【再掲】第3話 ホットな香坂家の団欒







  まるで夢か幻のようだった、シュルレアリスムな世界から帰還した私を待つのは、愛する温かい家族達だ。


 合流してから早々に、面接試験の感触はどうだったか、なんて話よりも緊張しすぎてちょうど腹が減っていたんだ。


 昨日のホテルに引き続き、ちょっといいレストランを予約してくれていたようで、未だに身体が火照っているかのような余韻に浸りながら、家族団欒のひとときを過ごした。


「ナギ、その様子なら俺たちは何も心配することなんてなさそうだな?」


「ああ、そんなの朝飯前だ。ダディー、テーブルマナーよりも簡単だったぜ?」


「「「「HAHAHA!」」」」


「ナギ、朝飯前と言うけど、モーニングで何度もおかわりしたことを忘れたのかしら?」


「マミー、腹が減ったら戦は出来ねえだろ?」


「「「「HAHAHA!」」」」


「姉ちゃんはいったい何と戦ってきたんだい?」


「リューキ(龍輝)、そりゃなかなか手強い相手だったよ。あー……マーベラスヒーロー?」


「姉ちゃん、よく生きて帰ってこれたね?」


「「「「HAHAHA!」」」」


 温かい家族と食事を囲むのは、本当に最高なものでさ、東方共栄学園に合格したら……地元を離れて一人暮らしをするからさ、その頃には時折懐かしむことになるんだろうな。


 そういえば面接でイナ先生と交わした会話もまた、家族のように温かかったな……ああ、だから気に入ったのかもしれないね?


 これから毎日、合格発表までは落ち着かなそうだ。HAHAHA!


「そういえばナギ、お前が試験から帰ってくる前だったけど、マッツに似ている人がいたからさ、思わず声をかけたんだ」


「マッツが来日しているって? ダディー、それでサインは貰ったのか?」


「残念ながら別人だったよ?……名前はノイマンさんだったな。ま、少し話をしたらさ、ノイマンさんの一番上の娘さんも、ナギと同じ学校を受験するみたいでね? もしかしたらお前のお友達になるかもな?」


「ノイマンさんね、とても高貴な雰囲気だったわ? もしかしたらドイツ系の貴族の末裔なのかもしれないわね?……その、貴族チックなマッツのそっくりさんが、真顔で関西弁を喋るから面白くて!」


「まるで遊び心のある洋画吹き替えだな?」


「「「「HAHAHA!」」」」


「きっとノイマンさんの娘さんも、ナギに負けないぐらいの美人さんかもしれないわね?」


「なるほどね、マミー、あたしを美人さんに産んでくれてありがとう」


「姉ちゃん、色々と成長し過ぎだけどね?」


「おい、リューキ?」


「「「「HAHAHA!」」」」


「ナギ、私たちはいつでもあなたの味方よ? あなたはお姉ちゃんだからって、辛いときに我慢しちゃったり、譲れないものがあるときには意固地になったり、護りたいものがあるときには思わず手を出しちゃうけれど……私たちの自慢の娘だから、応援しているわ。入学してからもいつでも私たちを頼ってね?」


「マミー、合格発表はまだ先だぜ?」


「ナギ、入学が決まれば一人暮らしするだろ? それなら今から物件を探さないとな? ま、さっき不動産屋で色々見てきたんだ。学校からそれなりに近いところでいい物件があったよ」


「ネーミングセンス以外は最高だったね? ネーミングセンス以外は……」


「リューキ、住めば都よ? ナギもきっと気に入ると思うわ?」


「だから気が早いって?……それで、なんて名前の物件だ?」


「ナギ、お前が興味を持ってくれて嬉しいよ。確かにネーミングセンスはともかく、いい物件だ。部屋はそれなりに広くて、キッチンスペースも充実している。もちろん風呂トイレ別、浴槽もそんなに窮屈じゃないぞ?」


「ああ、よさそうだね。それで、名前は?」


「「「サルゴ・リラチンパンジー」」」


「……なんだって? もう一回言ってくれ?」


「「「サルゴ・リラチンパンジー!」」」


「冗談はいいから、もう一回言ってくれ?」


「「「サルゴ・リラチンパンジー!!」」」


「……ぶふっ!?」


「「「「HAHAHA!」」」」


「姉ちゃんゴリラだし、お似合いだろ?」


「リューキ、あたしら家族全員ゴツいし、揃いも揃ってB型だろ?」


「「「「HAHAHA!」」」」


「ナギ、合格したら早速契約しよう」


「そうね、ゆっくりと準備しないとね」


「うるさい姉ちゃんがいなくなったら、ちょっと静かになるね?」


「いや、だからさ……お前ら気が早いって!?」


「「「「HAHAHA!」」」」



 後日、合格通知が届き、家族揃って喜びを分かち合ったその足で内見した、『メゾン サルゴ・リラチンパンジー』のネーミングはともかく、部屋がそれなりに広くてキッチンが思った以上に充実している。


 浴槽も広く、トイレも別。


 日当たりも良好であたしが気に入ったのは言うまでもない……しかし、ネーミングセンスだけはなんとかならないかな? HAHAHA!


 その後、制服の採寸や色々と準備に追われているうちに、あっという間に卒業を迎える。


 温かい家族がいて、何よりもジェフのおかげでヤンチャだったリトルビッチのあたしが、なんとか高校に進学が出来たし、更正した元ヤンは地元を離れて……いよいよ新生活の始まりだ。


 さて、明日からこの仕立てのいい制服に袖を通して……。


『Trrrr……』


「……あ、マミー? うん、大丈夫、ホームシックとかじゃないんだ。うん、あのさ……制服なんだけどさ……サイズが合わなくなった……」───。






  ───香坂家の家族構成。


  ☆ 身長と職業について。


 ダディー / 199cm / 実業家 / B型


 マミー / 179cm / 事務職 / B型


 ナギ / 183cm → 187cm / 中学三年生 → 高校一年生 / B型


 龍輝(弟) / 185cm / 中学一年生 → 中学二年生 / B型



 ─── おまけ。


 マッツのそっくりさん(ノイマンさん) / 184cm / 関西弁を喋る、ドイツ貴族っぽい雰囲気がある、なんの仕事をしているかよくわからない人



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る