28話「強奪の死神」
イニグランベという国の王都では現在進行形で催し物が開催されている。その催し物には服装は所々破け、茶髪に近い色で短めのツンツン寄りの髪型をした輪道新太という少年が参加していた。
そしてその新太の前には大きな鎌を持ち所々に紫色に怪しく光り、黒色のボロボロな服装でドクロの仮面を着けたシューナという人物が立っている。
新太は今後の為に資金を調達するため体を張って闘技場で戦っている。
(さてと、とりあえずあの鎌は魔道具の一種だという事は分かったけど。斬られた左手がどうなるのかが分からない)
先程新太はシューナから攻撃を受けて左手を負傷…した筈だったのだが、鎌が突き刺さった左手に傷は無く血も流れていない。だがしかし、負傷した左手を見るとなにやらドクロマークの様な物が浮かび上がっていた。
(何だコレ?でも気にしてる暇はない!カランの時だって鎌なんか使ってないし、どう対処すればいい!?)
「…怖い、か?」
「っ!」
新太が試行錯誤をしようとしている最中に声が掛けられる。不気味に光る色が更に恐怖を掻き立ててくる。
「怖くはねえよ…俺はアンタより怖いものを知ってるからなぁ!」
新太は体勢を低くすると右手を後ろに風を噴射し一気に距離を詰めていく。その勢いを維持したまま新太は右脚のハイキックで攻撃するが、鎌で防がれる。
地に着地してから直ぐに新太はしゃがんだままで足払いで体勢を崩そうとしたが、簡単にジャンプして避けられる。そこからシューナは真下に居る新太に鎌を振り下ろす。
得体の知れない攻撃を喰らう訳にはいかないと左手を真横に向けて風の魔力を出そうとしたのだが――。
(あれ――出ない!?)
このままでは迫るシューナに遅れを取ってしまい再び攻撃を喰らってしまう。
「ぅおおおお!」
「がっ!?」
しゃがんでいた新太は勢いよく立ち上がると頭突きみたいに頭を突き出すと互いの頭がぶつかり合う。
まさかの頭突きで不意を突かれたシューナも体勢を崩して地面に落下してしまうが、直ぐに新太から離れる。
「っあぁぁかああぁぁ~!痛ってえ…」
ぶつかり合ったがダメージが大きいのは新太の方なのが他の者から見ても分かった。シューナには頭部を護るために装備しているが、新太にはそれはない。
そのため頭から血が流れてきたが、今はそんなことはどうでもよかった。問題なのはシューナの攻撃を避けようとした際に左手から魔力が出なかったこと。
(まさか…まさか!)
考えたくはなかった。きっと疲労が原因で出すことが出来なかったのだと信じたかったが、静かに左手に魔力を纏おうとしたが。
「なるほどな…アイツの魔道具は魔力を使えなくする類の物か!」
魔力の流れの見え方は人によってはそれぞれ違って見える。新太には腹部を起点にして、そこから気体の様に全身に行き渡る感覚。
だが今は全身に行き渡る感覚で、唯一左手だけが除外されているのだ。それはまるで何者かに妨害されているかの様に。
「直ぐに気付けて良かった…とは言えねえけど」
「気付いた、か。なら…次は片脚だ」
シューナは鎌を前に突き出して新太に堂々と宣告する。しかし新太の左手は決して動かなくなった訳ではない。魔力を纏えなくなるという縛りが追加されただけで、動かすことに支障はない。
そして鎌を持ち直したシューナは新太に迫りだす。だが今回は新太自身から近づくことはない。理由は相手の決め手が武器の鎌であるということだ。
接近戦を相手が仕掛けてくるのならば、こちらが近づく際に使用する魔力消費を最低限に抑えるためである。
横に薙ぎ払う鎌を後ろに下がって避けると、今度は片手で持ち直し斜め下から上へと振り上げる。新太はその攻撃を躱すため地に向けて右手で風を起こすとその勢いを利用してバック宙で避ける。
『
シューナは距離が空いてしまった新太に先ほど放った魔法を近づきながら放ってくる。黒色の液体のレイピアの様な武器が出現し迫ってくるが、狙いが正確ではないのかほとんど動かずに避ける事が出来た。
(――やべ!魔法に目が釣られた!)
自身で死角を作ってしまった方向に、シューナは新太の側面側に鎌を構えていた。
しかし新太はシューナに向けて風の勢いを利用した突進して左肘でエルボーの要領でシューナの腹部に当てる。そこから右拳に魔力を纏わせて顔面に右アッパーをシューナに叩きこむ。
少し浮き上がったシューナの武器を奪おうとしたが、シューナの右脚のハイキックが邪魔をして奪えず防御してやり過ごすことしか出来なかった。
(クソ!奪えなかった…)
だがしかし怯んでいる今が好機だと思った新太は距離を詰めようと走り出す。今もシューナは片手を地面に置いて立ち上がろうとしているのが見える。
右拳に魔力を纏わせながら迫ってくるのを静かに見ていたシューナはドクロの仮面で隠した口を動かす。
『
黒い水で形成された鮫の様な口が新太の目の前に出現する。それは所々に綻びが生じており、鋭い歯で相手を嚙み砕ける強度は持ち合わせていなさそうだった。
「わぷっ!?」
しかし形成されているのは水であることには変わりはない。大きな口が新太に覆いかぶさるように襲う。直ぐに新太はその水の中から飛び出す様に切り抜ける。
「ゴホッ!ゴホッ!」
自分の体を見てみるが目立った外傷は無い。
しかしだ――。
しかし左手に力が全く入らない。それは指一本も動かすことが出来ない程に。考えられるのは先程喰らった技が原因なのだろう。
(腕は動かせる…でも手は無理か!けどこいつの狙いはある程度分かってきたぞ)
シューナの狙いは恐らく相手の動きを武器と魔法で阻害しつつ自分を有利にしていく戦い方。だがこれは新太の推測であり、真意は分からない。
「さあ。続けよう…」
そう言い放つとシューナの周囲から黒い水が出現していた。その黒い水が一直線に新太に襲い掛かってくる。
(複合された水を出すだけでも特別な詠唱は要らないのか!だがその分軌道は読みやすいが…奴の周囲にある以上簡単には攻められない)
新太は襲って来る黒い水を避けながら闘技場を走り回る。縦横無尽に逃げ回って、転がって避けてみるが勢いが落ちることは無い。
「やられっぱなしは嫌なんでねっ!」
途中で止まった新太は突然の投球フォームをし始める。その右手には闘技場の床に使われている石板の破片。
新太の手から投げられた石板の破片も一直線上にシューナに向かっていく。だがシューナは当たりそうになるが腕を振り払うだけで破片をはたきおとす。
「もういっちょ!」
先程に続いて新太の全力投球2投目。だがシューナも黒い水を新太に向けて放つが放ったと同時に破片ははたきおとされる。
向けられた攻撃に新太は前に向かいながら避けて進んでいく。そして再び3投目を投げ込む。
「ッッ!」
何度も同じ手を出してくる新太に『謎』と『苛立ち』を感じたシューナは前方に広範囲の黒い水の攻撃を繰り出す。
「マジか…よ!!」
新太は急いでその場にしゃがみ込むと闘技場の石板の隙間に右手を突っ込むと、魔力込めて思いっきり力を入れてひっくり返すとその石板を魔力を纏った右拳で打ち壊す。
砕かれた石板は瓦礫となり黒い水に衝突し合う。意外にも黒い水は瓦礫の攻撃で打ち消すことが出来たが、武器と扱った瓦礫は衝突した同時に消滅してしまう。
この場面を切り抜けた新太は4投目を投げようとしていた。その姿を捉えたシューナは鎌を構えて近づいてきていた。
だが新太の右手には何も握られていなかった――。
そのままその右手を拳に変えて闘技場の床を殴りつける。するとその衝撃で土煙が舞い上がって2人を包み込んでいく。
呆気に取られてしまったシューナはしばらく何も行動出来なかったが、直ぐに冷静さを取り戻すと魔力で新太の居場所を感知しようと画策するのだが――。
「らあぁ!!」
もう遅かった。
新太の右ハイキックがシューナの頭部を捉える。そして横に回り込んだ新太は左肘を肋骨付近に打ち込む。それに続いて右脚の後ろ回し蹴りを顔面に打ち込む。
よろけたシューナを投げ技で追い打ちを仕掛けようと掴もうとしたが、新太は脚が縺れたのか倒れてしまった。
(な、んで!?速く立て!倒せなくてもここで大きなダメージを与えることが出来るんだぞ!)
気合いで立ち上がった新太だったがシューナはもう目の前まで来て鎌を振りかぶってくる寸前だった。
「う…くそおぉぉぉぉぉっ!!」
新太は後ろに倒れながら左脚で鎌の攻撃を受け止める。その際に鎌の刃が左脚に深く突き刺さってしまったが、鎌の勢いを止めることは出来た。
そのまま鎌を引き抜くように後ろに退いたシューナは直ぐに再び黒い水を出現させる。
(マズイ!満足に動けない状況で喰らう訳には――。)
「黒き水よ命令す――」
詠唱をし始めようとしたシューナだが、自身も片膝を地面に着けて動けなくなる。
(そうだ…あれだけ彼の攻撃を喰らえば、こうなるか)
ドクロの仮面の下で座り込んで自身の震える手足を見て、原因を理解する。
鎌を杖代わりにしながら立ち上がって、相手を見つめる。
「効いてきた、ようだな。どうだ?体全身が、痺れるような感覚だろう?」
「やっぱりあの黒い水のせいか…!」
片膝を地面から何とか離して立ち上がる新太だが、シューナの言っていた通り麻酔を投与されたような感覚で徐々に蝕まれているのが分かる。
「ぅぐ…!」
気を失わない様にこらえる新太だったが、目の前の光景はシューナがこちらに向かって来ていた。
ズガッッ!と振り下ろしてくる鎌を飛び込む様な形で避けるが、シューナはその後の隙を逃す理由はない。
飛び込んだ先の新太目掛けて腹部辺りに蹴りを入れ込むシューナ。新太は防御することも出来ずにゴロゴロと転がって闘技場の端まで追いつめられる。
「お゛ぁ!ゴホッ!ゴホッ…」
「諦めろ…お前では、私には勝てない」
「……」
シューナは歩きながら近づいてきており、鎌の刃先には黒い水を纏わせていて一歩後ろに足を動かすと黒い水が水圧カッターの様に魔力と共に飛ばし、新太に迫ってくる。
この技を喰らってしまえば更に体全身が動かなくなってしまうと絶対に勝てなくなってしまう。それだけは何としてでも防がなければならない事態。
当たる直前に右手を真横に出し、風を噴射して攻撃自体は避けることは出来たのだが――。
「あ゛ぁ?」
避けた先にシューナが拳を振りかぶらんとしている姿がそこにあった。
そしてシューナの拳が新太の右頬にぶち当たり、新太はとうとう闘技場の外に出されてしまう。
「カウントを進める。1…2…」
クロイアが進めていく10カウント以内に戻らなければ新太の負けとなってしまう。しかし新太は立ち上がる様子がない。
「4…5…」
このまま倒れたままいればこの後に「責任」という言葉から逃れられる。あの2人には相手が悪かったなどと言って貰えれば関係性は多少維持し続けれるだろう。
でもその選択を取ってしまうのは絶対に駄目だと本能が言っている。少年の心が叫んでいる。
ダン!と右手を勢いよく地面に叩きつけるとユラユラと立ち上がっていく。
「7…8…」
「……」
乗り上げる様に闘技場の段差を上がっていくと新太は再びシューナに面と向かって立っている。
「お前には悪いけどさ…諦めきれねえんだわ。友達2人に…助けたい人。あと勝手だけどこんな俺と戦いたいと言ってくれた奴もいる…!ここで俺がその選択をしてしまったら大切な物が全部無くなっちまいそうで嫌なんだ!」
目の前に立つ少年の言葉はあまり聞いてはいなかった。正確には聞けない状況だったのだ。
片腕の機能と魔力は奪った。全身には黒水を浴びせて満足に動かすことが出来ない様になっているというのに、異様なプレッシャーを放っている。
「俺は…勝つぞ」
(いや有り得ない。奴の左手部分の魔力は奪い、そこには黒水で動かすことが出来ない様にした。他の部位も魔力を奪っていないとはいえそろそろ効いてくる筈なのに…)
シューナの狙いとしては、魔道具の鎌で斬った箇所の部位に纏っている魔力を使えなくする。そこに闇属性と水属性を複合させた魔法を放つことで相手に状態異常を付与させるという戦法なのだ。
相手の魔力が無い状態で「闇属性」の魔法を当てると、その効果は増していく。一人一人の魔力総量によって効き目は左右されるが、無い状態にしてしまえば話は別になってしまう。
だがシューナから見た新太の評価としては「脅威ではない」と決めつけていたのだ。しかし今の新太を見れば――。
「魔力が、増している…!?」
(こっちが使えるのは右手と右脚。左手は駄目で左脚はどんどん痺れていくのが分かる。多分持って5分か…3分だろうな)
不思議な程に冷静に自分に置かれている状況を見極めている。見極めた上で巨大な力と共に新太は歩き出すとどんどん足を速めていく。
近づいてくる新太を見るとシューナは後退り武器を構える。それと同時に周りに黒い水を展開する。
黒い水がシューナの周囲に展開させた途端に新太は臆することなく全力疾走で一気に近づいていく。焦る事なくシューナは前方に黒い水の壁を展開して進路を妨害する。
すぐさま後ろに向いたシューナは回り込んでくる新太を警戒し鎌を振れるように体勢を取っていたのだが――。
(……来ない!?まさか上か!)
飛んでいるのではないかと上を向いたのだが、それでも新太の姿は見えない。埒が明かないので壁の役割をさせていた黒い水を解除し、もう一度周囲を確認し始めようとした。
次の瞬間――。
横から飛び出してくる新太の姿をシューナは目の端で捉えた。反応できずに新太の右腕のラリアットを喰らってしまった。
(どこ、から?)
シューナが壁として展開した黒い水が2人の間を阻んでいた。その間シューナは後方や左右ばかり気にしていたが、実際の新太は黒い水の壁前にずっと機会を伺っていた。
壁が崩されたタイミングで新太は横に素早く移動し、攻撃を喰らわせた。
「ワァァァァァ!!」と叫んでいる環境下でこの戦いを見ていた藍色髪の少女リオはあることを確信していた。
(ロザリーの時もプロフェヴァルで戦ったあの巨人。多分カランとも戦った時もそうなんだろうけど、アラタは自身が追い詰められると力を発揮するタイプなんだ。そして異常なまでに冷静に相手を見ることが出来る…それに)
汗ばむ手を握りしめるリオは言葉が詰まってしまった。どう表現すればいいのか分からなかったのだ。しかしこれだけは言える。
(こうなった時アラタの魔力は後押しされるかの様に一気に増大する。それは何かに『護られている』かの様に…)
良い事なのか良くない事なのかはさっぱり分からないが、今はただ闘技場で戦っている新太を見守るしかない。
その当の本人。新太は今ドクロの仮面を着けた人物に一方的に詰め寄り攻撃を繰り返している。
(魔力だけじゃない…最初の時よりも、動きにキレがどんどん増していく!)
鎌を持つシューナにとって距離を詰められる行為は不利になってしまう。一歩足を動かそうとすると新太はそれに続くようにピッタリ付いてくる。
(もう一度…左手か左脚を斬ることが出来れば!)
シューナは焦りと苛立ちに満ちあふれていた。その理由はシューナの持つ武器にあり、能力が多く関係している。
魔道具の一つでもある大きな鎌は「
だが目の前で攻撃を繰り出してくる少年は左手と左脚の魔力を奪われていた状態だったのだが、先程魔力が増大した際に斬られた箇所から魔力が復活の兆しが感じられたのだ。
「くっ…!!」
焦るなと何度も言い聞かせているのだが、そうそう上手くはいかない。相手も必死なのであり、残り少ない時間を使って攻めてきている。
だがそこには必ず隙がある!
シューナが一歩後ろに退くと新太も少し遅れて着いてくる。新太はそこにまだ痺れが残っている左手を伸ばす。
ここだ!と心の中で思ったシューナは鎌を後ろに回して持ち手を変えて、伸ばしてくる左手に向けて斜め下から斬り上げる…のだが――。
ガギイィィィィィン!!とシューナが持っていた鎌は上空に投げ出されていた。
「何もそんなに驚くことは無いだろ。執拗以上に左手か左脚を狙って来てるのが分かったからな…それを利用させてもらっただけだよ」
伸ばしてきた左手は完全に伸び切る前に戻しきった。そのあとに右脚を下から振り上げ鎌を上空に蹴り飛ばした。
カランッッ!!と鎌は地面に落ちて闘技場の床に突き刺さってしまう。シューナはもう分かっている拾いに行けば確実に殺られると。そんな絶望的な状況になったとしてもシューナは新太に近づいて殴りかかろうと立ち向かう。
しかし左手で右腕の軌道をズラされカウンターを喰らってしまったシューナは吹っ飛ばされる。だがそれがシューナの狙いでもあった。
「黒き水よ命令する!我に在りし力を使い大いなる命を召喚し、前に立つ者を嚙み砕け!!」
シューナが距離を取って詠唱をし始めているのを見て新太は静かに右手を隠す様に回していた。言葉を発していたその時に「大技が来る」。と、なんとなくで感知していた新太も静かに詠唱をし始めていた。
(多分俺がどんなに頑張っても奴の大技に打ち勝つことは出来ない。だけど…多少威力は相殺出来る!いや、やらなきゃ負けるのは俺だ!!)
「風よ命令する。…我に在りし力を使い、数多を断ち切る刃を放て!」
『黒鮫の咬砕き《ダルト・サモン・メルモーント》!!』
その技は最初新太に向けて無詠唱で放たれた魔法だった。シューナから放たれた魔法は黒い水で形成された大きな鮫が新太に向かって放たれる。大きな巨体と鋭い歯を見せながら、どんどん迫ってくる。
『黒鮫の咬砕き』が攻撃している間にシューナはよろけながら蹴り飛ばされた鎌を拾いに向かう。その一方で新太は右手に精一杯の攻撃魔力と防御魔力を溜めていた。全長5m程の黒い鮫が大きな口を開き新太を食おうとしていた時、新太も動きを見せた。
『
右手を上から下へ振り下ろすと大きな風の刃が出現する。だが新太の魔法ではシューナの魔法を真っ二つにすることは出来なかった。
斬ることが出来たとしても半分ぐらいだった。2つに割れ欠けた黒い鮫が風の刃を噛み砕くと、その先に待つ標的に向かって更に口を拡げる。
だが、これでよかった――。
今の自分にこれだけの事が出来れば十分だった。
「おおおおおお、おおおおおおおおおおおおお!!」
そして新太は襲い掛かってくる黒い鮫に向かって駆け出していた――。
バシャアアァァァァァァァァァァッッ!!と黒い水が飛沫を上げて辺りが衝撃によって破壊されていく。
(自ら…当たりにいった!?)
「ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
小さくてくぐもった声が聞こえてくる。それは黒い水の中から弾丸の様に新太は飛び出してきた。魔法に飛び込んだ際に風を噴射していたため、地面スレスレの飛行とは呼べない距離の詰め方であった。
新太は頭部や腹部からなど様々な箇所から血を流しており、左半身を前に向けながらシューナに迫っていく。
目を開きながら、右手を力一杯握りしめながら新太は風を纏い始めていた。そして新太の渾身の右ストレートが繰り出されそうとしている。
だが――。
(分かって、いたよ!)
シューナも鎌を横に振りかぶっていた。それは右手に狙いを定めた一振りで、新太も空中にいるため避ける事はもう間に合わない。当たってしまえば新太にはもう勝ち目は無い。魔力の大量消費に体の痺れ。これ以上の戦いはもう望めない。
(ああ。もう終わりだよ…この戦いは。互いに残っている力は無い…だからこれで終わらせる!)
シューナの鎌が新太に当たる――寸前だった。
ビュンッッ!!と新太の右手から風が巻き起こる。下に向けた風は新太の体を更に上へと上昇させ、一振りの鎌は空を斬った。
更に浮かび上がった新太は空中で体勢を立て直すと右脚をシューナの頭部に狙いを定めていた。
「だあああああああああああああああっっ!!」
高く上げた魔力を纏わせた右脚をそのままシューナの頭部に目掛けてかかと落としを当てる。勢いに耐えきれなかったシューナはそのまま地面に叩きつけられる。
ズガアアアアアアアァァァッッ!
大きな物音を上げて闘技場の一面は土煙に包まれる。そして煙の中で立っていた者は――。
右腕を空に向けて掲げている少年。
輪道新太だった。
(……なんで俺、片腕上げてガッツポーズしてんの?恥ずかしいんだけど)
そして空気が震える程の歓声が響き渡り始める。地面に寝ているシューナは一目瞭然で意識を失っているのが分かる。そして審判であるクロイアが新太の勝利を宣告すると更に声は大きくなる。
「………ぅあ」
気が抜けてしまった新太は膝から崩れ落ちて瞼を何度も開けたり閉じたりを繰り返していた。
ピシッ!!と何かが割れる様な音が聞こえてくる。顔を上げるとシューナが身に付けていたドクロの仮面が割れ始め、遂に顔が露呈してしまった。
朱色の髪で後頭部に髪を結んでいた髪型の女性が仮面の下から出てきたものだから、新太は愕然としていた。
(うえぇぇぇぇっ!?女の人だった…の――。)
シューナの性別が判明した途端に新太の意識がどんどんと遠のいていき、バタンッ!と白目を剥いて気絶する。
しかし2回戦の戦いで新太は3回戦へと駒を進める――。
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