【再掲】第39話 笑えば広がる石鹸の味







  綺麗に隙間なく積み上げられたケロリン桶とお風呂椅子を一つずつ、タオルを持ったままの手で取り、どこから取ろうか迷っているウィラを置いて排水溝の最上流に位置するカランを確保。


 ウィラの声がまだ少し遠いのは、まだ迷っているからなのか、振り返ってみれば……おいウィラ、なんでしゃがみこんで観察しているんだよ?


 ケロリン桶はジェンガじゃねえぞ?


「ウィラ~、遊んでないで上から取れよ~?」


「ナギぃ~、うちは遊んでいるわけとちゃうねん~。あれや~、これうちが思てたよりも大きい気がすんねん~。せやから気になって観察しとるだけやで~?」


 しゃがんで背中越しに語るウィラは、まるで蟻でも観察しているファーブルさながら、気になったら自分の目で確かめたいタイプなのかもしれない。


 少ししてから満足行くまで観察出来たのか、ジェンガのようなマネをすることなく、ケロリン桶とお風呂椅子を最上段から手に取る取る良識は持ち合わせている事に一安心。


 良識はそのまま、ゆっくりとあたしの隣に掛けたウィラは、カランの使い方がわからない様子。


 不思議そうな表情であたしに向かってアイコンタクトを取り、レクチャーをお待ちかねのようだ。


「ここは昔ながらのやり方だからさ~、赤はお湯~、青は水がそれぞれ押すと出てくるから~、桶に入れてちょうどいい温度を探してくれ~。お湯は結構熱いかもしれないから気を付けろよ~?」


「Ja~! せやけどな~、言うてそんなん熱いもんとちゃうやろ~?……って~、熱っ~!?」


「言ってるそばからなにやってんだよ~?……って~、熱っ~!?」


「「HAHAHA~~!」」


 あたしとウィラは銭湯の洗礼を受け、お互いに四苦八苦しながら調整し、ようやく丁度いい湯加減を探し当てることが出来た。


 こうなればあとは簡単だ。


 まずは頭から豪快にかけ流し、再びケロリン桶にいい案配のお湯で満たしては流し、瑞々しくほんのりと身体が火照ってくる。


 浴用タオルをケロリン桶に満たしたお湯で濡らし、絞れば全身を洗う準備は整った。


 絞った浴用タオルにボディソープを垂らし、根気よくしっかりと泡立てたら、まずは首から軽く擦り、耳周り、上半身、下半身の順に身体を洗っていく。


 全身を隈無く洗い終われば、またケロリン桶に満たしたいい案配のお湯で流し、次はクレンジングミルクで皮脂汚れと薄化粧を落とせばいよいよ洗顔の時間だ。


 洗顔用泡立てネットを手に取り、お湯で湿らせてからほんの少しの洗顔フォームを垂らし、入念に泡立ててから……ああ、あたしの隣に掛けるウィラがさ、物欲しそうな笑みを浮かべながらツンツンと泡をいじるものでさ、なかなか微笑ましいだろ?


「ウィラ~、お前も使うか~?」


「せっかくナギが泡立ててくれたんやからな~。そら使わなもったいないやろ~?」


 確かにウィラの言う通りでさ、せっかく作っても全部は使わないんだよな。


 ウィラに泡立てた洗顔料の半分を譲れば丁度いいもので、普段からどうしてここまでたくさん作ってしまうのか?


 未だに丁度いい分量がわからないんだよな。


 二人揃って顔を泡だらけにし、鏡に映る自分の姿に大笑いするウィラのおかげで賑やかなもので、あたしも釣られて笑ったらさ、盛大に口の中が石鹸味に満たされて参ったものだよ? HAHAHA!───。







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