第4話 友情と噯


 「流花なんできたの。こんなしょうもない会」



 冷製パスタを啜りながら京子は雑に聞いた。

「自分だって来てるくせに」と言いかけて、流花は少し考えた。



 京子は流花の過去を誰よりも知っている人。知っている上で側にいてくれた、たった一人の親友だ。流花はカルパッチョの白身を意味もなく刺しながら答えた。



 「確かめたくて」

 「何を?」

 「美しくなれたこと」

 


 京子は笑わなかった。むしろ、冷製パスタの咀嚼をぴたりと止めた。

 少しの沈黙のあと、京子は冷製パスタの皿を置き、ワインを一気に飲み干した。その瞬間、ゲップ混じりのため息を吐き出し、流花は思わず口に含んだ白身を吹き飛ばしそうになった。



 「いや、京子。それは終わってる」

 「これでも独身のあんたよりはマシ」

 「なんで結婚できたのマジで」



 京子なりの「くだらねえ」と言う返しだったのだろう。二十年以上の付き合いがある流花にはわかっていた。が、あえて口にすることはなかった。口に出して話すまでもなかった。

 隣で笑い泣きしている京子を見つめながら、流花は密かに京子の偉大さを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る