美人

第1話 武装と安定剤

 ファンデーションは薄く、コンシーラーでしっかり隈を隠す。

 チークは頬骨の上あたりにまぶして、眉毛は目尻の延長線上まで。

 定期的なパーマで反り上がったまつ毛には、毛先だけマスカラを。

 涙袋にグリッターを控えめに乗せて、アイラインは目尻にだけ。



 最後に発色の良いブラウンレッドのリップで唇を締める。



 木南流花きなみるかは髪の毛全体を整えたあと、足元に11月の冷気を感じながら今一度鏡の中の自分を見つめた。



 大丈夫。美しい。大丈夫。



 反芻するたびに鼓動が強くなり、背筋にじんわりと汗が湧き出る。

 深呼吸をして現実から逃げる様にゆっくり瞼を閉じた。



 鼻から深い息を吐いたあと、ゆっくり瞼を開いた。そこには確かに完成された自分の姿があり、流花は我ながら「美しい」と感じた。

 母譲りの彫りの深い二重。ぱっちりと開かれた瞼。その内に秘める瞳がじっとこちらを凝視している。


 

 その目があざ笑う瞳になってしまう前に、流花は洗面所を後にした。


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