天才女優は劣等感という沼にハマり続ける


side来崎茜


やっぱりだ。やっぱり。お兄ちゃんは凄い。


私なんかとは比べ物にならないくらい。


来崎茜の目に達也しか映っていなかった。


いや、本当に達也を見ているのかすら怪しい。それ程までに天才女優と言われた来崎茜は才能に狂っていた。


自分の中に渦巻くどす黒い感情に名前はまだない。


これが嫉妬?いや違う。なんだろう?


来崎茜は考える。


だが、考えても出てこない。


出てこなくてもとりあえず演技は続ける。私なんかがお兄ちゃんの邪魔をしちゃいけない。


四年前。お兄ちゃんの邪魔をしちゃったことを思い出す。


あの時のお兄ちゃんかっこよかったなぁ。


なんて事を思う。


私を心配して抱きしめてくれた。



私は演技を続ける。


あの時確かにお兄ちゃんは妹を心配していた。


だけど、その妹というのは私じゃなくなった。


私の


私は必要されていない。


お兄ちゃんの中に私という存在は消されて、もう1人の私に上書きされてしまった。


いや、もう1人の私ですらない。


あれはお兄ちゃんが作り上げたなんだから。


私は演技を続ける。



……でもね。いつかね。




私を妹としてまた見てくれるようになるのかな?






そうだといいな。








これが依存だとしても私にはもうお兄ちゃんしかいないから。





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