【再掲】第9話 ウィラ・ナギコンビ爆誕
◇
自己紹介を手短に済ませたあたしの興味の対象は、ウィラ・フォン=ノイマンと名乗った、狐顔美人の日独系関西人だ。
まるで台風一過のような爪痕を残した彼女を観察、眺めるその度に目が合い、屈託のない笑顔を見せてくるものだから思わず顔が綻ぶ。
そのままお互いに笑顔を振りまいたり、伝わっているかどうか不明なアイコンタクトを交わしたり、変顔したりして小学生レベルのにらめっこをしているうちにいつのまにか、全く興味の湧かない残り全員分の自己紹介が終わっていた。
丁度音量設定がクレイジーなチャイムも鳴り、次の時間までの小休止となれば早速、気分上々で狐顔美人の日独系関西人のところへと向かったのは言うまでもない。
早速だけど、朝の礼ぐらいは言わないとな?
「おい、そこのドイッチュラント女、ちょっとツラ貸しな?」
ちょっと口が悪くてすまねえけど、朝の続き、まだ少しばかり余韻が覚めてねえから勘弁してくれよな?
そんなあたしに全く動じることなく、彼女は笑顔を絶やさずにこう返した。
「日本語で答えてもええんか?」
「「HAHAHA!」」
早速キレのいいジョークをかましてくれるね?
これには思わず笑った、彼女も目を細めてまるで狐のように大口を開けて豪快に笑ったのだ。
おいおい、あたしと笑いのツボまでもが同じってかい?……そうだとしたら嬉しいね。
「早速来よったな。あんた、うちと同いのクラスやったんやな?」
「ああ、お前の自己紹介のおかげでさ、クラスを間違えたかと思ったぜ?」
「そらうちもやで? スポーツ推薦やった覚えないんやけどな?」
「運動部の勧誘か? ああ、考えただけで憂鬱だね?」
「「HAHAHA!」」
まったく、ここまで話が通じるような奴、しかも同年代で盛り上がるのはいつぶりだろうか?
なんとなく高貴なお嬢様っぽい雰囲気だけど、好奇心旺盛そうな狐顔美人の彼女は、一度口を開けばこの通り。
ジョークを交えつつ笑う姿は庶民的と言うか、とても親しみやすくて会話が弾んでいく。
ああ、そうだ、さっさと礼の一つを言わないとな。
「朝のことだけどさ、ありがとう。おかげで助かったぜ?」
「ええんやで? せやけど、助かったのはあんたとちゃうやろ?」
「確かにそうだな。それで、本当に日本語でも大丈夫なんだな?」
「「HAHAHA!」」
お礼は言えたし、ジョークを返してくれるぐらい些細なことだ。
ま、あたしらにはシリアスは似合わねえってか?
ああ、それは言えてるね。
お前とは仲良くなれそうな気がするよ。
「ほんならあれや、今からドイッチュラントのウンターリヒト(講義)でも始めたろか?」
「おいおい、さっきのあれ、ドイツ語って以外はさっぱりわからねえからな、そうしてくれると助かるぜ?」
「ようドイッチュラントってわかったな? あんたただのデカブツとちゃうな」
「おい、誰がウドの大木だって?」
「うち、そこまで言うとらんがな!」
「「HAHAHA!」」
さっきは人のことを牛久大仏呼ばわりしてよく言うぜ?
ま、こいつに言われる分にはさ、不思議と不快感すら湧かねえんだよな。
なんでだろう、愛玩動物的なかわいさがあるからか?
「ま、そら山が動いたらビックリするやろ?」
前言撤回、狐顔美人だけに愛玩動物的だと思っていたけど、狐同様、こいつは野生動物だったわ。
それならさ、あたしは何に例えればいいんだろうね?
うまい返しは…あ、そうだ。
「あたしは怪獣か!?」
「「HAHAHA!」」
「宇宙怪獣さんとやらはノリがええな?」
「そりゃどうも……って、なにスケール大きくしてるんだよ? いいからツラ貸しな?」
「ええけど高いで?」
「ああ、高貴でワガママそうだからな?」
「うっさいわ!」
「「HAHAHA!」」
小休止なんかはあっという間で、音量設定がクレイジーなチャイムに妨害されて中断したけどさ、こんなにも楽しく会話が広がるなんてね。
次の時間? ああ、ちょっとオーバーしたのほ言うまでもないさ? HAHAHA!
「そうだ、あたしのこと、ナギって呼んでくれよな?」
「ほんならうちのこと、ウィラって呼んでな?」
「ああ、よろしく、ウィラ」
「ナギ、よろしくたのんます」
ほんの少しのロスタイムで改めて互いに名前を呼び合い、冴えない審判もとい担任に席へ戻るように促されて思わず睨みつけ……ああ、笑顔笑顔。
こんな顔しちゃ損するぜ、全く。
渋々と席に戻って再びウィラの方に向けば、あいつはまた屈託のない笑みを見せた。
ああ、もちろんあたしもね?───。
◇
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