【再掲】第15話 怒涛の勧誘







  そう言えば忘れていたことがあった。

さっきのチキン野郎事件の直後、どさくさ紛れに小幡が隣に加わって来たあたりからの話だ。


 快くチキンカツ定食3つをタダでもらい、なんとか攻略を進めている最中でもトラブルに見舞われるんだよな。


 ま、悪質じゃない分だけマシなのか、あるいは不要な善意の押し付けにうんざりするかの違いか……どちらにしても、あたしは格好の標的には違いなく、飯時を邪魔される訳だ。


「ねえあなた、バレー部に入らない?

あなただったら絶対レギュラーになれるよ!?」


「No,thank you」


「英語で誤魔化しても無駄だよ? 普通に日本語喋っていたでしょ? ねえ、あなたが入れば私達のインターハイも夢じゃないんだから!?」


「おい、バレー部だかレギュラーだか、お前らが夢見るインターハイだか知らねえけどさ……人の飯時を邪魔するようなさ、礼儀のなってねえ奴とあたしは一緒になりたくねえんだよ?」


「そっか……ごめんね、また改めて誘うね」


「Come when two sundays meet!(二度と来んなボケ!)」


 さて、飯時を邪魔されたけどさ、まあ再びおいしいご飯を食べれば苛立ちなんてどこへやら?


 ウィラと小幡は何故か笑いを堪えているけれど、あたしは別におかしいことは言ってねえぜ?


「姐さん、後ろ見るっす」


「ナギ、もう英語は使えへんな」


「あ? 今度はなんだよ…」


 二人に促されるまま、後ろに振り向けば謎の行列が……なんだ、あたしのご飯を分けてほしいのか?


 食券はあっち、受け取りカウンターに持っていけよな?


「バスケ部は君を必要としている!」


「あたしのピクニックにボールは不要だ。それとあたしの食事時をディフェンスするとは良い度胸だな?」


「ソフトボール部に入らないかい?」


「ああ、金属バットって最高だよな? それで、誰をやればいいんだ? 練習台になってくれるなら死なねえ程度に付き合ってやるぜ?」


「陸上部なら君に合う競技があるはずだよ?」


「体力測定を毎日やる趣味なんてねえよ」


「テニス部はどう?」


「あたしを王子様にするなって?」


「水泳部は?」


「だったら海女さんで稼ぐ泳ぎを教えろよ?」


「卓球部」


「人選ミスってる」


「剣道部」


「居合やってたから間に合ってる」


「空手部」


「今日は休め」


「柔道」


「ダディーにマーシャルアーツ習ってたから間に合ってる」


「カバディ! カバディ! カバディ!」


 ……ああ、最後の方はもう聞き流しながら、ご飯を食べ進めたよ。


 ウィラと小幡、お前らずっとあたしがあしらう度に笑いを堪えているものだからさ、ただ断っているだけなのに、なんかおかしくなってきてそろそろ限界なんだよな。


「はぁ……やっと終わったよ」


「ナギ、お疲れ様やで」


「姐さん、お疲れっす」


「全く、さっきから運動部しか来ねえし、いい加減にしろってな? ところでさ、なんで帰宅部は勧誘に来てくれないんだ?」


「「「HAHAHA!」」」


 ま、勧誘地獄もようやく終わって、一匙のジョークでガス抜きが出来たよ。


 あたしの体格もあってか、運動部に目を付けられる理由もわからなくないけどさ、人の飯時を邪魔するのはよくないよな?


 全く、勧誘している暇があったら練習しろよな?


「アナタハ、カミヲシンジマスカ?」


 ジーザス、そっちの勧誘も間に合ってるよ───。







 

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