【再掲】第4話 今日の献立
◇
あたしはいったいどこまで成長するのだろうか?
数ヵ月前に採寸してからそのまま時が流れ、丁寧に梱包されたまま、すっかり箱入り娘と化した、今か今かと出番を待っていた真新しい制服。
未だ袖すら通していない事を入学前夜に思い出し、箱入り娘はようやくして外の世界を知ることだろう。
そうしていくつかの誤算が重なりを描き、持ち主と同様に現実の厳しさを知るのだ。
ああ、ブレザー、ブラウスのボタンが閉まらない、なんとも締まりが悪くて困ったものだよ? HAHAHA!……すぐさまマミーに電話したのは言うまでもない。
あたしのマミーも昔、同じような悩みを抱えていたからさ、電話口で励ましてもらって心が軽くなったって訳だ。
本当、家族って温かいよ、一人暮らしを始めてからはさ、尚更身と心に染み渡るよ。
……もっとも、肝心の制服についてはどうにもならなかったけどね? HAHAHA!
今から手直しするのは無理だし、何よりも面倒くさいから後回し。
幸いにしてブレザーのボタンさえ閉めなければ、特に問題なく快適だ。
その前にブラウスはどうなんだって?……ああ、あたしの高校デビューはさ、真面目ちゃんでいこうと思っていてさ、もちろんブラウスのボタンは全部閉めるに決まっているだろ?
そう決めた以上はさ、かなりキツくて苦しいのは承知だけど、なんとか納まってくr『PANG!』……。
ああ、慣れない真面目ちゃんになろうとしたあたしが愚かだったよ。
首回りの採寸を間違えたのか、オーダーミスなのかはともかく、第一ボタンが飛んでったぜ? HAHAHA!
おいおい、参ったな?
早速ボタンを縫って補修するのかよ?
まあいい、せめて第二ボタンぐらいはしまr『PANG!』……HAHAHA! F**k!
オーライオーライ、今すぐ抗議の一つぐらいしたいものだけど、あいにくあたしの成長期が終わっていないようだし、また胸のボリュームが増えやがった。
こればかりはそうだね、メーカーとしては想定外過ぎるだろうし、つまらないことで小娘ごときの無駄口に付き合わさせるのもかわいそうだ。
そうだな、レギュラーカラーだとボタンの位置的にキツくてたまらねえからさ、懲りずに第一ボタン、第二ボタンを閉めたところで黒ひげ危機一髪。
無駄な努力はやめよう、アイロン当ててオープンカラーシャツのような折り目を付けよう。
ま、それでも駄目だったらそうだな、第二ボタンを開け放ったぐらいで変態痴女扱いはされないと思うから、多分問題はないだろう。
よし、そうなれば早速、ブラウスをおしゃれに改造してしまおう。
ボタンが閉まらない以上、ボタンホールは不要なのでかけはぎをして塞ぎ、オープンカラーと同様の折り目をつけるため、アイロンを当てて形を整えれば……ああ、我ながら良い出来だ。
早速着てみれば違和感はなく、ブラウスのボタン問題は解決。
ついでにブレザーを羽織り、ブラウスで襟出しコーデをすれば抜けもよく、おしゃれとしては申し分ないが、きっと注目の的となって一悶着あるのだろうな。
ブラウスの第一・第二ボタンが閉まらず、この先、まだまだ成長するかもしれない運命だろうから、いつまで着れるのかが怪しいぐらいに、あたしの夢と希望と肩凝りの原因を前にしてため息一つ、真面目ちゃんを貫こうとしても役には立たない以上、不要となったかわいいリボンはブレザーのポケットへ。
いつか出番があればいいね? HAHAHA!
さて、スカートはそのままでもいいか。
脚を長く見せて魅せる工夫以前に、そもそもあたしの脚が長過ぎるものだからこれ以上どうしろと?
ミニスカートって程じゃないけど、既に膝上5cm越えだ……ああ、もう少し長めにしておくべきだったな。
本当、あたしの成長期という不確定要素を前にして、そりゃ予測なんて困難だけどね? HAHAHA!
ブレザーのボタン全開、ブラウスの第一、第二ボタンは使用不可、リボンは冬眠した。
それらはともかく、スカートだけはプロパーのままだから、スカートの長さごときで校則違反とやらにはならないだろ?
……ま、制服そのものは仕立てがいい、デザインもシンプルで校章さえ省けば、様々な場面で流用できる程度の潜在能力を秘めている。
ああ、気に入った、気に入ったものの少しもて余してしまったけどね? HAHAHA!
さて、入学前にやっておくことはこのぐらいか?
制服は袖を通してみた、学校指定カバンに筆記用具を入れた、あとは……今日の夕食と明日のお弁当のおかずでも作るか。
今日のメニューはそうだな、厚揚げを炊いた煮物があるな……そう言えば関西では、煮物のことを Titan って言うらしいね? HAHAHA!
冗談はともかく、これは今日と明日のおかずで、お弁当には汁気が多くて不向きだ。
他に作ったものは焼き魚、新ごぼうのきんぴら、肉じゃが、青菜炒め、アスパラガスのビスマルク風、春野菜の浅漬け……ああ、焼き魚ときんぴら以外は、どれも弁当箱に入れる感じのラインナップじゃないな?
こりゃスーパーで買い出ししないとね?
ポストに投函されていた特売のチラシは確認済み、明日の学校帰りが楽しみだ。
とりあえず明日は入学式だろ、説明会や自己紹介するだけで昼までで終わりだし、一回ぐらい学食に行ってみるのもいいか。
さて、味噌汁も出来上がり。
ちょうどご飯の蒸らしも終わったし、早速よそって並べて……それじゃ、いただきます───。
◇
───今日の献立。
☆ 香坂家の青菜炒め
───材料
・青菜(小松菜、チンゲン菜等) 一束
・ニンニク 一片
・生姜 一片
・水 おおよそ50ml
・鶏ガラスープの素 小さじ半分
・オイスターソース 小さじ1
・料理酒 大さじ1
・コショウ 少々
・サラダ油 大さじ1・5~
分量外で水1~2L、塩小さじ1、サラダ油を大さじ1ぐらい。
───。
やあ、あたしだ。
香坂 凪沙の『三分で終わらせるクッキング』の時間だ。
三分だけじゃあ、ゆで卵すら無理だって? HAHAHA!
準備時間は別だ、本調理だけなら三分でも可能なメニューでいくぜ?
さて、そんな訳で今日ご紹介するメニューは青菜炒め、中華料理だな。
家で作るとなると、中華料理屋のような油通しをなかなか出来るものではないだろ?
代わりにお湯を煮立たせ、塩をいれて沸点を上げよう。ついでに油を浮かべると良い。
野菜の表面を油でコーティング出来るから、より油通しに近い効果が得られるだろう。
今回はチンゲン菜を使おう。小松菜でも空芯菜でも好きな青菜を使うと良いさ。
よく洗ってからカットしたら沸いたお湯に投入、芯を先に、その後は葉っぱを分けて入れてさっと、バランスよく軽く火を通そう。
長くても30秒ぐらいかな?
芯を先に入れて、葉っぱを入れたら10秒ぐらい数えるといいさ。
あとは余熱で火が通る事を頭に入れておくんだぜ?
青菜が鮮やかな色をしたらすぐにザルにあけ、お湯をしっかり切って、次はフライパン、もしくは中華鍋に油をしき、みじん切りにした生姜、ニンニクを入れて弱火でゆっくりと香りを出す。
お好みで鷹の爪や輪切り唐辛子を入れるのもありだ。
程よく香りが移ったら、中火にしてお湯を切った青菜を投入して鍋を煽りながら、コショウ、オイスターソース、鶏ガラスープの素、料理酒、水(もしくはお湯)を入れてほんのひと煮立ち……大体そんな流れで完成だ。
イメージとしてはそうだな、熱い鍋の中でさっと和えるって考えればいい。
簡単だろ?
中華はスピード勝負、一回に材料を入れすぎなければ良い感じに仕上がるぜ?
それじゃ、また会おう───。
◇
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