【再掲】第6話 Nice to see you again








  今年度の入学式は異例ずくめらしく、例年よりも遅刻者が続出し、訳あって集団で会場へと駆け込んだ生徒たちの中には、運悪く転倒等をしたことによる怪我人も出たらしい。


 おかげで式典そのものは遅れに遅れていた。


 もちろんあたしも例に漏れることなく会場入りは間に合わず、遅刻者に名を連ねたけど……そもそもあたしはさ、トラブルに巻き込まれただけだろ?


 ちょっと理不尽過ぎないかい?


 あの時、謎の関西人が居なかったらさ、いったいどうなっていたんだろうね?


 ああ、もしかしたら入学式をスルーしていたかもな? HAHAHA!


 ま、あとであの狐顔美人の関西人に改めて礼を言わないとね。


 ついでに快く渡してくれた指名手配書、もとい学生証の主たちにもお礼回りしないとな? HAHAHA!


「おいそこの新入生! 制服をちゃんと着ろよ!?」


 朝から波瀾と言うか、一難去ったらまた一難か、あたしに降りかかるトラブルはまだまだ続くらしい。


 会場入りを前にして遅刻云々よりも、また服装の話かよ……全く、今度は厳つい先生に絡まれて困ったね?


 制服、ブラウスのボタンはどうにもならないし、リボンはブレザーのポケットで眠ったままだからね?


 門前払いされるのも癪だ、騒ぎになる前に一匙のジョークで和もうか?


「What's? Do you see naked? hmmm, interestig. watch too many andersen fairy tale?(なに? あたしが裸に見えるのか? ふーむ、それは興味深いね。 アンデルセン童話の見すぎじゃないか?)」


「うわっ、英語かよ……おいおい、留学生が来るって聞いてないぞ……えっと、困ったな。おーい、イナ先生!」


 HAHAHA! こいつ、強面だけどビビってやがるぜ?


 なんだ、服装が乱れてる新入生に注意したつもりが、英語で返ってきて混乱したってところか?


 ま、それはともかく、イナ先生ね……ああ、あの時のいい男と再会か……やべっ、ちょっと緊張してきた……。


「Hey nagi! It's been ages!(ようナギ! 久しぶりだな!)」


「Me too,I'm happy to see you again!(あたしもだ、また会えて嬉しいよ!)」


「Congratulations on getting into your new school! Thank you for coming(とにかく入学おめでとう! 来てくれてありがとう)」


「Thanks to your support(あんたのおかげだよ)」


「Kind of…Maybe I was the target?(まあね…もしかして俺目当てか?)」


「Ah,Could be?(ああ、かもね?)」


「「HAHAHA!」」


「お、おう……イナ先生、あとは頼んだぜ?」


「ええ、猿渡先生、任せてくださいよ……よし、行ったな……はぁ、コウサカ、朝から災難だったな?」


 続くトラブルもまた新たなヒーローの登場によって難を逃れた。


 謎の狐顔美人の関西人に続き、今度はあの時の面接以来のスーパーヒーロー……ああ、マーベラスヒーローよりも手強いけど、またあんたに会えて嬉しいぜ。


「ああ、全くだ。朝からうるさいサルに縁があるね?」


「「HAHAHA!」」


「そうだな、登校中もトラブったらしいな?」


「おいおい、耳が早いな?」


「まあな、お前は別に悪くないのもわかっているし、こっちの指導がなっていなくてすまない……だが、学生証はそう何個も必要ないだろ? 回収させてもらうぜ?」


「参ったな……これじゃああたしの気が晴れないぜ?」


「コウサカ、頼む……今回はさ、俺の顔に免じてさ、ひとまずは許してやってくれないか?」


 そう言って頭を下げる、あたしよりも少し背の低い先生が、殊更に小さくなるのは見てられないぜ?


「わかったわかった、返すよ。ほら、これでいいだろ? 先生、あのリトルビッチたちにもよろしく言っておいてくれよな?」


「すまない、だが……どの口がリトルビッチだって?」


「「HAHAHA!」」


 リトルビッチって、まあ先生からすればあたしもそうだろうな。


 この後の挨拶回りが楽しみだったけど、助けてもらった手前もあるし、イナ先生の顔を立ててやらないとな。


「さて、どういうわけか未だに入学式が始まらないけど、コウサカ、お前のクラスはあそこだ。とりあえず始まるまではさ、座って待っていてくれないか?」


「オーライ、せいぜい楽しんでくるぜ?」


「ああ、校長先生の話はとても長いぞ?」


「マジかよ、そのまま卒業式か?」


「「HAHAHA!」」


 話のわかるいい男とジョークを交えた会話に花が咲き、なかなか式も始まらないことだし、席へ座るよりも先生と話しているのが楽しくてたまらない。


 そうしているうちにどれぐらいの時間が経過したのだろうか?


 楽しい時間はあっという間で、ようやく始まりを告げるアナウンスに気付いて、二人して慌てて会場に駆け込んだ。


 全く、まだまだ波瀾が続く予感がするぜ?───。







  ───登場人物紹介。



  伊那 頼活(イナ ヨリカツ) / 27歳 / 男性 / 身長178cm / 独身



 本作の主人公であるナギこと、香坂 凪沙が盛大にやらかした推薦入試の面接を担当した一人。


 パニックになって英語で悪態つく彼女をさらっと英語でフォローし、立ち直らせて面接を再開、その場で合格を言い渡した。

この出来事をきっかけにして、入学してきたナギには非常に懐かれる。


 彼女の合格通知に関して、ほとんど彼の独断に等しいが、ナギの素質、才能、人間的魅力を見込んでの判断である。

その一方で、彼女の実家の太さ、推薦した人物との関係性等を加味した打算もあり、したたかなリアリストの一面もある。


 過去に留学経験があってか、英語が堪能であるものの本職は国語教師であり、母国語の理解を深めてこそ、他言語への理解、造詣が深まるという考えから、授業内容はとてもユニーク。


 また、気さくな人柄で同僚、生徒からの人気も高く、おまけに容姿も優れたいい男であるが、変わり者な性格も災いしてか、今のところは独身。


 彼の名前の元ネタは、武田(諏訪) 四郎 勝頼。

また、同氏の別称である、伊奈氏からあやかったものである。




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