【再掲】第32話 シリアスブレイカー
◇
ウィラの邪な願いを叶えるべく、簡単なクイズを出題した私は、ボケとツッコミの掛け合いで大笑いしたのもつかの間……ああ、あの時は若かったと言うか、まだ幼稚だった時の出来事をついうっかりと口を滑らせてしまったんだ。
「ナギぃ? 今はもうそんなんやっとらんやろ?……そらな、色々あったかもしれへんけど、あんたがいくらヤンチャやった言うてもな、どっから足が付くかわからへんし、なにかあってからやと遅いんやからな?」
中学時代はさ、色々と嫌なこともあったし、荒れてた時期もあったもんだからさ、まさに中二病の如く……単車や車で駆け抜けたのさ。
本当、今にして思えばなにをやっているんだ?……って訳でね、クイズから一転、ウィラからお叱りを受けているのさ。
「ナギが急にいなくなるような事があったらな、うち……悲しくなるやろ? せっかくナギと仲良くなれたんやから、そんなんでうちに寂しい思いをさせたらあかんで?……ナギ、うちはそん時のあんたの気持ちはわからへんけどな、今のあんたにやったら寄り添うぐらいは出来るで?」
お叱りと言うか、本気で心配されているのが伝わってくるものでさ、あたしはただ黙って受け止めるだけ。
「ナギぃ? 別にうちは怒ってる訳でもあらへんし、詫びろとか言うわけやなくて、なんも答えんでええんやけどな……ナギ、あんたがうちの言うことわかってくれるんやったらそれでええねん」
説教臭いクソッタレな正義感を振りかざすわけでもなく、ただただ純粋にあたしの事を心配してくれるウィラ……もし、もっと早く出会えていたらさ、あたしは中学時代にもっといい思い出で彩られたのだろうか?
それとも、辛いと思う出来事を乗り越えたからこそ、クソッタレなジーザスクライストの気まぐれ、ちょっとしたご褒美なのかはわからないけど……あたしはさ、ウィラに出会えた事でさ、ようやく青春の一ページを刻めると喜んでいるんだ。
だからさ、言葉にするのは恥ずかしいけど……ウィラ、お前に出会えて本当によかったよ……。
「ナギ? ごめんな?……うち、ちょっとわがままやったかな?……せやけどな、ナギが変なことして会えなくなるとか嫌やからな?……ナギぃ……」
これ以上、ウィラの真剣な顔を見てられないよ……泣きたくなるからね?
だからさ、あたしの精一杯の答えはさ、言葉にするのは難しいって言うか……優しく抱きしめる、さっきよりも少しだけ強く……ただそれだけなんだ。
「ナギぃ……あ、さっきのクイズなんやけどな」
「おい、しんみりした雰囲気はどこいった?」
「そらあんたが言う、グアムやらサイパンやらにでも旅立ってもらえばええやろ?」
「ああ、今度はいつ帰ってくるんだろうね?」
「お土産持ってきてくれるんならいつでもええやろ?……知らんけど」
「「HAHAHA!」」
「で、このしんみりした空気をぶち壊すのはいいけどさ、まあそれはいい……気を取り直して、富士山を見れて、お前の願いが叶う場所の答えを聞こうか?」
ちょっとシリアスな雰囲気の出番は終わり、ウィラのいたずらな、それでいて眩しい笑顔がたまらないね?
ちょっと小突いてやりたいぐらいだけど、流石にそれは解答次第ってことにしようか?
さ、お前には簡単すぎる問題だろうけど、どんな答えを出してくれるかな?
ほんの少しだけ、間を置いてから口を開いたウィラは、眩しい笑顔のままにこう答えた。
「答えは銭湯、やろ?」
「ああ、正解だ」
「やったー!! ナギの生乳が見れるで!!」
眩しい笑顔そのまま、ぴょんぴょんと跳び跳ねて喜びを表す様は、まるで子供のようで見ているこっちからしたら微笑ましいね?……言ってることはただのおっさんだけどな!───。
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