第11話
前書き!!
貴方は嫌なことがあった時どうしますか?
家で飼ってる犬に僕の服の上でお漏らしされました。お気に入りの服だったのに。
屈辱です。くっ殺せ!
とかいうどうでもいいような前書き終わり。
本編どぞ!
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side西宮奏
先ほど交換した連絡先に書いてあった名前の欄を見るに、「達也」と書いてあった。
どうやらあいつは達也というらしい。
——達也。達也。達也。
いつのまにか名前を連呼していた。
「……どうしちゃったんだろう。私」
達也のことを考えると顔が熱くなって顔を覆いたくなる。
……いや、ね、恋愛感情とかではないと思う。
——ならこの気持ちはなに?
私は今帰りのタクシーに乗っている。携帯を取り出し、カメラを起動し自分の顔を見てみる。
そこにはにやついた様な顔をした自分が写っていた。
首を振ったり、頬を触っては見るがいつもの顔に戻そうとするが、全く持って表情は動かなかった。気持ち悪い。
もう一度言うけど、恋愛感情ではない。
声に出して言ってみる。タクシーの運転手がどうしたことかと後ろを振り返る。
私は愛想笑いをしながら何でもないことを伝える。
恋愛感情ではないのならこの感情は何?
嫉妬?
——いや違う。
嫉妬なんかじゃない。
憧れ?
——そんなものでは到底この気持ちは表せない
今日来てた人たちは達也を見て嫉妬しただろうか?憧れただろうか?
私と同じく周囲に持て囃されて生きてきた人間たちだ。自分より凄い人はいないと慢心し、自分の方が凄い。自分の方ができている。なんて優越感に浸る様な人間だ。
それは私も同じ。
突発的な才能の現れに驚き、それが自分より下だと認識すると安心感に浸る。
そんな人間。
あぁ、それが当たり前だ。
そうじゃなきゃ芸能界という魔界では生きていけない。
スキャンダルだってそう。
ああいうのって殆どが身内からの密告。
裏切り。
私だって何回もしてきた。
頑張ろうねと言い合ってきた仲だとしてもだ。
叩けそうなネタがあればすぐに提供した。
そうじゃなきゃ自分が下される。
我が身可愛さに親友でさえ捨てられる。
そんな醜い人間。
鏡を見ていると吐き気がする。
着飾った私は本当の私じゃない。ファンに向ける笑顔は段々と醜くなり、ファンに向ける言葉は本音じゃなくなっていった。
現実逃避を続けていった。
そうして出来たのがこの私。
西宮奏という嘘つき。
スキャンダルという可能性を徹底的に排除してきた私が初めて交換した男の子の連絡先。
達也はこんな私を受け止めてくれるだろうか?
いや、受け入れてくれる。
分かる。
——いや、分かってしまう。
達也もまた醜い人間だと。
私と同種であり別種
あれもまた大切な何かを守るためなら何でも捨てられる人間。
達也は私よりもっと酷い。
自分を偽り、騙し、現実から逃げている。
どれだけの人間から顰蹙を買い、どれだけの人間から妬まれてきたのだろう。
そうじゃなきゃあんなふうにはなれない。
あんな風に儚げに笑う人間にはなれない。
──私にはその笑みが魅力的に見えてしまった。
あの闇を私は受け止めることが出来るだろうか。
いや、場合によっては後押しすることも有り得るだろう。
こんな私でも達也という私とはまた別種の狂気を笑って受け止められるだろうか?
そんな自信は私にはない。
——ああ、分かってしまった。
やっとこの感情に名前をつけれそうな気がする。
憧れなんかじゃだめだ。そんな程度の低い次元で達也を見てはいけない。
これは嫉妬でも、恋愛感情でもない。
───崇拝だ。
達也に尽くしたい。
達也に褒められたい。
達也に頭を撫でてもらいたい。
私を見るファンの気持ちが何となくわかった気がする。こういう気持ちだったんだ。
多分尽くしたところで達也は私をいつかは捨てるだろう。達也にとって私はどこまで行っても道具。
達也が私を捨てた時どうするのだろう?
私はどう思うのだろう。
その時までに私が包み隠さず全て本音で話せるようになったら。
──うん。そうなったら嬉しいかも。
この言葉だけは紛れもなく私、西宮奏の本音であった。
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