20話 「今、決断の時」
青色で貴方は何を思い浮かべますか?空の色?水の色?
その質問の答え方は人それぞれであるが、緊迫した状況での答えは少なくとも変わる筈だ。
現に老若男女が集まっているこの場所にいる人達に先程の質問をすると、答えは一つ。
『不気味』
この場にいる全員は青色というものに対して、新しく負のイメージを植え付けられた。
鐘の音を聞きつけ、広場にやって来たらどんどん青い液体の様な物が膨れ上がっているのを見て今ここで何が起こっているのか必死に理解しようとする、灰色の上着に黒いハートマークが付けられた上着を着崩し、濃い緑色のズボンを履いて黒い無地のシャツを着ている。髪は茶髪でツンツン寄りの少年輪道新太が息遣いを荒くしていた。
「これは…危険そうだな」
新太の後ろから付いてきた人物は腰まで伸びた銀の髪に、腰まで伸びた銀の髪に一本アホ毛を生やしている。黒い上着を羽織り、中に白いシャツをヘソが見える程で露出し、着崩しているそんな女性レオイダ・クメラ。
「先生。アレは何かヤバイ奴です…空気から、そんな危険な物なんだってなんとなくわかるんです」
何かを悟ったの感じた新太を見ると、「はっ」と我に帰る女性。しかし今はそれどころではない。目の前で起こっている危険を排除しなければならない。
「…なっ!?ホーネス!」
目を凝らして見ると、青色の液体が膨れ上がっている根元にフラフラと立っていた。表情からは驚愕と恐怖を浮かべていた。
やがて青色の液体は形を作り上げていくと、人の形に近い物体に出来上がっていく。指などのパーツは無いが丸くなった手足が動きだすと、足下からぐんぐんと草木が伸び始める。
「逃げろ!ホーネスッ!!」
青くサラサラした髪の子供は首元に巻いてある黄色いマフラーを離さないように、一生懸命走る。
だが、それと同時に巨大になった青い人型は上半身から上を自ら捻り始める。そして勢いよく身体の向きを戻す時の反動で青い液体が周りに飛び散った。
「アラタ。少し離れていろ」
「先生!でもホーネスが!」
「私が助けてくる」
そう言った銀髪の女性は吐き捨てるかの様に行動に移していた。残された新太は降ってくる液体を警戒し走って移動する。
「おお…!これが『蒼の英雄』様の復活なのですね…」
『蒼の英雄』に心酔している中年男性が前に出向いていた。思わず歩みを止め、その者に叫んで呼びかける。
「何やってるんだアンタ!?」
中年男性は上から降ってくる液体に身体丸ごと浴びてしまう。すると――。
「おお!おおおお、オオオオォォォォ…」
浴びてしまった男性は声を上げる。しかしその声に覇気が無くなっていくと、男性の姿がみるみると毛深い老人に成り果てた。
「は…え?」
年老いた老人の姿は、水分が蒸発して消える様に、立っていた場所には人骨が残った。
その一件を見た他の人達は騒いで、一斉に逃げ出した。
(なんだ…!?あの液体を浴びてしまった奴は歳を取って、次第に老化して死んでしまう。そんな作用があるのか?)
たくさんの悲鳴の中1人で考え込む新太。目の前に居た男性は一気に年老いて挙げ句の果てには骸と化した。肉体を溶かすなどの作用はあり得ない。
(俺、こんな奴とどう戦えばいいんだ!?)
そして周囲の人々にも影響を受け、腕に浴びた者や脚に浴びた者が現れる。
(ホーネスッ!!)
ホーネスの安否が気になってしまった新太は振り返り、先程まで居た場所まで引き返す。だが、見ていた先には誰もいなかった。だったのだが――。
「ふぅ…なんとか間に合ったな」
声のする方へ向くと、地面にホーネスをゆっくり降ろしている銀髪の女性の姿がそこにあった。一体どうやって助け出したのかはわからなかったが、とりあえず今はホーネスの事を優先した。
「大丈夫か!ホーネス!あの液体は浴びてないよな!?」
「あ…うん。なんともない…よ」
「そうか…なら、よかった。でも、なんで相談してくれなかったんだ?こんなやり方じゃあ誰もが納得する答えにはならないんだぞ?」
ホーネスは俯き、目を伏せる。黄色のマフラーを握りしめると、口が開く。
「だって…こんな馬鹿らしい事が続くんだよ?これから先僕の大切な物が壊されるってなったら怖かったんだ!」
「わかるよ。俺だってお前の立場だったら不安になる。決められた未来でこれから先の人生が決まるって嫌だからな。それでも一言、言って欲しかった…」
ほんの少しだけこの2人の関係性の何処かに、ピシッと亀裂が入った様な感覚がした。
(ここに居たら危険だ。とりあえずホーネスは避難させねえと!)
「ホーネス。この街の避難場所とかわかるか?ここに居たら危ないからな」
「あるよ…あそこに鐘が付いた建物があるでしょ?あの聖堂がこの街の避難場所」
新太の真後ろを指すとホーネスの言う通り、金属製の鐘が付いた建物が青く照らされていた。
「アレか。あの場所への行き方はわかるか?」
「わかるよ。皆あそこに行くの?」
「いや、あそこに行くのはお前だけだ。先生、あの液体を浴びてしまった人は一瞬で老化してました」
「ああ。私も見たよ。簡単には触れられないな」
腕を組んで銀髪の女性は真剣な表情で青い人型の巨人を見つめていた。
「待ってよ。僕がこんな事言うのもアレだけど、危ないよ!ゆ、許して貰えるかわからないけど…俺謝るから…許して貰えるまで謝るから…」
新太達に頭を下げ何度もごめんなさいと許しを乞うホーネス。
(ああ。この子は理解したんだ。罪を犯す重大性を…この子が普通の家庭に生まれていればこんな事を背負わないで幸せになれたろうに。さて、どうするんだ?アラタ)
新太はゆっくりと歩み寄り、泣き出したホーネスの肩に手を置く。
「……ホーネスは自分の居場所が無くなるのは嫌だよな」
「んえ?」
新太の言葉を聞き涙を手で拭いながら頭を上げるホーネス。
「この事件が落ち着いたらお前は必ず沢山の人から、悪口を言われると思う。そうなりゃ、お前の居場所は無くなっちまう」
新太は青い人型の巨人の方へ向き直す。
「だから、お前の為に戦うよ」
(ただ、相変わらずお人好しなやつだ)
心の中で彼女はそう呟いた。
「ヘッ。それにな、若人は自由に生きなさいなって事だよ。後は任せとけ!」
親指を立て、そう格好つけた台詞を言っては、青い人型の巨人へ向かっていく新太。続いて歩く銀髪の女性は新太の肩に手を置いた。
「格好つけてあんな事を言ったが…あの青い巨人に勝てる策はあるのかな?」
すると新太は立ち止まり、青ざめた顔で震えていた。ホーネスに向かって自信満々に答えておいて。
「そんな事だろうとは思っていたがな?お前はもっとこう…自分の出来る範囲で物事を考えないのか?」
「お、俺だって考えた。考えたけれども、やっぱりほっとけなくて…それに、アレは誰かが解決しないといけない問題でしょ?例え俺の力が足りないなら、別の人に手伝って貰います。それはもちろん先生の力もです」
ゆっくりと頭を下げ、お辞儀をする形を取る新太。
「先生。お願いします。自分が招いてしまった事かもしれないけれど、助けたい友達がいるんです。力を貸してください!」
「…迷惑をかける弟子を持ってしまうと大変だな。まあ、弟子のしでかしたことの責任を取らなければならないのは師匠である私の務めだ」
気怠そうに言う銀髪の女性は、懐からヘアゴムを取り出し髪を結び始めた。衣服の擦れる音を聞いた新太は顔を上げると、目の前にはポニーテールの髪型をした彼女が立っていた。
「へ?」
「流石に骨が折れそうだからな。長い髪は邪魔になる」
「あ、そっすか」
(いつもと違う格好なんで、自分結構ドキドキしちゃってる!いや違う、そうじゃない)
「さあ。行くぞ、お前の友達のために」
「はい!」
「急いでカラン!何かヤバいモノが出てきた!」
仲間に向かって声を上げる少女は藍色髪で、膝が見えるぐらいの短いデニムパンツを身につけ、赤い半袖の上着を羽織り黄色のカチューシャを身に付けた女の子リオ。
彼女の手元には弓を持ち、腰には矢筒を携えて走っている。
「わかってるって。それにしてもアレはなんだ?見た目はスライムに近いけど、そんな雰囲気には見えない『何か』だ」
青色の巨人を見て冷静に分析する、リオに呼ばれた仲間の見た目は女の子なのだが性別は男な人物カラン。茶色のフードが付いたローブを着ていて、首までかかったピンク色の髪、そして頭部から獣耳が生えた。中性的な人物。
「広場に生えてた木がどんどん伸びてる!?」
上を見上げれば、成長が止まっていた筈の巨大な木が伸び始めている。おそらくその異変を起こしているのは、もう目に映るアレが原因だと理解する。
「カラン。植物とかが成長していく魔法とか聞いたことある?」
「知らない。折れた木に『光』の魔法を当てれば、元通りになる。ぐらいしか聞いたことがない。でも成長させ続ける魔法は聞いたこともないし見たことがない。それが出来るとしたら…」
「神代器…」
会話の中で『神代器』という不穏な単語が出てくる。その神代器とは、この世界での特別な武器の総称。概念すらも捻じ曲げ、その力に上限は無く、使い方を間違えれば世界を危険に晒す可能性がある特別な武器。その力量の差は、持ち主の力によって強さの優劣が決まる。
無言で頷くカランを見たリオは、もしかしたらこの異変は相当厄介な物なのではないかと思い込んでしまう。
そんな時不意にリオは新太の言葉を思い出していた。恐らく彼は助ける為に戦うのだろう。彼自身がしたい事の為に戦うのだろう。
「カラン。多分アラタはさ、この異変の中心に立ってるよね」
「恐らくね。そしてクメラもそこに居る。お節介焼きな2人だからもう戦っているかどうかだろうな」
「逃げるとか言うつもりは無いでしょ?」
「逃げたら逃げたで、アイツに馬鹿にされるだけだ。それだけは嫌だから、行く」
騒ぎを見て外へ外へと逃げようとする住民を避けながら、前傾姿勢で走り出すカラン。はぐれるといけないと思い、リオも急いで広場へ向かっていく。
「危ねっ!!」
ズシンッッ!!と巨大な足が踏み潰そうと新太目掛け勢いよく迫る。前方に飛び込み回避を繰り返すのだが――。
「触れちまったら老いて死んじまう…それだけでもズルいのに!」
『蒼の英雄』に信仰していた男性が、液体を浴びてしまうと。一気に老人に成り代わり、その場に骨だけが残った。
その記憶が鮮明に残り迂闊に攻めることが出来ない。してしまったら自身もああなってしまうと、体が震える。
(てか今回俺役に立てれる自信ないんですけどぉ!?)
「風よ命令する。我に在りし力を使い、数多を断ち切る刃を放て」
『
銀髪の女性が呪文を詠唱し魔法を唱えると手から放たれる風の刃が青い巨人の右脚を切り離した。切り離され体勢が大きくぐらつく。
「おお!すげえ」
(風!?風って言った?特別長そうな詠唱でもなかった。それなのに切り落とした!)
戦い方を模索しているうちは、自分より強い相手から見て盗む物だ。どういった状況で使用すれば良いのか。自身がどこまで出来るのか。
(風で足を切り落とす事が出来たのは、相手が柔らかいからか?それとも先生の魔力が強いのかは分からない。でもいつかやってみたい!)
緊迫の場面でも関わらず、少し笑ってしまう新太。その笑みは今後自分自身がどう強くなっていくのか。それが楽しみで仕方がなかったのだ。
「ん?」
銀髪の女性の魔法で切り落とした青い巨人の右脚が、ムクリと起き上がった。本体は片脚で立った状態で動きは無い。そして右脚が突然膨らんだり縮んだりを繰り返すと、2つの青い球体に別れた。
「なんだ?」
別れた2つの青い球体は、本体と同じように青い人型の形を作り上げた。
そう。分裂したのだ――。
「これは少々面倒くさいな!」
銀髪の女性が構えた途端分裂した1つは彼女に、もう1つは新太にと迫っていく。
「おわっ!?」
しかし意外だったのは、巨大な本体とは違うスピードである。戦い方は新太と同じ接近戦の格闘スタイル。精錬された拳は今の新太以上であることには間違えはなかった。
「こ…んの!!」
人型の猛攻に耐えきれなくなった新太は右拳に攻撃魔力を貯め、反撃に出ようとする。だが別の方向から声がかかる。
「待て!アラタ。液体に触れたらどうなるのか忘れたのか!?」
「やべっ!」
銀髪の女性からの声で思い出したが、もう拳は振るっていたため自身で止めることは出来ない。
バシャアッッ!と水面に物を落とした音のように飛沫が巻き起こる。しかし直ぐに左手で風を巻き起こし、瞬時に右手を引き抜いて距離を取る。
(大丈夫か俺の腕!?)
転がり回って起き上がり、直ぐに攻撃した右腕を見る。右腕から煙が起こっていたが、痛みは無い。骨に成り代わってもいない。
「ほっ。よかったあ~うわっ!?」
安堵する暇を与えないためか、青い人型の者は新太が座っている場所目掛け跳び膝蹴りを喰らわせようとしてくる。横に転がり回り体勢を立て直し立ち上がる。
「とりあえずこれでも喰らっとけ!」
地面に落ちていたボロボロになった木材を青い人型の者に投げ、攻撃する。だが新太はこの世界では何故か戦闘面に使用した武器、道具は一振り又は一撃で壊れてしまう。
(気休め程度だけど意識を逸らすぐらいならっ!)
投擲された木材は見事命中した。しかし木材は体内に取り込まれ、ほんの数秒で体内に入った木材は分解され消えてしまった。
「こいつ…生物だけかと思ったけど、物体でもその効果は汎用されんのかよ…」
何事も無く青い人型の者は再び新太に迫り始める。その拳は更に重みを増し、速度を増す。技の回転率は上がり、当たらないよう避けるのが困難になる。
(風で、こいつを吹っ飛ばせるか!?けど吹っ飛ばしても何になる!)
正直新太の手札はごく少数。攻撃的な魔法は覚えておらず、出来る事は風を起こすだけ。
(出来るかな…先生がやってたあの技)
「か、風よ命令する。我に在りし力を使い…えーと。あれ?何だっけ!?」
先程見た銀髪の女性の技が脳裏に焼き付いている。しかし唱えていた詠唱文は聞いただけで覚えられるスペックは新太には持ち合わせていない。
(あー!自分の記憶力無いことに嫌気が指す!)
「伏せろアラタ!」
咄嗟に言われた通りにしゃがむと、目の前に立っていた青い人型の者は飛び散る飛沫すらも残らず爆発四散していた。目の前の事に驚き背後に飛び退く新太。
「はあ~助かりました先生。そっちは片付いたんですね」
「ああ。斬ってもまたくっ付いて再生するなら、身体もろとも無くせばいいからな」
サラッと恐ろしい言葉を言う彼女は、片手で煙を出しながらムッとした表情で青い巨人を見ていた。
「なっ!?」
銀髪の女性が見ている方向へと目を向ける新太。だがそこで見た光景は少し異様な物だった。青い巨人の右脚を元通りになっており、いつの間にか大きくなった木に登ろうとしていた。
「何をしようとしてるんだアレ…?」
「わからん。それに改めて見ると、広場にあった木が大きく伸びている。アイツは何を?」
「けど、何であれ止めないといけないんでしょアイツ!」
「あ、待てアラタ!」
成長していく木に登ろうとしている青い巨人の元へ近づいていく2人。しかし、強く地面を蹴る瞬間、地中から青い人型の者が勢いよく飛び出してきた。しかもそれが10体と。
「なん――ぐえっ!?」
「アラタッッ!!」
突然新太の上着のフードを引っ張り、自分の方へと引き寄せるとその場で爆発が起こる。煙を多少吸い込んでしまったのと勢いよく喉元を引っ張られため思わず咳を混む。
「ゴホッゴホッ!切り離された身体から分裂するんじゃ?」
「恐らく地中に脚をここまで伸ばして来たんだろう。この周辺…いやこの街全体が奴の射程距離と考えていい」
「この街…!ええ!?」
「その場に留まるのは危険だ。そら…また来るぞ!」
「クソッ!」
また複数体が襲ってくると身構え、次に備えるとその時はすぐに来た。だがその予想は裏切られた。土が盛り上がってくると中から出てきたのは、巨大な青い腕が2つだった。
「逃げろ!アラタ」
銀髪の女性が放つ言葉を尻目に降りかかってくる腕の攻撃を飛び込んで回避する。
「な、んで…人型の奴ならまだしも、地面と繋がってるなら普通足が出てくるんじゃ…は?」
伸びていく木に手を伸ばし登り始めている青い巨人の脚は地中に埋まっている。それなら答えは一つだ。
(形は変幻自在に変えられるのか…でも考えたらそうか。液体で体を作ってるんだ…ならそんなこと簡単に出来るよな!)
立ち上がろうと膝を地面に立てるが、背中から伝わってくる空気の振動を感じた。振り返って見ると巨大な青い腕が、新太を踏み潰そうと迫って来ていた。
「クソッ!もう一回!」
右手首に左手を添え前に構え魔力を込める。そして――。
(あれ?何か…変だ)
右手に溜める際に手の平に集まっていく感覚がするのだが、その感覚が妙に違っていたのをその時にしっかりと覚えた。
だがそんな場合ではない。自分が今置かれている状況を思い返すと、自分は今死にかけているのだ。完全に避ける動作を遅れてしまった。
「しまっ――」
「『
聞き覚えのある叫び声と共に一直線に進む炎が建造物を破壊され、瓦礫となって青い巨大な腕の上に落下する。
瓦礫の山に埋もれた2本の腕は、手だけを外へ出しジタバタしていた。だがこの瓦礫も直ぐに消えてしまうのは時間の問題だろう。
そこで更に追撃を加えんばかりに横から水の流れる音と共に一つ影が現れると、たちまちジタバタ動いている青い腕を切り落とした。そして流れるような速さで倒れている新太の手を引っ張るのは茶色のローブを来た中性的な少年カランだった。
「カ、ラン!やっぱりさっきのはリオか!」
「とりあえず状況教えてくれない?よくわからない生命体と戦うのは気が引けるから」
「ああ分かってる。けどお前にも手伝って貰いたい」
「……分かったよ。どうせこいつをなんとかしないと自分も危ないし」
青い巨人から離れ安全地帯に新太を地面に下ろす。そして建築物の上から狙撃していたためか、坂を滑り落ちる様に2人の元に合流し、遅れてリオもやってくる。
新太は現在に至るまでの事を2人に話した。
「老化させる…ねえ。どおりで剣がボロボロになるわけだ」
カランが握っていた剣を見ると、錆びついてボロボロになって散ってしまった。
「大きな物体なら時間はかかるみたいね。私が破壊した建物がまだ残ってる」
(だが本当にそれだけなのだろうか?能力の正体は老化だとしたら、おかしい点がある。アラタがあの時、右腕が触れてしまった。触れた時間は短かったがそれでも何か引っかかる)
銀髪の女性が感じる違和感と矛盾。しかしその答えは直ぐには出なかった。
「ひとまず俺はあの巨人をあの木から遠ざけたい。野放しにしてたらいけない、と思う」
「そうね。ここから見上げたら夜空が見えなくなってくる程葉が広がってきてる。成長させ続けても、この辺りいっぺんがこの木のせいで荒地になっちゃう」
「クメラ。何か無い?気を逸らせそうな策とか」
「…ああ。気を逸らすだけなら考えがある。だがこの策はお前達3人が命懸けになるが、どうする?」
「それしかないんだったら。俺はやる」
リオは無言で見つめ、カランは静かに溜息を吐いて呆れた表情をしながら見つめ返す。3人の答えは出ていた。
「後悔はするなよ?」
その一言を吐き捨てると、銀髪の女性は両手を前に突き出し詠唱をし始める。
「光よ命令する。我に在りし力を使い、辺りを照らす光板を生成せよ!」
『
短くも長くもない詠唱を唱え終えると、銀髪の女性の周辺には4つの光の円盤が出現する。
「先生、これは?」
「全員この光のリフトに乗って奴を攻撃する。その際私援護はほとんど無いと思ってくれ」
「「ええ?」」
新太やリオは驚く反応を見せる。無理もないのだ2人は良く彼女の魔法に助けられてきた。それがないとなると、少々不安になるのも仕方ない。
「残念ながらこの光のリフトは自動操作じゃなく、手動で動かす物なんだ。自動にすると動きが複雑になり、この上に乗る者は立っていられなくなる。だから私が常に動かし続けなければならず、位置も把握し続けなければならない。」
「じゃあ、その間私達が攻撃しなきゃいけないってコト?」
「ああ。そうなってしまうな。そしてアラタには一つ頼みたい事がある」
「俺に?」
「武器を持てないお前にはアイツの弱点を探って欲しい。直接攻撃が出来ない分私と2人のサポートも出来れば頼みたい」
「でもそれじゃあ…」
「役に立てない、か?そんな事はない筈だよ。口頭で位置を教えてくれるだけでもありがたいし、2人では気付けない何かを見つけられる筈だ」
言われていることは励ましなのかは分からない。今まで自身の拳で戦ってきたのに、今この時だけは、今までのどんな時より、この武器を使えない能力〈ちから〉を恨んだ。
「……。少し耳を貸せアラタ」
言う通りに銀髪の女性に近づき、片耳を方へ寄せる。
「カラン。アンタの武器を一つ私に貸して」
「へえ。何で?武器なら弓を持ってるじゃん。近接系なら無意味だってわかるでしょ」
「うん。分かってるよ。でも刀身が無い物なら話は変わるでしょ?」
「なるほどね、ちょっと待ってて…ほらっ」
カランから投げられた物は剣の柄だった。握ったり手の平で転がしたりして重さを確かめる。
「リオも知ってるとおりその柄に魔力を送れば、刀身が出てくる代物」
「けどほんと持ち運びに便利ね。カランの神代器」
カランの神代器。『
「さてと、行きますか」
カランもローブの内側から武器を取り出して、光のリフトの上に乗る。そしてリオは体を伸ばしながらカラン同様、光のリフトに乗る。
そして――。
「出来るか?アラタ」
「……やる!全部まとめてやってやらあ!」
拳を力強く握りしめながら、新太も光のリフトの上に乗る。3人が乗ると宙に浮かび始め、青い巨人に向かっていく。
(うん。よかった…仲間に囲まれていて。そして、頼られていて)
そして銀髪の女性も自身が作り出した光のリフトに乗って、進みだした――。
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