26話「開催!勇者達の円舞曲」
魔法で花火がこのイニグランベ国。闘技場の周りで上がっており、人々が熱狂を起こしていた。
「さあ。天気も晴天に恵まれ、観客の熱が最高潮に上がっております!」
実況席に座る女性のアナウンスが声を出すとそれに続くように、更に観客も声のボリュームを上げていく。
「それではこの世界に召喚された勇者とその仲間の登場だあぁ!」
「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」
「うるさいなぁ…」
自身の獣耳を抑えて騒音を堪える人物が席に座って呟く。フードを深く被り顔が見えづらいが、可愛らしい容姿をしていて首までかかったピンク色の髪、そして頭部から獣耳が生えた中性的なカランという人物。
「これが王都の催し物では普通なんでしょうね…耳栓でも持ってくるべきだったのかな」
カランの隣に座る少女は短いデニムパンツを身につけ、紺色の上着を羽織って黄色のカチューシャを身に付けた女の子リオという少女だった。
「それにしてもアラタは本当に大丈夫かな?やっぱりやり過ぎたんじゃ…」
「むぅ……」
カランも思い当たることがあり腕を組んで顔を伏せる。しかしそんな暇も無く実況の人物が大声を出していく。
「1人目を紹介しましょう!南の国スーリアで召喚された勇者ァァ!彼女の扱う鮮やかな魔法に翻弄されない相手はいるのかぁ!フジタァァッ!マナァッ!!」
藤田麻奈と呼ばれ闘技場の中心に上がっていく女性は髪はロングボブでオレンジ色に近い色で装備は、緑色を基調とし服の袖などには少しヒラヒラした布が使われて民族衣装をイメージした服を身に付けていた。
その後ろに付いてきている人物は性別は分からないが、赤色の鎧と青色の鎧を着た2人が藤田麻奈と共に入場していく。
「2人目は彼女に撃ち抜けない標的は存在しないのかァァッ!!エグチィィ!リィィィンッッ!!」
新太と同じタイミングで召喚された者で名は江口凛。髪型はセミロングで暗めな茶髪色の女性。透明感がある黒色の鎧に薄く赤い発光を繰り返している部分を持っている物を着ていた。左目にはレンズが入ったゴーグルまで付けている。
「ま、待って下さいぃ!凛さ~ん!!」
「お~っと!まだ呼んではいないが気合十分だと受け取ったぞおおぉぉっ!可愛らしい見た目とは裏腹に彼女の守りはまさに要塞!崩す者は現れるのかぁ!ウエダァァッ!ルゥゥカァァッッ!」
江口凛を追いかけて手を引っ張る人物は上田瑠香。黒髪ストレートヘアの女性。モコモコとした白い毛に紺色のを基調とした装備で見るからに暑苦しそうな服装であった。
そんな中に上田瑠香を追いかける男性も続いて入場していく。シルクハットを被り、燕尾服の様な服装を身に付けた20~30代の水色の髪の男性も並び始める。
「まだまだ4人目!その槍は相手を貫き、その槍の先の敵は稲光に包まれ灰塵となる!オオシマァァッッ!カァァツキィィィッ!」
槍を掲げながら大島克己は入場していく。その後ろにはニーナとドリオンが参加しており、ニーナは観客に手を振りドリオンは両腕を曲げて力コブを見せるようなポーズを取って入ってくる。
「そろそろ終盤となってまいりました!南の国スーリアに呼ばれた勇者ァァ!神出鬼没のミステリアスな女性!ケイシィィーッッ!!」
グレー色がかったハイライトカラーでショートヘアの大人びた女性。その人物は今まで出てきた勇者とは雰囲気が違い、克己達の元居た世界では欧米人に当てはまっている。
羽の飾りが付いたハット方の帽子に黄色の貴族の様な衣装を身に纏っており、腰には2刀の剣を携えている。
そしてケイシーの後ろには今までの人物とは様子が違い、一人は大きな鎌を持ち顔にはドクロの仮面を着けている。
もう一人は大きな銃を肩に乗せていて、少しゴツゴツしたズボンで両腕には装備で武装してビキニという露出が多めの女性。
これを見ていたリオとカランはその人物達に釘付けになっていた。
「如何にもっていう奴が出てきたわね…」
「見た目とは裏腹に案外弱いという可能性も捨てきれないけどね。けど、その線は薄そうだ」
「いよいよ大詰めとなってまいりましたぁ!6人目。その力は未知数。死んだとされていた勇者!死の淵から蘇り、我々に返り咲く姿を見せてくれるのか!?リンドウゥゥ!アラタァァッ!」
新太の名前が遂に呼ばれリオとカランは唾を呑み込み、会場の方を凝視する。だが目に映った光景は――。
「うぅ…重いよぉ…体が動かねえよぉ」
「ア、 アラタ選手の体は既にボロボロであります!?一体彼の身に何が!?」
服装は所々破け、茶髪に近い色で短めのツンツン寄りの髪型をした輪道新太という少年が木の棒を杖代わりにしてゆっくりとノロノロと入って行く。
その表情は険しく、観客からは笑われている。それでも新太は気にせず歩いていく。中央に辿り着くとすかさず克己が新太に肩を貸し始める。
「やっぱり参加しないほうが良いって!控室でもその調子だったじゃねえか!?」
「それは駄目なんだ…時間はかかるかもしれないけどゆっくり歩いている暇も無いんだ。約束果たさないといけないから…!」
(目は
「とりあえず始まるまで横にさせて。少しでも休みたいからっ!」
「いいけど、次で入場者最後だろ」
「それでも…少しでも休みたいんだ…!」
「人の目が気にならなければいいんじゃないか」
すかさず新太はうつ伏せになって自分だけの世界に入って体を休めることに全力を注ぐ。
「気を取り直しまして、いよいよ最後の勇者の登場になります。今もなおその名を轟かせ続ける希望の光!その光は世界を照らしてくれるのかぁぁ!?テンドウゥゥ!ヒィィロキィィッ!!」
観客が転堂裕樹の名を聞いた途端に今までどの人物達よりも声が一回り二回りも大きく盛り上がる。それほど転堂裕樹の名が広まっているのだろう。
裕樹の後ろには褐色肌の男性ブラハードと金髪でロールを巻いた長髪で大人びた女性ルベルが後ろに付いている。
そして参加者達は代表者を先頭に横一列に並んで一人を除いて正面を見る
「さあ参加者16名が出揃いました!ここで主催したこのイニグランベ国王のルミノジータ・ウキメ・イニグランベ様のお言葉を頂きたいと思います!」
参加者達は揃って見上げると玉座に座っていた女性が立ち上がり冷徹な目つきで見下ろしていた。
身長は恐らく180に近く、薄紫色の髪色で束ねた髪を後頭部でまとめた髪型をして、こめかみ部分には煌びやかな髪飾りを付けている。白色の基調とした服で、所々に黄色の線が良いアクセントになっている。ミニスカートの後には2つに分かれたヒラヒラした装飾品があり王族らしい衣装を着ている。
そんな彼女はずっとうつ伏せで寝ている新太の方に視線を移している。それを察した克己が背中をバシバシと叩いて新太を起こす。
「起きろ新太!寝ている時間は無くなったぞ!王様がお前を見てるからぁ!」
「うぁ!?え、もう始まる?」
「いいから黙って立って話を聞け!」
新太は側に置いていた木の棒をもう一度杖代わりにして震える脚でその場に立つ。意外にもお咎め無しだったので起こした克己も何かしら処罰が下されるかと思ったがそんな事は無かったので安堵していた。
「私がこの国の王であるルミノジータ・ウキメ・イニグランベだ。異邦の者そしてその仲間達よ…これまでの戦いで培った経験。そして護るべきである民たちに力を見せてみろ!貴様達の光が高貴な物なのかこの私に魅せ、力を奮ってみせろ!」
その言葉を言い終えれば観客達が盛り上がる。余程この王が民達に支持されているのかが分かる瞬間である。
「勝ち抜いた者には50万エルを渡そう。2位の者には25万。3位は10万を。そして戦いの中で目を引く者が居れば、我が国の兵士として迎え入れたいと思っている」
(3位までに入れば賞金ゲットか…ノルマ達成まで4回勝たないといけないのか)
「さあ。この戦いのルールを伝える。1つ相手の命を奪うことは許されない。2つ闘技場の外に落ちることは敗北とみなす。しかしカウント10以内に闘技場内に戻れば戦闘続行となる。3つ闘技場内で倒れた者に追い打ちを仕掛けるのは反則とみなす。尚倒れた者はカウント10以内に立ち上がり身構えることが出来れば続行となる。カウントは審判の者が相手の姿を視認した瞬間から始まる」
国王が話をしている中その後ろから白銀の鎧を着たオレンジ色の髪色で七三分けされトラッド風な髪型をした男性が近づいた。
「試合の審判を行う者は、このクロイアが務める。出した審が気に食わず反抗をする行為は推奨はしない。お前達の実力ではこの者に勝つには力不足だからだ」
「まるでボクシングとか格闘技みたいなルールな感じだし、おっかない奴が出てきたな新太…?」
克己が新太に向かって話し掛けようと視線を移すと新太の目は死んだ様な目をしているのだが、目の奥には闘志を燃やしている様な目をしているのを見た克己は静かに王に向き直す。
「試合形式は1対1の戦いである。邪魔は許されない。被害については考えなくてよい…王である私が民達を護る」
折りたたまれた大きな旗を床にコツッ!と当てると闘技場のフィールドからドーム状に広がって外で観る人達が傷つかない様な結界が張られていく。その光景を見ていた新太達はその覆っていく魔力を見て驚嘆していた。
(すっげえ。これで広々と戦えるのか…よかった。それに1対1の戦いってことは自分の番が来るまで時間がある。少しでも多く休めそうだ!でも戦う相手ってどう決めるんだ?くじ引きとか?)
「それでは戦う者達の相手を決めていく。諸君自身に着けた腕輪見てもらおうか」
その装着した腕輪は今大会が始まる前に渡された代物であり、ただ言われたことは装着していて下さいとそれだけだった。
「その腕輪は組み分けを行う際に使われる代物だ。魔力の柱がその腕輪から発生し、光った者達が戦うことになる」
「これはその為だったのか。じゃあこれトーナメント方式でもないなら、2回戦3回戦誰が当たるのか分かんないんだ。てことはこれ直ぐに戦う事になっちまう可能性もあるのか!?」
「それでは1回戦目の抽選を行う」
新太は手をバシッと合わせて必死に祈っていた。戦うのは後の方でお願いしますと。どんな相手でも戦いますからと祈っていた。
そして誰かの腕輪が光始める。新太は恐る恐る目を開けて自身の左腕に着けた腕輪を見ると――。
透明に光っていた。
「うおおお、うおおおぉお!!畜生!なんでだー!!」
自分のどうしようもない不幸に新太は泣いていた。正直こんなボロボロな状態で戦えるのかなんて分からない。
両手で顔を覆って泣いている新太を見ていたリオとカランもこれには同情していた。
「なんだよ。初戦の相手はお前かよ…これは楽しょ――。」
「すいませーん!王様。せめて3戦目とかに順番を回して貰えませんか!?まだベストコンディションとかじゃないんで――。」
どうやら新太の相手はブラハードのようで、自分が格上かのような態度で近づいてくるのだが、新太はそんなのお構いなしに国王にお願いを申し出てみる。
「ならぬ。決戦の日までに調整を怠った貴様が招いた事だ」
「ぐぬぬ…それを言われたら返す言葉もございませんな」
「そうだぜ。お前はとっとと俺に負けるのが運命な――。」
「ま、まさか今すぐ戦うってことじゃないですよね!?せ、せめて10分後に開始とかになりませんか」
国王は新太の必死で訴えてくる表情を見ると目を瞑ってほんの数秒黙り込む。そして目を開け全体を見渡し立ち上がる。
「それでは早速1戦目開始する!戦う者はその場に残れ!」
「どうしよう克己さん!俺の願い届かなかった!」
「当たり前だろ」
「うおおおっ!何でだぁ。王様だったら10分ぐらいどうってことないだろ!そういや俺の相手って誰なの?」
「お前に突っかかろうとしていた褐色肌の男の人だよ」
「あぁブラハードか。まだ何とかなるかな…克己さんお願いがあるんだけど。いいかな?」
そして参加者達は出入口に集まっていき中央の闘技場には新太とブラハードだけが残った。
「さあ。ウキメ国王のお言葉を頂き、勇者達とその仲間達との熱狂するような戦いは見れるのか!両者並んで……ないっ!?アラタ選手は闘技場外で準備運動をしている!」
新太はゆっくりと上半身と下半身それぞれ動かしていた。しかし準備運動のため闘技場外に居るのではない。新太は待っているのだ。
「新太―。持ってきたぞー」
「ありがとう克己さん」
克己が持ってきたのはバケツ一杯に入った冷たい水とタオルだった。頼んでおいた物が目の前に置かれた途端に新太は上着と靴を脱ぎ始める。
「何やってんだ…お前」
「気合いの入れ直しです」
そう言って新太はバケツをひっくり返して中に入っていた水を被る。しかし思っていたより水温が冷たかったので急いでタオルで体を拭き始める。
「お前やってて恥ずかしくないのか」
「は、恥ずかしいよ!お、俺はそんな羞恥プレイには興味は無いよ!」
寒さで震える声で誤解を解く努力をする。そして拭き終えたら脱いだ衣服をもう一度着なおすと両頬を手で叩いて気合いを入れる。
「おし!じゃあ行ってきます!後片付けもお願いします」
「おい」
闘技場の階段を上って真ん中で並んでいるブラハードの前に立つ。
「お前…俺を舐めてるのか。自分が今どんな立場に居るか分かっていないようだなあ?」
「いや。待たせた事と無視してた事について悪いと思ってるよ。けど立場に関しては今は関係ないだろ」
「ハッ!何でもいいけどよお…お前の戦い方なんてたかが知れてんだよ」
少ない旅路であっても相手だって新太の事情を知っている。新太は武器を扱う事が出来ないし、身を守る鎧なんて装備できない。
大きな力で新太を踏み潰せば簡単に倒される存在。それをブラハードは分かって両手斧を構える。
だからこそ新太は自分の弱さを補うためにベストは尽くしてきた。その戦い方の集大成を友の為に見せるため新太も身構える。
「ん?なんだその変な構えは?」
ブラハードに指摘された新太の構えは、姿勢は低く。右手は前で握りしめて、左手は開いたまま後ろで構えていた。
「気にすんな。俺の国の
「さあ。両者共に準備は整いました!合図である魔法が今、王から放たれようとしております…」
立ち上がった国王の指先からは金色に光る魔力が出ており、その光球が空に向かって放たれた――。
ビュンッッ!!と風が強く吹き荒れる様な音と共に発射された合図と同タイミングで新太はブラハードとの距離を一気に詰める。
「おおーっと!?アラタ選手!いきなり全速力でブラハード選手の前まで近づいたぞ!」
「っんの!?」
迫る新太に向かって両手斧を横振りで牽制したが、新太は寸前でスライディングで攻撃を避けたと同時に、地面に手を着いて両足でブラハードの腹部に攻撃を入れ込む。
よろけるブラハードは四つん這いの新太に向かって斧を振り下ろすが、右手を横に向けて風を巻き起こして攻撃を避けたと同時に左手から風を起こし、ブラハードの顔に向かって裏拳を叩きこむ。
(クソッ…やっぱり鎧のせいで攻撃が効きづらいな!)
しっかり相手に攻撃を当てた感触はあるのでダメージは通っているのは分かるのだが、如何せん効いている表情には見えなかった。
「はは。正直驚いたぜ…あの役立たずのアラタがここまで動けるなんてな」
「勝ち目がなさそうって思ったらそのまま回れ右して退場してくれてもいいんだぜ」
「いきなりの熱い攻防を両者は見せていただきましたー!見ていた感じですとアラタ選手は武器を手にせず、素手で戦っていくスタイルの様です」
戦闘開始時点から見ていたリオとカラン。リオは喜んでガッツポーズしてカランに絡んでいた。
「見てよカラン!あの特訓のおかげで戦えてるよ!」
(アラタの戦い方はとりあえず通用している。戦闘スタイルとしてはとにかく近づき自分の独壇場にする。相手が距離を置く時は手から風属性の魔法を出して近づいて手数で勝負する。だけどその分――。)
「ああっーと!ここでアラタ選手。攻撃を喰らってしまったぁー!」
(体力の消耗は激しくなる。さて気力は持つのかね?)
ブラハードの攻撃をかいくぐって接近戦に持ち込むのにはやはり度胸が必要だ。しかしこちらにも手数で勝っているという利点がある。
「ふぅ~。はあっ!」
息を整えて手から風を出しブラハードに近づく。ブラハードは小振りで斧を振り回しこちらに来させないように距離感を保つ。
(相手も俺の戦い方を分かってきている。だが!)
一直線に突き進むと見せかけて攻撃が当たる寸前で下に手を向けてブラハードの頭上に飛んで近づいた。
ブラハードは新太に向かって炎属性の魔法を当てようと炎の壁を出現させたが、炎の壁を目くらましに使い新太は更に上昇し、ブラハードの後ろに回り込む。
そしてそのままブラハードに向かって足払いで攻撃を仕掛け転倒させる。後ろ向けに倒れる相手の手首を掴むと、新太は一本背負いの要領で地面に叩きつける。
そのまま追い打ちを仕掛けたかったが、大会のルールがあるため実況のアナウンスが声で止めに入る。
「如何にも強烈な一撃が入りました!さあブラハード選手は立ち上がれるのか!?カウントが入ります。」
「1…2…」
クロイアが近づき新太をブラハードから離れさせカウントを進め始める
(ふう。まだこいつは立ち上がる筈だ…さてと、カランの思惑通りに行動してくれるか?)
「6…7…」
「あ!ブラハード選手立ち上がりました!そして構えたので戦闘続行です」
新太も試合開始時に見せた構えで相手を睨みつける。再び風の推進力で距離を詰めてブラハードの懐に一気に入り込む。
(なあっ!?こいつどんどん速くなっている気が…)
斧では不利だと感じたブラハードは腰に着けていた片手剣を抜いて応戦し始める。相手の武器を見た新太は前方に風を噴射し急ブレーキを掛ける。
迫ってくる新太に向かってブラハードは下から剣を振り上げて攻撃するが、横に転がって回避する。ただ相手もこれだけで終わらせる気はなく、横斬りや縦斬りなどで複雑に斬りかかってくる。
しかし新太は剣を拳で受け止める行動は取る事なく避けることに徹底している。以前までの新太ならば痺れを切らして反撃に出ていたであろうが、カランとリオによる鍛錬の賜物が新太をそうさせている。
ただ攻撃を受け止めるのには自身の魔力を消費してしまう。ならば可能な限り相手の攻撃を避け続けて、魔力を温存し続けるという事が新太の戦い方に適している。
(体はキツイのに魔力を動かすことはすごく集中出来る…スポーツ選手とかがよく起こすゾーンに入る。そんな感じだ)
ブラハードの次の攻撃は新太から見て、左側から横に斬りかかってくる。その予備動作を視認した時新太は、右手を後ろに向けて風を巻き起こしてわざと近寄っていく。
身体に迫ってくる剣を目だけで追い、顔はブラハードを見続ける。そして新太に当たる直前にブラハードの剣の持ち手である右手首を自身の左手で掴む。
「あ――。」
戸惑ったブラハードの反応を見逃さず、新太は右拳に攻撃魔力を込めて顔面に目掛けて右フックを放つ。
「ぁが!?」
仰け反るブラハードに掴んでいた手を引っ張ると、今度は剣を持っていた相手の右手を攻撃するべく、膝と肘で挟み込む様に勢いよく魔力を使って攻撃し片手剣を落とさせる。
「よっ!」
落とした剣は足で蹴り飛ばして闘技場外に落とす。
「ぐぅ…お!」
その場に倒れたブラハードは前に立つ新太を見上げていた。その視線は冷たく。それはまるで少しでも動けば即座に攻撃を仕掛けんと、目で訴えかけていた。
(ふざけるな…!相手はあのアラタだぞ!何も出来ない。こんな小さなクソガキにぃ!)
カウントが進んでいる中立ち上がるブラハードは再び両手斧を構える。
「ブラハード選手!再び立ち上がる!表情から分かる、執念の強さ。まだまだ勝敗は分かりません!」
(ま、裕樹と旅してるだけしっかり強いな…でも見た感じ、そろそろ来るか?)
立ち上がるブラハードを見た新太の次の行動は距離を置いた。おおよその感覚で約5m。両手はそれぞれ左右に伸ばして身構える。
「ア゛ァァァア゛ッ!溶岩よ命令するっ!!我に在りし力を使い、目の前の敵を灰と化せ!」
『
炎を纏ったブラハードの斧は地面に向かって振り下ろされる。叩きつけた斧からマグマが溢れ出し後ろに逃げている新太に向かって伸びていく。
(コイツの最大の攻撃技か!?)
マグマの柱が闘技場中央まで進むと、マグマの噴火が無くなり「しん…」と静けさが訪れる。
(不発…?)
足を止めた新太は技を放ったブラハードの顔を見るが、その表情は必死であり、新太の背中からゾッとする様な感覚が走る。
そして闘技場の中央にヒビが生じ始める。そこからだった…新太の視界はいきなり赤白い色に包まれる。
ズゴオオオオオオオオオオッッッ!!
闘技場の半分を埋め尽くす程のマグマの噴火が円形で起こり辺りを照らす。
下から湧き上がる噴火は数秒経つと再び静寂が訪れる。闘技場内には黒煙と技を放ったブラハードしかおらず新太の姿は見えない。
「す、凄まじい魔法が放たれましたが…フィールドにはブラハード選手しか立っていません!これは死んで、しまったのでしょうか?」
実況席に居る女性が国王に向かって視線を恐る恐る向けていたが、その王はだんまりと何も話さない。
「いや。彼奴(きゃつ)は死んではおらん。審判カウントを進めよ」
「え?」
全員が分かっていなかった。実況席座る者。観客達も。王が言ったことを理解したものは一部だけだ。
「1…2…3…4…」
クロイアが進め始めるカウントの中で闘技場外から手を伸ばす者が現れる。その者は闘技場の端に顔を乗せ、黒煙のなか這い上がってくる。
「ああっーと!アラタ選手です!彼は生きていましたー!」
「クソォ!喰らった筈だろ!?なんでまだ動けるんだよ!」
「はっ、はは…実は喰らったフリをしている。なんていうこともあるんじゃない?」
新太は少しふらつきながら立ち上がる。服は所々燃えて焦げており黒ずんでいる。更に新太の両腕と両足は火傷の跡を負っていた。
(いや。この少年はしっかり技を喰らっている。下方向から来る攻撃に少年は上に向かって飛んで回避した。ただ上に向かってではなく斜め後ろに向かって飛ぶ。その行く先は威力が落ちる技の端であり、両腕と両足に防御魔力を纏わせて致命傷を防いだ。だが、当の本人はあまり理解していなそうだが)
「し、審判さーん?初めていいんでしょうーかぁ?」
「ああ。申し訳ない。始めてくれて構わない」
「よし。もうそろそろ限界だから、終わらせるぞ」
構えた新太はブラハードに向かって走り出す。先程のように風を使って近づくことはしなかった。
(アラタも限界が近い筈だ…魔力はもう少ない。勝負は互いの一撃に懸かっている!)
そして互いの攻撃が届く距離まで接近すると、先にブラハードの魔力を纏わせた斧が新太に迫る。新太から見て左側から斜めに振り下ろされる。新太も一歩踏み込んで魔力を込めた右拳を斧に向かって放つ。
斧と拳がぶつかり合う。かと思ったブラハードだが、新太の攻撃は斧の刃ではなく持ち手の柄の部分。攻撃と防御が込められているのは全体的ではなく一ヵ所の刃の部分。
ズガアァァッ!と殴った音が響くと同時にブラハード両手斧は闘技場外に吹っ飛ばされる。
「うおおおおおおおおおっっ!!」
しかし武器が無くなったとしても勝負は着いていない。ブラハードの左フックが新太に迫ってくる。
「――っ!?」
驚いた新太は前に手を着いて低い姿勢で左フックを回避し、ブラハードの攻撃は空を切った。
「うおおおぉぉらああああっっ!!」
回避した新太は地面から手を離すと脚を伸ばしたまま勢いよく前方で宙返りをすると同時にブラハードの顔面に向かって踵をぶつける。
踵蹴りをモロに喰らったブラハードはふらついてその場に倒れる。倒れたブラハードに近づいたクロイアはカウントを進ませようとするが、すぐに辞めた。倒れた者の目の焦点が合っていないのを確認し、判決を下した。
「勝者。リンドウ・アラタ」
「おっしゃあ!勝ったあぁぁー!」
「わあああっっ!!」勝者が決まると観客達の声が一気に響き渡る。
「この戦いを制した者はスギヤマ・アラタ選手だあああっ!拳一つで彼は今後どんな戦いを魅せてくれるのでしょうかあ!」
(よかったあ~取り合えず勝てて…咄嗟に回転蹴りに切り返せて助かった)
昔から見続けていた。戦いが主な漫画やアニメを見ていた新太は布団の上で動きを真似していたものであり、それで何かを破壊しては母親に怒られた。
「疲れて早々悪いが、退場して貰いたい。闘技場の修繕と敗者の輸送がある」
「あ、ういっす」
出ていく新太に対して声が観客達から掛かってくる。とりあえず新太は両腕を上げながら退場し、闘技場から出ていく。そして道の先にはリオとカランが立っており、タオルが投げ渡される。
「お疲れ様!上手く戦えてて良かったじゃん!」
「イエーイ!リオ。見たかあの胴回し回転蹴りを!精度はアレだったが中々に見栄えが合っただろ!」
「技名は知らないけど、動きは参考になったよ」
「それで、どうだったかな。カランから見て俺の動きは」
「……コンディションが悪くなかったとしても、途中相手の技が不発だと思って足を止めた。その他は悪くなかった」
「やっぱり技の種類とか、その面の対策があまり立てられていないのが難点か~。とりあえず今はガン逃げ戦法しか思いつかないけど」
壁に寄りかかって思考する新太とカラン。そんな中リオは後ろを向いてこちらに近づいてくる人物を見る。
カツカツと足音を立てて入場門に来るのは、大きな鎌を持ちドクロの仮面を着けた人物。ボロボロな新太を見ながら闘技場に向かう。
「それでアラタはこの後はどうするのよ?」
「いや、一回マジで休むわ。この状態のまま2回戦は絶対負けるから」
「それもそうだね。医務室は確かあっちだったかな?歩ける?」
「背負ってくれるなら助かりますが?」
「その元気があるなら大丈夫だろ」
「ひっどい。まあいいけどさ」
後ろからまた観客達の声がする。それを気にしないまま新太達3人は歩いていく――。
そして2回戦目を戦うことが出来る人物は輪道新太。ドクロの仮面の人物。藤田麻奈。江口凛。ドリオン。大島克己。ケイシー。転堂裕樹。この8人が次へと駒を進めたのだった――。
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