前にして、驚きを隠せないことであろう。


 もちろんあたしもさ、どこからか湧いてくるワクワク感を覚えると同時に……ほんの少しだけ、女の子らしさと言う自覚は……あたしの方が少しだけ多く持っていると感じた五十歩百歩。


 ウィラに気を取られて手が止まっていたあたしは、洗髪をさっさと再開して流し、水気を切ってからおまちかねの広い湯舟へと足を入れて……うん、いい湯加減だ。


 そのままゆっくりと、最高の湯加減の湯舟に全身を委ねた。


 あたしに続いてウィラも湯舟に足を伸ばし、爪先で湯加減を確認。


 なんら問題もなかったようで、同じくしてそのままゆっくりと全身を委ねたのだ。


「ふっふっふっ~、ナギ~?」


「なんだ~? 足を延ばせて最高ってか~?」


「せやで~、牛久大仏なあんたもな~、広々とした湯舟で足延ばせるんやからな~、そら最高やろ~?」


「ああ~、とっても快適だぜ~? 人が少ない時間でよかったな~」


「せやな~、あんたが湯舟に入ったらそら~……入湯料が足りんとちゃいますか~?」


「「HAHAHA~!」」


 ああ、今はあたしとウィラで湯舟は貸し切り状態だからさ、ゆっくりと足を延ばせて最高に快適なひとときを過ごしている。


 ウィラの言う通り、あたし一人分の入湯料では足りないぐらいの満足感を得られているのだからね?



 相変わらずウィラと言葉を交わす度にあたしらの声は残響し、湯舟に浸かりじんわりと身体の芯から温まってくれば、一旦は会話が途切れる。


 とても濃密な一日の疲れが溶けるように抜けていくと共に、頭が少しぼんやりとしてきたからなのか、口数は減ったけどウィラからの視線は相変わらずだ。


 さりげなくボディタッチも増え、少しずつ大胆になってくるけど、ちっとも嫌な気分にすらなりやしない。


 ウィラの好奇心に付き合うための銭湯へ来たようなものだし、成長して思春期になった故、愛する家族とすら裸のスキンシップをしなくなって久しいからね……少しだけ、あたしの中にあった寂しさも溶けていったのさ。


 ……さ、そろそろ上がろうか。


 これ以上浸かっていたらさ、のぼせてしまいそうだよ───。







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