【再掲】第7話 校長先生の十八番と関西人








  あまりにも時間が押しているからか、あたしらを歓迎するはずの入学式は、基本的に巻きで進行していた。


 まるで歴史的な映像を早回し、あるいは早送りしているかのようで、これがどうもおかしくてたまらず、笑いを堪えては飲み込んでいた。 


「HAHAHA!」


 いや、気持ちはわかるけどさ、あたしが堪えているって言うのに、なに笑ってるんだよ?


 全く、どこのどいつか知らねえけど、どうも他とは笑いのツボが違う奴でもいるのだろうか?


 なんとなく……あの時の謎の狐顔美人の関西人だったらありえそうだ。


 誰のおかげか、巻きで進行していた入学式だったが……ああ、ある意味でメーンイベントがやって来たもので、どうも一人だけ時空が歪んでいる。


 校長先生の話がとにかく長い、長すぎる!……おいおい、定番と言えば定番だろうけどさ、こりゃあイナ先生の言う通りだったぜ?


 本当にこのまま卒業してもいいか? HAHAHA!


 退屈を通り越してさ、こりゃエド・ウッド映画を延々と観させられているような気分だぜ?


 校長先生によるZ級映画並みのクソ脚本、冗長性が溢れんばかりなスピーチを聴かされる生徒たちの身にもなれよな?


 全く、あたしの周りを見てみろよ?


 一人、また一人と脱落してドーナツ化現象ってか?


 老兵はどうすればいいか、わかるだろ?……I shall return?


 HAHAHA!…Not more.(結構です)


 ああ、ドーナツ化現象どころかあたしも引き込まれてさ、微睡む景色を堪能しているうちにクレーターが出来上がりそうだぜ?


 はぁ、あたしも今から夢の世界に……ん?


 ふいに微睡むあたしの視界を過ったのは、今日の朝に出会った謎の狐顔美人の関西人らしき後ろ姿を見つけた。


 ちょっと癖のある、少しウェーブのかかったアッシュブラウンの艶やかで綺麗なロングヘアーが美しく、これはこれはとてもいい毛並みをしてやがる。


 それでいて……おいおい、お前もあたしと同じクラスかよ?


 なんだかご縁を感じるね、入学式が終わったら早速話しかけたいところだ。


 しかし、いつまでエド・ウッド作品の上映会のような、無駄に冗長な話が続くのだろうか?


 また一人、二人と連鎖して視界から消えていく新入生たちの緊張感は、かなり緩んだようだけれど……もういいだろ?


 謎の狐顔美人の関西人の後ろ姿を見つけてからと言うもの、微睡みはいったんおさらば。


 眠気よりも少しばかり興味の方が勝り、彼女を観察し続けるのが、現状では一番生産的な気がするね?


 あぁ~、早く終わらねえかな?


 誰でもいいからさ、早く終わらせるように言ってくれよな?


 もう我慢の限界か、謎の狐顔美人の関西人に至っては、後ろ姿からそわそわと言うか、ワナワナとして何か言いたそうな雰囲気だぜ?


「……長いわ! もうええっちゅうねん!! こんなんおもんない話、いつまでやっとるんや!? はよ終わらせんかい!?」


 ……おいおい、マジかよ?


 会場がざわめき、夢の世界から呼び戻された奴らが起き上がったり、崩れ落ちたりしたのは言うまでもないけどさ、まさか本当に言うなんて思わなかったぜ?


 おかげでエド・ウッド作品の上映会のような、校長先生の長話も一旦は中断。


 直後に笑い声がちらほらと聴こえてくれば、再び時は動き出したかのようだ。


 よう、小さなヒーロー?


 あたしはお前のことを称えてやるぜ?


 謎の狐顔美人の関西人が声をあげたことでようやく、校長先生のエド・ウッド作品のような長話はフィナーレ、もとい公開停止で時空の歪みは解消された。


 ありがとう、謎の狐顔美人の関西人。心の底から。


 その後、入学式は更に巻きで進行し、そこからはあっという間だった。


 『新入生、起立』の合図であたしらは退場……ああ、謎の狐顔美人の関西人、お前が一足先に退場にならなかったのが不思議と言うか、ある意味で奇跡なんじゃないか? HAHAHA!


 ともあれ、入学式の最中はあたしになんらトラブルが降りかかることなく、代わりに思わぬハプニングが起こったって訳さ?───。







   ───おまけ。



  やあ、あたしだ、香坂 凪沙だ。

今回は少し、趣味の話しでも語ろうか。


 あたしさ、中学時代はグレてまともに学校行ってない時期もあった。

家族には心配させたし、迷惑をかけたものだけど……時間さえあればさ、そんなあたしによく付き合ってくれたものだ。


 料理が得意なのは、小さい頃からマミーを手伝ったり、一緒にやっているときに教えてもらった事が大きい。


 そのうち一人でも出来るようにさ、マミー監修のもとで挑戦もしたさ?

最初はさ、そりゃ酷いものだったけど、家族が心の底から喜ぶ顔を見たくてね?

あたしの負けず嫌いな性格もあるけど、試行錯誤を繰り返してきたおかげで、すっかり料理上手になった訳だ。


 ダディーもよくあたしら家族のみんなを外食に連れてってくれてさ、食事と会話で家族団欒を楽しみながら、料理の勉強にもなった。

そのうち仲よくしてもらっているマスターに色々と教えてもらうこともあってさ、あたしの料理の腕が上がって行ったって訳さ。


 この料理スキルがさ、早速高校生活で役に立つときが来るなんてね……ま、この物語においては、もう少し先の出来事さ?




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