第2話 秋と冷や汗


 11月上旬の東京は寒波が本格的に来る前で、トレンチコートとマフラーだけでもまだなんとなる寒さだった。


 冬が来る前の植物が枯れた煙っぽい優しい香り。

 流花はこの香りが大好きだった。ねっとりした夏の風よりも乾燥した秋の風を楽しむ性分なのだ。


 金木犀が散ったとしても、秋を全身の隅々まで感じながら流花は有楽町へ向かった。



 並木通りを抜け、目的地のビルに到着すると、一度ビル名を確認して中へ入った。

 エレベータに乗り、流花は鞄の中から1通の便箋を取り出した。


 『第32期生同窓会 〜若者から輝く大人へ〜』


 今夜、流花は中学の同窓会に足を運んでいた。

 流花の出身中学は埼玉にあり、都内へのアクセスもあるため、転勤や結婚をしていなければ、ほとんどの学生がきているはずだ。



 27歳にもなって、未だ中学の同窓会を開いているのは自分の中学くらいだ。

 ねずみ講のスカウトマンが考えそうなしょうもないキャッチコピーも、恐らく同じクラスだった高橋が考えたのだろう。



 高橋の名前を思い出して流花は少々嫌な汗をかいたが、エレベーターのアナウンスで、すぐに正気を取り戻した。

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