帰り道ふざけて歩いた

【再掲】第19話 スクールバス・イエローに恋して








  小幡と別れたあたしは、ウィラと一緒に駅の方へ向かって歩きだした。


 関西弁を喋る日独系の狐顔美人でどこか庶民的なお嬢様は、いったいどんなところに住んでいるのやら?


 ウィラと同じで駅の方って言っても、あたしは電車に乗らないし、駅近の『メゾン サルゴ・リラチンパンジー』までしばしの旅の道連れか。


「ナギー! 今日はほんま偉い目に遭ったなぁ。あんたの人気ぶりはわかるんやけど、なんでうちも人気やったんやろ? やっぱあれか、うちがかわええからか?」


「お前がかわいくて性格が悪いのはわかる。ま、あたしは見ての通りだけどさ、お前も女子にしては背が高いし、フォレスト・ガンプみたいに脚速いだろ?」


「いや、性格悪い言うのは余計や! あんたも大概やで!?」


「「HAHAHA!」」


「違いない。ま、脚速いとモテるらしいって言うらしいからね?」


「そら小学生までの話やろ?……あれか、運動部ってそういう発想っちゅうか、いつまで童心のままやねん? もう高校生やろ!」


「「HAHAHA!」」


 おかげで駅までの道のりが賑やかなもので、下校時間が楽しいと思ったのはいつ以来だろうか?


 小さな頃に過ごしたステイツ時代はさ、送り迎えが当たり前だったからね。


 キンダーガーデン(幼稚園。アメリカの場合はここから義務教育の始まり)に行く時の車の中では、忙しい朝にも関わらず愛する家族は寝ぼけ眼のあたしに語りかけてくれて、キンダーガーデンに着くまでがあっという間でさ……ああ、名残惜しくてまるで地蔵のようになっていたな。


 帰りはさ、迎えにきた家族と車の中で今日はどんな出来事があったかを拙い言葉でいっぱい語ろうとしてさ、気付いたらあっという間に我が家だったな。


 ああ、懐かしい……。


 ま、あたしのステイツ生活は、スクールバス・イエローへの憧れを置き土産にした、いわゆる帰国子女って訳だからさ、いつか機会があったら……その時はステイツのスクールバスに乗ってみたいものだね?


 ま、今ではすっかり慣れたものだけど、こっちに来たら歩きが当たり前だったから驚いたものだよ?


 まだ日本語が下手くそだった小学校時代はともかく、成長期、思春期真っ盛りで色々と複雑な中学時代はさ、登下校であたしと一緒に並ぼうとする奴は、ごく一部の変わり者を除いて殆どいなかっただけに……あの時は本当に寂しい日々を送ったものだよ。


 寂しかったけどさ、ほんの一掴み程度ぐらいの楽しい登下校……ああ、いくら思い出しても駄目だ。


 登下校でこういう気分になったのはさ、多分生まれて初めてかもしれないね?


 だからさ、今になってようやく……ウィラ、お前と知り合って当たり前のように一緒に下校するなんてさ……あたしはすげえ嬉しいんだ。言葉にするのは恥ずかしいけどな? HAHAHA!


「ウィラ、おかげで初日から救われたよ。お前は天使か?」


 なんてね、くさいこと言ったら余計に恥ずかしくなってきたぜ?


 全く、あたしはなにを言ってんだって?


「おお、バレてしもうたらしゃーないな! せやで、うちは天使やからな?」


 ああ、最高に眩しい笑顔をありがとう……だが、恥ずかしいから前言撤回だ。


「あ、いや、ペテン師だったわ」


「せやな……って、なんでやねん!」


「「HAHAHA!」」


「ナギ! あんたはなにを言うとるんや? うちのどこがペテン師なんや? ほな、はっきり言うてみ?」


「ウィラ、お前は都合の悪いときだけドイッチュラントだろ?」


「せやで? おかげで悪い虫なんか寄ってけぇへん」


「「HAHAHA!」」


 ま、ウィラもウィラで苦労しているからこそ、そう言う処世術を身に付けている点においては、あたしとなんら変わらないな。


 そうだ、ドイッチュラントと言えばウィラのギフトである、少し癖のある天然アッシュブラウンの毛色をさ、いちゃもんを付けられていないか心配だね?


「それは便利だな? ところでウィラ、お前髪の色でなにも言われなかったか?」


「これか? 地毛やで? ええ感じのブラウンやろ?」


「なるほどね、羨ましい限りだ」


「あげへんで?」


「出家したくなったら貰ってくぞ?」


「「HAHAHA!」」


 ああ、本当に艶やかで美しいよ。


 一方のあたしは……今はそうだな、黒髪ショートのオールバックだ。


 面倒くさがり屋なあたしらしさもあるけど、この身長だとロングはどうもしっくり来なくてね?


 中学時代は金髪にしていた時期もあったし、また髪を染めてみたいけど……ここの頭髪規定はどうなっているのやら?


「ナギ、あんたうちの髪をヅラにして売るつもりとちゃうか? あれか、羅生門の下人か? うちの髪、めっちゃ高いで?」


 ……羅生門?……下人?……こいつはいったいなにを言っているんだ?


 思わず立ち止まり、ポカンとしているあたしを不思議に思ったのか、ウィラも同じようにして立ち止まり、きょとんとした表情がたまらないね?


「なんや、どないしたんや? 現代文の教科書に載ってたやろ?」


「……ああ、すまん、ネタがわからなかった。なんだ、もう教科書を予習したのか?」


「せやで? 一通り読破したからな、わからんとこあったらうちになんでも聞いてや?」


 おいおい、有言実行と言うのか、既に予習もばっちりってか?


 HAHAHA! 参ったね、こりゃすぐに頼る機会が来そうだね?───。






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