【再掲】第40話 大型犬のように
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ウィラはあたしに合わせてくれているのか、それともあたしと合っているのか、不思議なぐらいにお風呂のルーティーンが同じらしく、身体の洗い方なんかはまるで利き手が違うだけの鏡合わせのようだった。
クレンジングミルクを使うタイミングもそうだし、顔中を泡だらけにした洗顔タイムも終わり、流し終われば洗髪……おいおい、あたしらは前世で姉妹だったか?
思わずウィラの方へと顔を向ければ、同じことを考えていたのか、お互い鏡合わせな動きに笑いがこみ上げてきた。
生まれたままの姿、メイクも落として本当の意味でありのままに笑い合い、あたしたちの声は浴場の中を木霊し、まるでライブのように残響するのだ。
「ナギ~、あんたすっぴんでそれか~? うち負ける気せえへんけどな~、そら反則過ぎるんとちゃいますか~?」
「ウィラ~、そういうお前も反則級にかわいいすっぴんだな~? ところでさ~、背中の羽根はどうしたんだ~?」
「なんや~、そらうち天使やからな~? ナギぃ~、それあれやな~、ラテンのナンパとちゃいますか~?」
「ああ~、ペテン師のお前にはお似合いだろ~?」
「せやな~、って~、"ペ"はいらんっちゅうねん~!」
「「HAHAHA~!」」
今日の学校でなんら咎め立てられることは無かったものの、やっぱりあたしらはそういう年頃だからさ、メイクを覚え始めていてもおかしくはない。
ウィラもメイクをしていたのは意外だったけど、すっぴんの言葉どおり、素でべっぴんさんでさ、まるで本当に地上に降りた天使みたいだから、ついついラテンの口説き文句が頭に浮かぶのさ。
あたしと同様、両親から授かったギフトに恵まれているね。
「全く~、ペテン師でも天使でもなければさ~、唯一無二のべっぴんさんってか~?」
「そういうべっぴんさんのあんたに言われてな~、そら素直に嬉しいわ~」
「ああ~、マッツにそっくりな親父さんに感謝だな~?」
「……ナギぃ、なんでそれ知ってるんや~? そらうちのおとん、マッツにそっくりなんやけどな~、なんや~? あんたエスパーかなんかとちゃいますか~?」
数ヵ月前、入試終わりに家族と食事をしていたときのこと。
ノイマンさんという関西弁を喋るドイツ貴族っぽい、何の仕事をしているかよくわからないけどマッツにそっくりな人の話題になり、その一番上の娘さんがあたしと同じく、東方共栄学園の入試を受けるっていう話題があったんだ。
そして入学したあたしは、ウィラ・フォン・ノイマンと知り合い、まるで前世からのご縁でもあったかのような、出会ったその日から急速に仲良くなり、既に親友そのものと言ってもいいぐらいだ。
裸の付き合いもこの通り、まるで仲のいい姉妹のように同じお風呂ルーティーンでゲラゲラと笑い合うぐらいだからね。
本当、今日はなんとも不思議な一日だよ。
「まっ~、夜はまだまだこれからだからさ~、それはあとのお楽しみだぜ~?」
「せやな~、ほんならさっさと頭洗って湯船に浸かりましょか~」
そうと決まればあたしとウィラの動きは早く、シャンプーをワンプッシュして手で泡立てて……ああ、どういう訳かさ、あたしに向かって盛大に泡が飛んでくるからさ、思わずウィラの方へと振り向いたのさ。
前言撤回、あたしとウィラのお風呂ルーティーンは、その途中までは同じだったけれど、髪の毛の洗い方だけは違うらしい。
ウィラはそうだな……なんと言うか、とても豪快だったんだ。
きっとお狐様の化身なのかもしれない……まるで大型犬を『わしゃわしゃ』とシャンプーしているみたいな豪快さだったからさ、あたしは間違えて男湯にでもワープしたのかと思ったぜ? HAHAHA!───。
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