6話 「一筋の光」
「…なんなんだ?この状況」
「いやー流石クメラさんです!」
「どうやったらそんなに強くなれるのか教えて欲しいですよ!」
先程我々を襲ってきた盗賊達は長い銀の髪、青い透き通った瞳に黒い上着を羽織り、中の白いシャツからは少しヘソがチラッと見える。おまけに一本アホ毛が目立つ女性レオイダ・クメラという女性に男達は群がっていた。
その光景を後ろから見ていた少年は髪色は茶色寄りで短く、髪型は少しツンツンして逆立っており、灰色の上着を着た輪道新太という少年。
どうやら訳ありで助けて欲しいのか、必死に頭を下げて赤い髪のマキリという男は懇願してきたのだ。
流石にいきなり攻撃をしてしまい罪悪感があったのか、銀髪の女性は話を聞くため男達が住んでいる集落に向かっているのだった。
(めっちゃ…媚び売っとる…コイツらさっきまで盗賊団だったのにな。プライド無いのか)
「それで?お前達の集落はここから遠いのか?」
「いえ、ここからはほんの数十分です」
「あのー皆さん?そろそろ自分の荷物持って欲しいんですが!」
「うっせーんだよ!黙ってろよ!」
何故か敵の荷物を持たされる新太はおざなりな扱いを受けてしまっている。挙句の果てには中指を立てられる始末。
(どうしようグー殴りたい)
そして約10分後にようやく男達の集落にたどり着いた。その間も新太は荷物を持っていたのだが、誰も気にも留めないためか少々イラついていた。
「では私の家で詳しい話を」
他の2人は警備に当たるためにここで別れることになった。
そして道なりに進んでいくと他の家より一回り大きい建物が見えてくる。流石はリーダーと呼ばれているだけに良い所に住んでいるようだ。
(それにしてもここに来るまでの道中。皆包帯巻いている。てことは魔物が問題の原因だと思うけど、どうなんだろうか)
「おーい、帰ったぞー」
「おとーさーん!お帰りー!」
「おお!愛する娘よ!ただいまー!」
(…俺何見せられてるの?何だ?この家族愛の風景)
驚いたことにこのマキリという男には子供が居たのだった。しかも見ていると娘一筋の過保護な親になってしまいそうだが。
「さー上がってくださいクメラさーん!」
「ああ、じゃあお邪魔する」
「お、失礼します…」
「え?貴方もくるんですか?」
「いい加減にしろよこのモヒカン野郎…!その残った髪刈り上げてやろうか!」
新太は靴を脱いで入ろうとするが、新太以外の者は平然と土足のまま上がり込んでいる。
「この世界は土足で上がってもいいのか!?」
慣れない文化に気を取られたが、遅れないようにそそくさと新太も上がり込む。
「それで話ってなんだ?」
「はい…話というのは、今我々は危険な状況でして…この近くに最近できた集落があるのですが、そこと揉めていまして…」
(ほーう…なんか読めてきた)
「おそらく縄張りや勢力を広げるため我々の集落を襲いかかってきたのでしょう」
「それだけだったら、私達に頼まなくてもいいじゃないか」
「ええ。ですから、助けを呼ぼうとは思いました。しかしこんな集落の問題を真面目に聞いてくれる人はいるのでしょうか?貴方達だって私達の印象は悪そのものでしょう?」
「まあそうだな。もしかしたらお前達が始めた事でその集落と抗争になっているのかもしれないしな」
「それは断じてあり得ません。私達は角が立たないようになるべく争いは避けてきました。いつか冒険者達に襲われてしまっては元も子もないですから」
「じゃあ完全に向こうが悪いってことなのか?」
「そうだ!その筈なんだ!だが、この集落のリーダーとしてこのままではいけないと思った私は、部下たちを率いて日銭を稼ぐために旅人を襲うしか…」
少し沈黙が続いたため、今この場では解決策は生まれそうにない。そのため彼女は俯いたまま口が開き沈黙状態が解かれる。
「…とりあえずしばらくはここに滞在することにしよう。向こうから来たら捕まえるなりして、事情を聞く。それで構わないか?」
「なるほど、分かりました…では少し遠いですが空き家があるので自由に使ってください」
「ああ、じゃあそうさせてもらう。行くぞアラタ」
「あ、はい…」
とりあえずこの集落で泊まり、問題点の解決を図ることにした彼女はマキリの家を出ていく新太達。
外に出れば日が沈みかけており、はやく例の空き家を探さないと、暗闇で迷子になってしまう。慣れない土地もあり、その危険性は計り知れない。
(さーてと。空き家を探しますか…とっとと寝たいし)
「ん、あぁ?」
新太の目元に朝日が当たり目が覚める。欠伸をしながら身体を伸ばして眠気を覚ます。
変わりながら行う見張りをしなかったために、ぐっすりと眠れた…とは言えなかった。町の宿の様にベッドが備わっている訳ではなく硬い床で寝ていた事と、変な夢を見ていたせいで中々に眠れなかった。
「先生…おはようございます。…ん?」
「クメラさん!こちら朝食の方になります」
「あ、ああ。私の分はいいからアラタにだな…」
「そうはいきませんよ!貴方は希望の星なのですから。おざなりな扱いはいけません」
(おいコラ。それは普通に失礼なんじゃないのか?)
寝床から起き上がると新太は着崩れた服を直して、扉の方へ向かい始める。
「ん?どこに行くんだアラタ?」
「ちょっとお花摘みに行ってきまーす」
(朝から不機嫌だったな。もしかして昨日の…私の事に関してなのかもしれない)
お花摘みに行くと言って外に出た新太は花を摘む気など毛頭なく、単純にあの場に居づらかったために吐いた嘘。
「多分この集落に居ると俺の事馬鹿にしてくるんだろうなぁ」
木の側に座って日光を遮る。
先生にボコボコにされた集落のリーダーを見て、おそらくこの集落の人たちは強さで優劣を決める考えを持っているのだと思った新太はため息を吐くばかり。
「速く解決して旅を続けないと…そういえば今してる旅って最終的な目標とかあるのか?今の俺としては強くなって、あの人を助けたい…ぐらいだよなあ」
改めて自分が今後何をしていきたいのかについて考える。今の自分には課せられている事は恐らく何もないはずだ。あるとしてもこの世界に起きている異変の解決ぐらいだろう。しかし今となっては少しどうでもよくなっている気持ちもある。
「ん~。難しいな…なんか進路を決めているより難しい気がする」
「ねえ」
「でも…それだとなぁ」
「ねえってば!!」
「うん?どこからか声が…」
しかし新太の周りには人の気配は無い。あるとしても日差し避けに座っている木ぐらいしかない。
「上よ、上。女の子が声をかけてるのに無視とか失礼じゃない?」
木の枝にぶら下がっているのは藍色髪をした新太とあまり歳が変わらない少女が目つきを悪くしてこちらを睨んでいた。
「いや木にぶら下がりながら、普通に挨拶してくる奴も失礼じゃない?」
地面に華麗に着地した少女は新太に向かって詰め寄ってくる。
「な、何さ」
「いやね~ちょっと聞きたい事あってさ?この辺じゃ見ない格好してるし、君って旅してるんだよね!もしかして冒険者?」
「近い、近い…俺に世界のこととか聞かれてもわかんないぞー。俺はこの世界に住んでたわけじゃないし」
「え?それじゃあ例の勇者って奴!?ねえ!どんな武器使うの!?」
「お、俺は…使えないんだよ…」
「え?」
「俺は武器が使えないの。勇者でもないし、お前が見たいっていう武器も持ってない」
「な、なんで…?」
「そんなの俺が聞きてえよ…」
新太は頭を抱えながら座り込んで説明すると女性は隣に座ってくる。
「でもなんか珍しいかもね。召喚された勇者なのに武器すら無いなんて」
「それ慰めてる?慰めてないよねそれ?」
「さあ?どうかな。でも珍しいって思うのは本当」
「なんだよそれ。えーっとそういえば名前聞いてなかったな。俺は新太って言うんだ」
「私はリオ。多分貴方と年齢はそんなに変わらないから呼び捨てで呼んでいい?」
リオと名乗った少女は立ち上がる。
短いデニムパンツを身につけ、薄い緑色の半袖の上着を羽織り、中には白色のシャツを着ており、ショートボブの藍色髪で頭には赤いカチューシャを着けている。
「いきなり呼び捨て…まあいいけど、じゃあ俺もそうするわ。てか俺に用があるんじゃなかったっけ?」
「あ、そうそう。アラタが今まで体験してきた出来事とか教えてくれないかな?」
「いいけど、そんな大したことしてないぞ」
「それでもいいの。私いつか旅とかしてみたくてさ!あんまりこの集落の外とかに出た事なくてね、どんな世界が広がってるのかなって」
「なるほどね。とりあえずこの世界に来てからの話でもしますかね」
突如押しかけて来た少女。リオに今まで体験してきた出来事を話した。ゴブリン達やオークに襲われたことや魔力の習得に向けた修行をやったことなどを話した。
「っとまあこんな感じかな」
「なんか怪我ばっかしてるね」
「だってしょうがないじゃないか。俺弱いんだから」
「武器使えないとそこまで苦労するんだね…」
リオは憐れむ様な目で新太を見ていた。その目はなんだか慈愛に満ちている様で新太の悩みをしっかり聞いてくれていた。
(やばい。この子優しいよ…)
その優しさにジーンと心に沁みた新太は涙が少し零れそうになってしまった。
「なあリオ?なんで旅に出たいんだ?外は危険で、強い武器が無いと苦労するんだぞ」
少しの間沈黙が流れ、やがて意を決する素振りを見せ、ゆっくりと話し出す。
「あーそれはね…私さ、捨て子だったらしいんだよね…」
「えっ」
「森の中で拾われたらしくて…ここで育てられてさ、でも…いろんな世界をさ?知りたいんだ…多分私の親は好奇心旺盛な人なんだろうね」
「…だったらなんですぐ行動しようと思わなかったんだよ?」
「そ、それはさ…この集落に思い出があったし、今はこんな状況だし。育ててくれた恩もあるわけだし…それに、私の想いを聞いた他の人はどう思うのかなって…」
リオは真剣に考えているようだった。捨て子だった自分をここまで育ててくれた恩をどうやって返せばいいのか。身勝手な行動で、周りの人間はどう思うのかなども。
「なるほどな~でもそれは、自分の夢を遠ざけてしまっているんじゃないか?」
「わかってるよ…そんな事」
「別に帰ってこれないって事はないんだし。辛くなった時はいつでも帰って来れるわけなんだろ?旅をするって事が夢なら、ちゃんと話せば分かってくれると思うぞ?」
「ふふっ。まあそうかもだね…この状況が落ち着いたら話してみようと思うよ」
「ま、一度しかない人生なんだし好きなことぐらいやりたいしな」
「ありがとね。話とか悩みとか聞いてくれて。あ、私もう見回りだから行くね」
「そっか。気を付けてな~」
新太がそういうと、リオはこっちを向いて手を振って走っていく。そして新太もその場を去ることにする。
「…えーと先生?何してんすか」
「ん?ああ。お前だけご飯食べてないだろ?だから作ってやろうと思ってな」
リオという少女と別れて寝泊まりしていた家に戻ってきた新太は、驚くことを目の当たりにしていた。
「いいですよ!?なんなら自分で作りますんで!」
「い、いやしかし…」
「あー!そうだ。先生はマキリさんとこ行っててください!今後の話とか必要でしょ?」
「ま、まあな」
「先生の手を煩わせるわけにもいかないんで、後は俺がやりますね!」
「そ、そう…だな。じゃあ後頼むな?」
「大丈夫ですよ!心配しないでください!」
味が滅茶苦茶な料理とも呼べない物を食べれば、間違いなく精神がやられてしまう。
(ふぅ~なんとか殺人事件は防げたな)
その後は卵が置かれていたため、目玉焼きを作って食べた。おそらく彼女に期待した集落の人が渡したのであろう。
(醤油とかの調味料が欲しい…だがこの後どうしようか。俺も行った方がいいのか…マキリのとこに。ま、俺だけ何もしない訳にはいかないしねえ)
食器を片付け、自分もマキリの元へ向かうことにした新太は家へ向かうことにした。
(しかし意外に遠いんだよなぁマキリ宅。手っ取り早いのは先生が一人で突貫すれば終わりなんだけど根本的な解決にならないだろうしなあ…ん?)
向かう道中に男女が揉めている場面に遭遇したのだが、喧嘩をしている訳ではなく。どちらかというと女性が男性を引き留めているようだった。
「お願い待って!今日はもういいから…お願い…元に戻ってよ…」
その男性は、その声を聞こえていたとしても反応は無く、ずっと虚な目をして、どこかへ向かおうとしている。
「なんだ…あれ…」
止めようか迷っていた所に新太の肩に手が置かれる。振り向くとそこには赤い髪でモヒカンを模した男。マキリが居た。
「あれはどうしようも無い病…と言っていいのか」
「どういうこと?」
「あれは、主に冒険者や戦いに生きる者などに、よく見られるらしいんだ」
「治す方法とかないの?例えば魔法とかで」
「残念ながら見つかっていない。発症してる者を調べても何もわからず、言葉も話さない。回復の見込みがなければ最悪殺される事例もあるらしい」
「えっ!?殺す!?なんで…」
「じゃあお前は原因不明の病とずっと一緒に暮らせるか?ずっと面倒をみれるのか?」
「それは…」
新太は言葉が見つからなかった…もし自分があの女性の立場だったらのなら、諦めるか頑張るかの二択ぐらいだろう。
「そういうことだ。だが妙な症状だ…体がまったく動かないわけじゃないし…何故か仕事もする…まったく分からん」
「私生活に支障はないのか?」
「あれを見てみろ。あの男は感情を持たないまま畑を耕していやがる」
もう一度視界を戻す。そこには一人になった女性がその場に座って、へたり込むだけ。男性は畑仕事を始めていた。
「さすが異世界だな…何があるか分からん」
「あ、そうだ。一応お前にも仕事を持ってきたぞ」
(ええ…このタイミングで?ちょっとは空気読めよ。ちょっとしんみりしてた空気だったじゃんか)
「何をやってるんだお前達は?」
新太とマキリが話し込んでいる時に、間に挟まる形で覗き込んでくるのは長い銀髪の女性だった。
「あ、先生。話は終わったんですか?」
「まあな。で?何見てたんだ?」
「アレですよ。あの男の人がどうなっているのか聞いていた所です」
新太があの場所に指をさすと変わらず男性は畑仕事をしていて、いつの間にか女性の姿は居なくなっていた。
「先生はあの症状…って数えていいのか分からないですけど、何なのか知ってますか?」
「…………」
「先生?」
聞くと彼女の顔が…目が…表情が奪われていくように、冷たく、空気が重くなっていく感覚を感じた。
「…すまない。少し席を外してもいいか?」
「それは構わないですが、どうかされましたか?クメラさん」
「少し思い出したくない記憶を…思い出しただけだ。頭を冷やしてくる」
(ここ最近。先生と上手くいってない気がする…あの人は色んな出来事を経験してきたから強いんだろうけど、良いこと以外にも辛い事も経験してる。やっぱり俺は知らないうちに傷つけてしまったんだろうか)
長い銀の髪を揺らしながら歩いていく後ろ姿を見ながら、人には触れてはならない領域がやはりあるのだと察した新太だった。
そして時間が経過し辺りは暗闇に包まれ、時間帯はもう夜になっていた。
「ふぁ…」
「ちゃんと見張りの仕事をしろ!」
「へーい…」
マキリに言われた仕事は見張りだった。旅の道中で見張り番を交代で行っていたためか多少は慣れている。しかし夜遅くに起きていることは、やはり体に堪える。
しかし夜になっても彼女は帰ってこなかった。それほどあの時見た光景にトラウマがあるのだろう。
「今だけは俺が頑張らないとな」
「だが今回も何事も無さそうだな」
「えっ?この見張りさ。事件が起きてからやってるのか?」
「いや。魔物の警戒もあるからずっと行っているぞ」
「今の所奴らが起こしたことと言えば、白昼堂々の嫌がらせ行為とか不意打ちで襲ってきたりとかよ」
(聞いてるだけだと、ただの悪戯にしか見えないな…でも狙いはそれだけなのかな)
平気で人を襲うのならばもっと大胆な行動を取ったって問題は無いはずだ。もし敵の狙いが人ではなく集落そのものの土地などだったら?
それだと少しづつ戦力を減らしていけば、最後には奪う事だって可能。
「なあ。奴らの狙いって――。」
「おいアレ!昼に行った見周りの奴らじゃないか!?」
「本当だ!しかも怪我してるぞー!」
突如として大きな声で周囲の人々がそこに集まっていく。負傷している人数は3人。しかもかなりの深手であり、これ以上体を動かす訳にはいかないだろう。
「おい!人数が足りないぞ!確か6人で行ったはずだろ!?」
「ガ…アァ…ハア…あっちの親玉が…いきなり…集団で襲ってきやがったんだ…それに奇襲だったから…ほとんどがやられた…うぅ…それでリオが囮になって…戻ってこれたんだ…ゴボッ…」
深手を負った男は口から血を吐くと意識を失った。しかし聞き逃してはならない名前を新太は確かに聞いた。
「なあ…」
「あん?」
「リオってさ…髪が藍色の女だよな…この集落に同じ名前のやつとかいないよな?」
「あ、ああ。居ないが…どうした顔色が悪いぞ?」
敵の強さは未知数。しかも集団。自分一人が行ったって戦えるかどうか。
(どうする…どうする!?集落の戦力を落とすわけにはいかないし、かと言ってリオを見捨てる訳にはいかないし…)
『どんな人でもずっと強いなんていう人はいないと思うよ。私はいざという時に戦ったから、今の幸せを手に入れた。それだけでいいんだよ…戦う勇気なんて』
「…あの時。リーナさんが言っていた…いざという時に戦う。それが今なんじゃないのかよ!」
「お前!勝手な行動するな!戻ってこいっ!!」
新太は夜の森に駆け出していく。無謀なのかもしれないが、それでも放ってはいけなかった。あのリオという少女の夢はこんな所で終わらせてはいけないのだから――。
暗闇の森である一人の少女が走っていた。その少女の名はリオと言い、ショートボブをした藍色髪の女の子。
「ああもう!しつこい!」
後方から放ってくる魔法攻撃は止まることは無く、激しさは増していく。
(あとの二人は逃げられたはず…後はどうやって私も逃げるかだけど)
後方から撃ってくる攻撃を警戒していると、水色の閃光が見えた。危機を察知したのかリオはその場から離れようと動くが、左脚に攻撃が当たってしまう。
「アアァァ!?」
鋭い痛みが左脚全体に走る。痛みを抑えるために手を添えるのだが撃たれた箇所は冷たかった。
(これは氷属性の魔法?けど脚が無くなった訳じゃない…走って今度こそ伝えるんだ!)
引きずっててもその場から逃げ出そうとするのだが、足に何かが絡みつく。
「こ、れは魔道具?」
リオの足には縄が巻き付いており、力を込めて解こうとするが付く締め付けられていてリオの力では解けなかった。
「やっーと止まってくれたわね」
暗闇から姿を表してきたのは、紫の長い髪が特徴の女性だった。手には少し歪な形をした槍を持っており、全体的に少し暗めの装備を着こなしていた。
その後ろには鎧を着た巨漢の男。先が尖がった帽子を被った女性。ノースリーブで軽薄の服を着た男の3人を引き連れていた。
「早く騒ぎになる前に殺させてもらうわ。そ・れ・に、こんな火に囲まれてお陀仏になるのは嫌だしね」
リオが周りを見ると火の手があちこちに広がり始めていた。それはリオ達が争っていた時にあちこちに火の魔力が着火したのだろう。
「あ!そうだ。貴方結構使えるわよね?ほぼ一人で他の人逃がせるほどだもの!ねえ?私のとこに来てよ~悪いようにしないからね。助けて、あ・げ・る」
(この女…何て言ったの?助けてくれるって言うの?)
リオの心が揺れ始める。この現状で誰かが助けに来てくれる可能性は少ない。たった小さな夢を諦めたくない。
「それは…ほんとなの…」
「ええ。後そういえばあんた達の集落、今夜で潰す予定だから、あなたがこっちに寝返るなら、お望み通り助けてあげるわ!」
「じゃあ私の答えは…」
例えこれから後悔するかもしれないが、やらなくては気が済まない。リオは口に含んだ血を噴き出して紫髪の女性の顔に当てた。
「なっ!?」
「私の答えは変わらない!私にとってあの集落は大切だし、宝物。寝返るつもりは一切ないわ!」
自身の気持ちを全て吐き出したリオは、いきなり相手に腹部を蹴られてしまう。
「ガアッ…!?」
「そう…それならいいわ。消えてもらうだけだから」
呼吸が整わない。痛みと周囲の火のせいで煙を吸い込んでしまい、意識がはっきりとしない。
「アアッ!!?」
敵の足がリオの顔を踏みつけてくる。悔しくてリオの目には涙が溜まる。唾液も吐き出しながら嗚咽が出てくる。もう自分自身では止まることはない。
「何?今更泣くの?惨めに?可哀想ね~大丈夫よ。どうせすぐ周りから忘れられると思うし。…痛いのは一瞬だしね」
(駄目だ…もうどうしようもない。私はここで死んじゃうんだ……)
「じゃっ。さようなら」
「あああアァァァァッッ!!!!」
槍がリオの顔目掛けて突き刺さろうと近づいていく。リオは全てを諦めて目を瞑って叫ぶことしか出来なかった――。
「おおおおおおらあぁぁっっ!!」
突如として茂みから飛び出してきたのは灰色の上着を着た少年がノースリーブで軽薄の服を着た男を木の棒で殴り飛ばした。
「だ、誰!?」
(なんで?どうして貴方がそこに居るの…アラタ)
「いきなり奇襲してくるなんて、それでも男なのかしら?」
「お前らも同じだろ。やってることは…これはそっちから手を上げたんだからな!俺は遠慮なく殴るぞ!」
「大丈夫よ。私だって身の程を知らない男は嫌いなの。だから殺されても文句言わないで頂戴ね?」
「リオ!なんとかしてやるって言いたいけど、正直自信は無い。でも今だけは俺を信じててくれ」
リオの足に絡まっていた魔道具の紐が効力を切らして簡単に解くことが出来た。ヨロヨロと立ち上がるリオは不思議と笑っていた。
(そこはかっこつけてもいいから言い切れっての…でも…こんなのでも…)
今のリオにとっては、本当にヒーローの様な存在にしか見えなかった――。
「ありがとう…アラタ」
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