【再掲】第10話 虎の威を借る?
◇
入学式から続くチュートリアルの時間は、音量設定のクレイジーなチャイムが鳴ったことで終わりを告げた。
待ちに待ったお昼を迎えれば、今日のあたしらは自由の身。
明日からは退屈な授業がお待ちかねだけど、つかの間の自由を楽しもうじゃないか。
それまでは小休止の度にあたしとウィラの2人で、ブラックユーモア混じりの会話に花を咲かせ、揃って大笑いしていたことで、もはや豆とニンジンのようだった。
ああ、まるでフォレスト・ガンプのワンシーンみたいだろ?
そんな関西弁を喋る日独系の狐顔美人であるウィラを連れて、やって来たのは体育館裏。
別にバイオレンスな話しでもなく、ロマンチックなものでもなく、どちらかと言えばコメディか?
お互いの面を眺めては込み上げてくる、なんとも言えない不思議な気持ちに鼓動が高鳴る。
愛の告白と言えば体育館裏、なんて冗談をかましたら、話の流れそのまま一緒に探検してみようって事になったのさ? HAHAHA!
何者の邪魔もなく、二人で冗談を言い合いながらの会話は相変わらずの盛り上がったまま、ひとしきり楽しんでいるうちにお腹も空いてきた。
あたしとウィラは本能そのものな腹時計に従うがまま、食堂の方へと足を伸ばした。
「ケツネ~、ケツネ~、ケツネがうちをまっとるんや~」
ケツネ、ウィラが愛して止まないお揚げのこと。
狐顔美人の彼女が目を細めて嬉しそうにしながら、色っぽいハスキーボイスでケツネと唄う度、まるで尖った耳が頭のてっぺんでピクピクと動いて、モフモフとした大きな尻尾をぶんぶんと振るっているかのようだ。
ああ、ところで狐の祟りはどこで祓えばいいんだい? HAHAHA!
「まるで恋人みたいだな?」
愛の告白よろしく、大好きなお揚げを語るご機嫌な彼女は、あたしの方へ向き直って……ああ、こりゃまた話が長くなりそうだね?
「そらな、うちの魂っちゅうか、ケツネリーベやからな。こっちやと関東出汁やからほんまもんとちゃうねんけど、ケツネには変わらへんからええんやで?」
「リーベ? 元素記号の暗記みたいだな?」
「あ、それLoveのドイッチュラント版や。L,i,e,b,e(エル、イー、エー、ベー、エー)で Liebe 言うんやで? 元素記号のあれとはちゃうねんけど、それやとあれや、英語読みで言うたらアイが足りまへんな」
「なるほどね、あたしにはドイツ語は難しいぜ?」
「Hi,danke,ja,neinがわかればええねん」
「あー、挨拶、ありがとう、はい、いいえか?」
「いや、わかっとるやん!」
「「HAHAHA!」」
言葉が違っても、なんとなくわかることもある。
アルファベット系の発音なら、どこか共通点があったりするものだからね。
おかげでウィラの自己紹介で彼女が、ドイッチュラントの系統ではないかってね?
「ま、そらドイッチュラントの血ぃ入っとんやけどな、言うてもうち、クォーターやからな。殆ど日本人と変わらへんやろ?」
少し異国情緒のあるミックス顔、具体的に言えば眉と目の間隔が狭くて、奥二重のアーモンドアイで良い具合に和洋折衷。
瞳の色は赤みがかったダークアンバーに近い。
また、平均的な日本人顔に比べるとやや鼻が高く、同じくしてやや堀が深め。
なかなか良いとこ取りでさ、薄い唇がなんというか、卵形と細長顔のミックス加減を引き立てて美人な狐さんって訳さ?
また脚の長さ、少し癖のあるウェーブのかかった艶やかな天然アッシュブラウンの髪色が、日本人だったら羨むギフトかもしれないね。
本当、関西弁を喋るマッツのそっくりさんとやらに感謝だね。
「ああ、本当そうだよ。お前がドイツ語で自己紹介するから何事かってね?」
「そらな、うちのゲルマンの血がそう言わなあかんってなるやん? ほんならドイッチュラント喋るのもええな思うたんや。それにあれや、うちに変なの絡んでけーへんから安心やし、おっかなそうやけどおもろくてほんまは優しいナギと仲良くなれたんやから、それでええねん」
「ああ、お前のおかげで面白くなりそうだよ?」
「せやろ? それとうち、さっきも言うたけど、ほとんど日本人やし、日本語大丈夫やから安心やろ?」
「ああ、お前は殆ど関西人だし、あたしの日本語が通じるのか不安だ」
「「HAHAHA!」」
さて、またウィラと冗談を言い合っているうちに、食堂のある建物へとやって来たけど、なかなか賑わっているようだね?
不思議とあたしとウィラの回りだけ、少し空間が空いてなかなか快適だけど、果たして中へ入ればどうなのやら?
キツネをお待ちかねなウィラの逸る気持ちで勇み足のまま、あたしは彼女に続き……うーん、どうして道を空けてくれるのか、不思議なものだけど、そう言えばこんな諺があったな。
虎の威を借る狐?……うーん、なんか違うね? HAHAHA!───。
◇
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