【再掲】第28話 two fates








  生きる上で必要な食事は、同時に最高の娯楽の時間でもあると感じるのは、一緒に食べてくれる人がいれば同じメニューなのにも関わらず、不思議とよりおいしくなるからであろう。


 今日出会ったばかりのウィラと一緒に食卓を囲めば賑やかなもので、それまでは当たり前だった家族の団欒と言うのか、まるで妹が出来たようなものだからさ……家族と一緒に過ごしていた日々を思い出すね?


「ナギ、このお揚げさん、もう一個もらってもええか? ナギの作るご飯がおいしいんやからな、全然箸が止まらへん」


「それは嬉しいね? 沢山あるからさ、遠慮せずに食えよ」


「ふっふっふっ、ほんまおおきに!……うまっ、ほんまナギは料理上手っちゅうか、もう店やろ?」


「随分と賑やかな客人だね? 持て成し甲斐があるぜ?」


「せやろせやろ? そらナギの作る料理が美味しすぎるんやからな、もうここに住んだろか?」


「「HAHAHA!」」


 こんな調子で褒められっぱなしだからさ、いっそここに住んでくれたらとも思うよ?


 そうしたらさ、あたしは寂しくもないし……いや、ちょっとうるさいからご近所さんは苦笑いかもな?


 ま、なんだかんだ明日からもこんな調子でさ、ウィラがしれっと上がり込んでご飯を一緒にする日常になりそうな予感だけど、それはそれで望むところだね? HAHAHA!


「ナギ、おかわりや!」


「はいよ、もう三杯目だぜ?」


「そらナギの料理が美味しすぎるんやからな、あんた鉄人倒せるんとちゃうか?……いや、その前にうちを太らせてどないするつもりや?」


 ウィラがさ、満面な笑みを浮かべて何度おかわりを要求するものだから、余ったら明日の弁当にするかと考えて、多めに炊いたのにも関わらず、もう炊飯ジャーの中身はすっからかんだぜ?


 本当、こんなにもおいしいと言いながら食べてくれてさ、あたしは嬉しくてさ……普段以上に沢山作ったのにも関わらず、おかずまでもが殆どなくなったからさ、こりゃ明日も学食だな?


 ちょっとあたしの予定を狂わしてくれたものだから、少しぐらいは冗談を言わせろよ?


「ああ、そりゃあもう……」


「ナギ、冗談言うたらあかん……ってか、あんた目がマジやから!? そんなん言うてもうち、まだなんも心の準備が出来とらんし……いや、もう胃袋掴まれてもうたからな、それでもええんやけど……」


 あたしが真面目な顔しながらトーンを落とせばさ、この通りかわいい反応を見せてくれる訳さ?


 ウィラ、お前がなにか言う度にあたしの嬉しい気持ちを満たしてくれるばかりか、あまりにもかわいい反応をさ、いちいち見せてくれるものだから……照れ隠しにちょっとからかいたくなる気持ちも理解してくれよな?


 ま、冗談も程ほどにしないと、歯止めが利かなくなりそうだよ、全く……。


「……冗談だよ?」


「……ナギぃ? このままうちを太らせて食べるのはかめへんけどな、マジなトーンで言われたらそら……ドキドキしてまうやろ?……あ、おかわりは貰うで?」


「「HAHAHA!」」


 賑やかだった食事の時間は、用意したもの全てが平らげられた事によって、お互いに満足感と余韻に浸ったまま、どちらからともなくご馳走さまの挨拶をすれば、食器を下げてから一杯のお茶で〆に入った。


「ナギ、あんた料理だけやのうてお茶入れるのも上手いんやな?」


「ありがとう、あたしのマミーに感謝してくれよな?」


「ほんまええ家族なんやな? うちも負けておらへんつもりやけど」


「ああ、おかげでいいご縁に恵まれたのさ?」


「そらそうよ、ほんまにええご縁や……うち、ナギと出会わんかったらこんなんありえへんで?」


「ああ、本当……不思議な一日だったと言うか、運命ってやつ?」


「せやな、運命かもしれへんな? そら入学初日、ナギと出会って仲良くなってな……そのままお泊まり会やろ? うちらすごない!?」


「ああ、まさかこうなるとは想像すらしてなかったよ?」


「「HAHAHA!」」


 朝の通学路で初めて出会ってからさ、ここまで仲良くなれるなんて……本当、信心深くはないけどさ、まるでなにかに導かれたかのようだよ。


 さて、お茶もすっかり温くなってきたな。

そろそろ洗い物を片付けようか……ああ、それでもまださ、あたしらの一日は終わってないぜ?───。







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