キメラフレイムの謎とき動画

キメラフレイムの謎とき動画:春の雑談回

 三月中頃。キメラフレイムの謎とき動画の配信がアップされた。このところ少し停滞気味だった所もあったのだが、キメラフレイムやサニーたちも忙しかったからなのかもしれない。

 あるいは、あやかし学園を追いかけており、そちらの感想動画を考えているだけなのかもしれないが。


「はい皆さんお久しぶりです、キメラフレイムでーす。すみません、最近はちょっと更新を怠っておりまして」

「まぁその、私たちは元気なのでご安心を」


 春を意識し花の咲き乱れる光景を背景にし、アバターたちが顕現する。異形のレッサーパンダと狂暴可愛いラーテル、そして翼の生えた仔犬の姿だ。

 ちなみに花は桜木のようにも見えるが、それよりも開花の時期が早い桃やアーモンドの花であるらしい。地味に芸が細かかった。


『ユッキー☆:そら皆元気なのは決まってるでしょ。そうじゃなきゃお兄ちゃん心配で夜しか眠れんわ \500』

『きゅうび:シリアスなのかボケてるのかはっきりしろ』

『隙間女:ユッキー☆兄貴は業務中眠そうにしている時もあるから……』

『月白五尾:あっ(察し)』

『だいてんぐ:ユッキー☆君、週明けにお話があります(にっこり)』

『絵描きつね:ヒエッ……』


 初手から雪羽ことユッキー☆が職場で居眠りしている事が判明してしまったが、穂村とミハルは顔を見合わせるだけだった。だいてんぐこと萩尾丸については、穂村たち兄妹も立派な大人妖怪だと尊敬していたためだ。

 スターペガサス・略してペガサス兄貴とも呼ばれる開成は、マイペースに笑いながら口を開く。


「俺たちもまぁリアルでの生活もありますんで、そっちも優先していたら、ちょっとずるずると更新が遅れちゃったってだけなんすよね。

 それと兄さ……じゃなくてユッキー☆さん。昼間に眠くなるって言うのは俺も解るっす。春になったんで尚更っすよね」

「ペガサス! またそれを擦るんかい!」


 穂村の放った迫真のツッコミに、コメント欄もにわかに沸き立った。


『見習いアトラ:もしかして:永遠の春夢』

『ラス子:真夏の妖精の夢かもしれんぞ』

『ハチミツキ:真夏で夢って聞き覚えがあるなぁ……何だっけ』

『きゅうび:知らなくて良いから(良心)』

『ユッキー☆:その話は立ち入ってはいけない(戒め)』

『ネッコマター:二人とも何か知ってて話してるみたいでほんと草』

『絵描きつね:まぁ有名なネットミームやし多少はね?』


 何やらネットミームの話でコメントは盛り上がっているが、穂村たちはその辺はスルーしておいた。


「とりあえず、今回は春の雑談回って事ですね」

「視聴者の皆さんとは、春らしいお話ですとか、春にこだわらなくてもまた近況報告とかを雑談したいなぁって思っています」

「春って言っても、寒の戻り? みたいなのがあったよね。雪がちらついたりとかさ。皆さんの所は如何ですか?」


 マイペースに話していたと思われていた開成が、視聴者に質問を投げかける。開成は雷獣らしく陽気で能天気な所はあるが、コミュニケーション能力は結構高い。本質をとらえ、あるがままに物事を愛し楽しむ。そうした賢さを開成は持ち合わせていたのだ。


『燈籠真王:ちらつくどころかこっちは雪が積もってますかね』

『サンダー:それでミカンを雪に埋めておやつにしたりとかさ』

『りんりんどー:兄さんや弟妹達も雪に刺さってたかな』

『トリニキ:神使でも獣の本能に逆らえなかったんやな』


「おおっ、幽世では……失礼、燈籠真王さんやサンダーさんのお住いの地域では雪が積もってるんですね。狐が刺さるって、かなりの積雪量じゃないですか」

『しろいきゅうび:別に言い直さなくてもええんやで』


 ありがとうございます……しろいきゅうびもとい稲尾柊からの言葉に礼を述べつつ、穂村は幽世に思いを馳せていた。こことは異なる世界であり、非業の死を遂げた者が神社の神使や氏子となって暮らしている。神使の皆は陽気で親切な者たちばかりであったが、魍魎やそれを操る邪悪な者もおり、中々に危険な場所でもあるという話だ。何より、幽世から現世に戻って来た穂村たちを見るなり、父である雷園寺千理は顔を引きつらせていたではないか――冥府の匂いが色濃く染みついているなどと言いながら。

 それはさておき、蕾花や稲尾燈真と言った神使たちが暮らす地域は、穂村たちの世界で言う所の東北地方に似た気候帯であるらしい。従って冬は長く雪も深い。狐――それも中型犬~大型犬クラスの巨躯すら珍しくないという――が刺さるほどに積もってもおかしくは無かろう。穂村たちの住むところとはえらい違いだった。


『隠神刑部:キメラさんたちのお住いの所はあまり雪は降らない感じでしょうか』


 そんな風に思っていると、隠神刑部こと伊予からタイミングよく質問を投げかけてくれた。

 穂村たちは、そのコメントを前に頷く。


「はい。僕らの住んでいる所は温暖なので、今年は雪は余り降りませんでしたね。時折ちらついたりしますけど、積もる事はありませんでした」

「流石に去年は、寒波が凄すぎて積もったけどね」

「あの時って、会社が休みになったり電車も止まったりしたんじゃあなかったっけ」

『ユッキー☆:ワイの住んでる所でも、そんなに雪は降らなかったかな』

『きゅうび:昨日はお昼ごろちょっと雪が降っていたゾ』

『オカルト博士:暖冬だから去年みたいにはならないんでしょうね』

『トリニキ:きゅうびニキが奥さんとアツアツだからじゃね(適当)』

『きゅうび:(激寒)』

『りんりんどー:きゅうびさん巻き込まれ事故じゃんか……』

『だいてんぐ:まぁ新婚さんだし多少はね?』


 やはりと言うべきか、雪羽や源吾郎が暮らしているエリアでも、雪が降る事は殆ど無かったようだ。関西圏、それも瀬戸内海側のエリアであるから、大なり小なり温暖なのだ。従って雪が降るのは珍しい事だし、積もれば子供たちが大はしゃぎする。穂村たちの周りではまぁそんな感じだった。

 開成はというと、最後の方のコメントに興味を持ったらしい。ふさふさした一尾を振りつつ、言葉を紡いだ。


「あー、そう言えばきゅうびさんって新婚さんでしたもんねぇ。その後の近況とか教えて貰ったら嬉しいです」

「ちょっと、兄さんってば……」


 開成のあけすけな言葉に、ミハルは軽く眉を寄せていた。彼女も年頃の少女であるし、その辺のデリカシーとかは気になるのだろう。穂村も少年だがその辺は気にするようにしているし。

 だが、視聴者たちは特段気にしていないらしかった。


『オカルト博士:どうせ四六時中イチャコラしてるんでしょ(断言)』

『燈籠真王:きゅうびニキ、尻に敷かれてなきゃ良いんだけど』

『トリニキ:きゅうびニキは人妻っぽくなってるからな。これはマジ』

『見習いアトラ:バリバリの男で人妻ってこれもう解んねぇな』

『だいてんぐ:きゅうび君なら違和感がないから困る』

『月白五尾:燈真には後で話があるから』

『絵描きつね:後で話……あっ(察し)』


 源吾郎がコメントを入れたのは、少ししてからの事だった。


『きゅうび:言うて長時間いちゃついている訳じゃあないです。奥さんも仕事で忙しいし、あんまりくっ付いているとお互い『もうええわ』ってなっちゃうんで』

「割と真面目に答えるんですね、きゅうびさん……」


 畏まった穂村の言葉に対し、他の視聴者たちのコメントはノリノリだった。


『隙間女:※いちゃついていないとは言ってない』

『ユッキー☆:傍から見てるときゅうびニキがクッソ甘えん坊になるから面白いで』

『オカルト博士:若い頃のパッパとマッマにそっくりよね』

『きゅうび:クゥーン……(こぎつね)』

『サンダー:きゅうび兄貴のライフが……』

『見習いアトラ:きゅうびよ、ここでしんでしまうとは、なさけない!』

『トリニキ:きゅうびニキ生き返れ生き返れ……』


「やっぱり親子ですし、若い頃の親に似るって事もあるんですねー」

『ユッキー☆:ワイとかマッマにそっくりやし、六花ちゃんはもっとマッマに似てるんだよな☆』

『きゅうび:その話はマズいですよ!』

『りんりんどー:きゅうびさん復活した……』

『だいてんぐ:復活も何も元から生きてるでしょ(適当)』

『ネッコマター:相変わらずエッジの利いたツッコミがほんと草』


 さてまぁこんな感じでもって、久しぶりの配信も、雑談の花がそこここで咲き誇る結果と相成ったのである。

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