【再掲】第35話 it's a small world








  銭湯までの道のりをウィラと二人で歩き、終わりの見えない掛け合いをしていればあっという間に到着し、古きよき昭和の香り漂う銭湯の外観に沸き立つものがあるのは、日本人のDNAがノスタルジーを感じているからなのだろうか?


 それとも……古きよき昭和の香りが充満する建物と言うことは、あたしにとって嫌な予感しかしない……仕切りの高さは果たして意味をなすのだろうか?……おい、なんか銭湯から出てきたおじいさんがさ、驚いて腰を抜かしていないか?


「ナギ、ボーッと突っ立って人を驚かせてもしゃあないやろ? はよ入りましょか」


 ああ、考えすぎていても仕方ねえ、とりあえず入ろうか……えっと、下駄箱にあたしの好きな数字はないかな?


 特に迷う理由もないけどさ、なんとなく好きな数字の札があったら嬉しいよな?


「ナギ、これどないすればええねん?」


 ウィラの方へと向けば、手にサンダルを持ったまま困った様子。


 どうやらこのタイプの下駄箱は初めてらしいので、手取り足取りと教え甲斐があるものだ。


「ああ、木の札が入っている下駄箱を開けるだろ? そこに入れたら閉めて札をとる。そうすれば鍵がかかるって訳さ?」


 手本を示せばウィラは感心し、あたしと同じく下駄箱にサンダルを入れてから札を取った彼女は、あたしを見上げながら何か言いたげな模様だ。


「めっちゃシンプルやな? そらええんやけど、うちの誕生日を取られてもうたわ」


「誕生日? ああ、23日か?」


「せやで? うち12月23日生まれなんや。せやから23でええかなって思ったんやけど、ナギに取られてもうたからな、ほんなら足して35でええわ」


「おいおい、あたしもお前と同じ考えだぜ?」


「そういやあんた、今月19日が誕生日言うとったな? ま、そらうちら気が合うっちゅう訳やな」


「「HAHAHA!」」


 下駄箱一つでこの盛り上がりだからさ、果たして湯船に漬かれるのはいつになるのやら?


 いつまでもこんなところにいても邪魔だからさ、早く入ろうk『Bamp!』


「Birth! 痛ったあ!!」


「ナギ!……大丈ぶふっ! HAHAHA! あんたもうなにやっとるんや?」


 ああ、目の前の引き戸を引いて入ろうとしたけどさ、it's a small world……昔ながらの建物の構造だからか、あたしには小さ過ぎるし、建物からしたら想定外に等身が合わねえからさ、盛大に頭をぶつけたんだよな?


 ったく、痛たたた……ああ、どうもこんばんは。


 番頭のおばちゃんが驚くのも無理はないけどさ、女湯の脱衣場からの視線だけでなく、あたしの等身のせいで仕事を為してない仕切りと番頭台の隙間から見える、向こう側にいる男湯のおっさんたちも驚いて一斉にこっちを見るものだから、こりゃ恥ずかしいぜ?


「……ああ、こんばんは。大人二人で」


 何事もなかったかのように振る舞ったけど、ウィラは笑い転げているし、こりゃ参ったね?───。






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