【再掲】第34話 銭湯準備はいいかい?







  今日の大半を共に過ごした制服はお役御免となり、明日また袖を通すまではしばしのお休み。


 Tシャツとパンツのラフなコーデに着替えたあたしとウィラは、未だに夜は冷えるからパーカーを羽織り、それぞれお風呂セットを用意すれば準備完了だ。


 さて、近くの銭湯を利用するのは初めてだけど、タオルの貸し出しがあるのかわからないから、念のためフェイスタオル、バスタオルをウィラの分も含めて用意した。


 同じく備え付けのシャンプー、ボディソープ等もあるのかわからないので、こちらも持ち込みした方が無難だろう。


 ウィラの好みはわからないけど、今日はあたしと同じものを使ってもらおうか。


「ナギ、うち温泉は行ったことあんねんけど、銭湯は初めてやからめっちゃ楽しみやで!」


 銭湯までの道すがら、まるで遠足に行く子供のようにウキウキなウィラの様子は、ただ隣にいるだけで思わず顔が綻んでしまうぐらいにかわいいものだ。


 銭湯に着いたら果たしてどんな反応を見せてくれるのか、楽しみである一方ではしゃぎすぎないかちょっとだけ心配なのは、ウィラの言うようにあたしがおかんのようなものだからか? HAHAHA!


「ああ、ここの銭湯は初めてだからさ、富士山の絵を見れるかはわからないけど、昔ながらの雰囲気を味わう分には悪くないぜ?」


「そら楽しみやな。すっぽんぽんで広い湯船で脚伸ばせるんやったらな、そら開放的やから富士山に拘らんでもええし、なんならここにチョモランマが二つあるんやから問題あらへんで?」


「ウィラ、富士山の絵と比べたらさ、あたしのチョモランマはそこまで大きくないぜ?」


「「HAHAHA!」」


 さて、このまま目的を散歩に変更して、ウィラとの掛け合いを楽しむのもいいけど、それじゃあ営業時間に間に合わなくなるかもな。


 まだまだ夜は冷え込むし、銭湯についたらありのままの姿になってさ、他のお客さんの迷惑にならない範囲でお湯をかけ合って、広い湯船に浸かって温まろうか。


「銭湯行ったらなぁ~♪

ナギのチョモランマがみれるんやでぇ~♪」


 いや、ウィラがご機嫌なまま歌うのはいいんだけど、妙にこぶしが聞いている上におっさん化したものだからさ……このまま道端のパフォーマーに仕立て上げて置いていこうかな?


「おいおっさん、ご機嫌なのはいいけど……なんだか随分と変わったパフォーマンスだな?」


「そらな、ナギと一緒に銭湯行くんやから当然やろ?……ちゅうか誰がおっちゃんやねん? そらな、染色体で言うたら一本しか違わへんやろ? せやからな、うちらの中におっちゃんが住んでても別におかしい話とちゃうで?」


「……等と意味不明な供述をしており、現在も取り調べが進められております」


「いや、うち捕まっとるやん!」


「「HAHAHA!」」


 全く、楽しいのはいいけどさ、これじゃあまるでキリがないし、営業時間は何時までかは知らないけど先を急ごうか。


「さ、いいから行くぞ?」


「Ja!……って、ナギ! 歩くの早すぎや! あんたに貸してもろたサンダルな、デカ過ぎてちょっと歩き辛いわ!?……いや、まああれや、これやったら窮屈せんでええし、ありがたく使わせてもらっているうちが言うのもあれやけど……」


 やっぱりあたしの足のサイズ、デカイよな?……29cmだからさ、なかなか売ってねえんだよ……特に女の子らしいかわいいものとかね?


 おかげで男性用の大きいサイズのサンダルが丁度よくてね?


「悪い悪い、それしか用意してないからさ、勘弁してくれよな?」


「ナギはなんも悪くありまへんわ。ま、そう言ううちもな、26cmやから女子にしては大きい方やろ? スニーカーとかやったらもう男子のサイズで買った方がええしな」


「そうだな、お互いに苦労してるね? おかげでいい靴を買うならさ、オーダーメイドのハードルは下がるよ」


「そら世界で一つだけの靴を作ってもらえるんやからな。せやけど流石にこのサンダルはちゃうやろ?」


「ああ、いわゆる便所サンダルをオーダーメイドしたことはないぜ?」


「「HAHAHA!」」


 ウィラにはちょっとぶかぶかで歩き辛そうだけど、今日だけは我慢してくれよな?


 さて、歩みを進めていけば目印である大きい煙突が、だんだんと近付いていけば圧巻されるように、威容と共にノスタルジックな昭和の香りを放っていた。


 JKのあたしらにとっては、ちょっとしたタイムスリップと言うか、非日常的な舞台そのものだろう。


 ま、なんと言うかさ、目的地を目の前にしてドキドキするのって……あれか、やっぱり花も恥じらうって奴?……ま、出会った初日で裸の付き合いってなればそういうものかもな?


「ナギナギナギ! 銭湯言うたらな、ケロリン桶はあるんかいな?」


「さあ? いかにもありそうな雰囲気だし、あるんじゃねえか?……知らんけど」


「知らんのかーい! ま、言うて入ってみてのお楽しみやな?」


「おい、どこ見て言ってんだよ、おっさん?」


「「HAHAHA!」」


 ケロリン桶があるかはわからないけどさ、やっぱり銭湯と言えばってぐらいに定番だよな。


 ウィラの様々な邪な願いが叶うかは知らないけど……あ、そうだ、こいつ財布持ってたっけ?


「ウィラ、お前入湯料ぐらいは払えよ?」


「そら大丈夫や、なんならうちの身体で……」


「安っ!!」


「「HAHAHA!」」───。











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