【再掲】第18話 beat it







  ホームランボールの行方はどうなったか?


 それは職員室の先生達に聞いてくれよな?


 打席に立たされたあたしにとって……いや、むしろソフトボール部にとっては災難だったけど、なんだかんだでいいガス抜きになってすっきりしたぜ?


 校門まで駆け抜けたあたしら三人の逃走劇はフィナーレを迎える。


 まるでランナーを歓迎するかのような、ゴールテープをいったい誰が引いたのか?


 あからさま過ぎる罠の匂いに思わず躊躇したあたしと小幡は減速するも、フォレスト・ガンプのように風となったウィラは、なんら躊躇せずにそのまま駆け抜け、堂々とゴールテープを切った。


 朝の時もそうだったけどさ、お前、脚速すぎだろ!?


「お見事だ! 君は絶対に陸上部に入った方がいいよ!?」


「Nein danke. Darum schaffe ich das zeitelich einfach nicht!(遠慮しとくわ。うちそんな暇とちゃうで?)」


「あー、それじゃあ世界大会でも目指す?」


「Leider kann ich Ihren Wünschen nicht entsprechen(残念やけどそれには応えられへんわ)」


 罠だろうがなんだろうが、あの手この手の勧誘をドイツ語でいなすウィラ。


 自己紹介の時から聞いていたおかげか、だいたい何が言いたいのかわかったような気がする。


 多分、日本語に直したらすげえシンプルなんだろうな。


 さて、このままドイツ語講座を眺めるのもいいが、キリがなさそうだから援護するぜ。


「Willa,I'll be going now!(ウィラ、そろそろ帰るぞ!)」


「Ja,Auf Wiedersehen!(はーい、ほなさいなら!)……NAGI! Vielen Dank für das Feuerschutz(ナギ! 援護射撃ありがとう!)」


 謎の外人ムーブで連携し、なんとか最後のトラップを突破成功。


 追撃ばかりか、わざわざゴールテープを用意して待ってまで熱心に勧誘するなんてね?

なかなかユニークだけど、あいにくあたしらは興味ないからPassさ……。


 ところで、ウィラがいったいをなに喋っているかはわからないが、多分礼を言われた気がするね。


 これには思わずあたしはニンマリ、一方の小幡はぽかんとするばかりだ。


 さて、いつまでも学校前にいたらまた勧誘されるかもわからねえ。


 そろそろ我が家が恋しくなるさ……ああ、「ただいま」と言っても家族が迎えてくれる訳じゃないけどね?


「ナギ、うちと一緒に帰らへんか?」


「おう、いいぜ……」


「なんや、どないしたんや? 昼までの元気はどこに行ったんや?」


「旅立った、今頃グアムのビーチでバカンスを楽しんでいるだろうよ」


「「「HAHAHA!」」」


「トラブル続きっすから、姐さんお疲れっすね」


 ジョークを言える程度の余裕があるけど、朝からトラブル続きだから疲れるよ。


 ま、ようやく帰れるとなれば気分は上向きになるだろうな。


「せやな、カズサちゃんはどっちの方から帰るんや?」


「私は学生寮だからすぐそこっす。近くて最高っすね……門限はクソッタレっすけど」


「「「HAHAHA!」」」


 小幡もあたしらと似たようなものか。

ウィラも明らかにこっちの人間じゃないし、越境組同士で仲良くなれたから今日はいい一日だったと思うよ。


 このままトラブルさえ続かなければね?


「あたしは駅の方だ」


「おないやな、ほんなら途中までご一緒しましょか」


「私はここでお別れっすね。それじゃ姐さん、フォンさんお疲れっす」


「せやからなんでミドルネーム呼びなんやって!? もうええっちゅうねん!」


「「「HAHAHA!」」」───。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る