心を込めたディナーを君と

【再掲】第26話 向かいは雀荘?








  夕食を含めた、向こう一週間ぐらいの食料品の買い物に付き合ってくれたウィラは、あたしの住む『メゾン サルゴ・リラチンパンジー』まで運ぶのを手伝ってくれた。


 この流れからして当然のように、ウィラを家に上げたのは言うまでもなく、とりあえずお茶の一杯ぐらいは出さないとね?


「麦茶なんていつぶりやろ? いやー、一仕事したあとの一杯は最高やな。あっ、ナギ! おかわりしてもええか?」


 いい飲みっぷりと言うか、豪快さとかわいらしさを併せ持っていてとても絵になるウィラが、麦茶を飲み干す度に注ぎ入れれば、あっという間にボトルは空になっていった。


 あたしも一日一本は飲み干すから、また明日の分も含めて多めに作らないとね。


「ナギ、あんたほんまに料理上手なんやな。勝手に冷蔵庫の中、見てもうたんやけど……めっちゃおいしそうやし、なんちゅうかあれや、ナギ、お願いがあるんだけどええか?」


 ああ、どうやら昨日炊いた厚揚げに目を奪われたようで、この流れだと賑やかな夕食の時間になりそうだね?


「ま、ここまで付いてきてもらってさ、夕飯に誘わないのも失礼だろ?……よかったらさ、あたしと一緒に夕飯を食べないか?」


 答えは聞くまでもないだろうけどさ、ウィラがご機嫌そのものな笑顔の花を咲かせる訳で、あたしの腕を振るう機会が早速やってくるって訳さ?


「ごちそうになります!」


「本当、素直でかわいいな?」


「そらうちがかわええのは当然なんやけど、ナギの手料理を食べたいに決まっとるやろ? 帰ったらうちも一人なんやから、それやったらご相伴あずかりますわ!」


「なんなら泊まっていくか?……いや、冗談だよ?」


「ナギ……今そんな冗談言うたらあかんわ……うち、本気にしてまうで?」


 なんとなく、そんな流れだと思ったけれどさ、あたしとしては本気にしてもらって構わないさ。


 今さら一人って言うのも寂しいし、なんだかんだでもうすっかり暗くなったからな。


「いいよ、泊まっていけよ?……ああ、着替えとかはちょっと大きすぎるけど……」


「やったー! ナギ! 着替えとか心配せんでもええで? うち、すぐそこっちゅうか、真向かいやからな?」


「思ったよりも近いんだな? えっと、お前の住んでいるところって……」


「そこの『緑一荘』やで? なんか中国語っぽい読みやけど、サルゴ・リラチンパンジーと比べたらな、そらそんなインパクトなんかあらへんで?」


「いや、雀荘かよ?」


「「HAHAHA!」」


 緑一荘って名前からすれば麻雀の役、緑一色を連想するよな?


 あたしの住んでいる『サルゴ・リラチンパンジー』もそうだけど、どうして変わった名前の物件がこうも集まるものか?


 とりあえずウィラの帰りの心配、および着替えのことも気にする必要はなくなったから……ああ、まだまだ夜はこれからだね。


「ほんじゃナギ、うち、明日の準備と着替え取ってくるから」


「ああ、いってらっしゃい。早速夕飯の準備をしておくぜ」


 ウィラをいったん見送り、戻ってくるまでの間、どこまでもてなす用意が進められるかな?


 ま、今日ぐらいはタイムセール品を含めて食材がふんだんにあるし、メインはチキンステーキ、もやしはナムルにして、油揚げと小松菜で味噌汁……よし、それじゃあ早速、あたしの腕の見せ所だね?───。









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