第6話 過去と鈍痛



 気迫のない無垢な制服を身に纏っていた十四年前。

 流花は昇降口で足をすくんでいた。

 


 これより中に入ればもう教室へ行くしかない。

 自宅から学校までの道中。何度も帰宅を試みた。

 帰宅して制服を脱ぎ散らかして、布団に潜れたらどれほど幸せか。



 いっそ交通事故でも起こってほしかった。

 これから行き着く場所の方が、どんな物理的な痛みよりも、鈍く。重く。しつこい。

 こんな晴天の下、爽やかな風の中で息を引き取ることができたら。


 

 そんなことを考えながら、毎日無事に昇降口に辿り着いてしまう。



 「ほらほら、もう予鈴なるぞー」



 学校に一人はいる体育教師が、今日も笑顔で教室に行くよう促している。


 何にも知らないくせに。

 どれだけ苦しい環境なのか想像もできないくせに。

 笑顔でしゃあしゃあと教室に促して。



 男性教師の声により、学生たちは慌てて教室に向かった。



 いいな。あんなに足取り軽く教室に行けて。



 流花は泣きそうになりながら靴を脱ぎ、上履きに履き替えて教室へ向かった。

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