キメラフレイムの謎とき動画:妖怪配信編5(終)

 さて楽しい妖怪配信もそろそろ後半戦になってきた。妖狐や化け狸などと言った主だった妖怪について解説してきたが、そろそろ人間と妖怪のかかわりについても話そうと思い始めたのだ。

 そしてその前に、やはり半妖の話も必要だろう。


「お次は半妖の説明をしますね。半妖って言うのは単独の種族じゃなくて、妖怪と人間との間に生まれた子供や、その子孫の事を指すんです」

「妖怪の血が四分の一とか、七十五パーセントって言う場合もあるにはあるんですが、両方の血が混ざっているヒトたちの事を、全体的にひっくるめて半妖って言うんです。その方が解りやすいですからね」

「アタシの知ってる半妖と言えば、宮坂さんとかきゅうびの兄貴だな! どっちも妖狐の血を引く半妖なんだけど」


 穂村やミハルの説明に続き、六花が良い笑顔で知り合いの半妖の名を口にした。まぁ確かにその通りなのだが、もちろん視聴者からはツッコミが入る。


『トリニキ:同一個体で草』

『きゅうび:あやかし学園の京子ちゃんは那須野監督とは別個体だから(震え声)』

『おもちもちにび:し っ て た』

『だいてんぐ:唐突なネタバレはやめようね!』

『絵描きつね:俺ら六花ちゃんたちの正体を知ってるから別に大丈夫でしょ』

『ハチミツキ:何ならリアル六花ちゃんと京子ちゃんに会った事もあるし』


 視聴者のコメントを眺めつつも、穂村は解説の画面を背後に表示した。半妖の誕生する条件や、半妖の特性などである。と言っても、半妖は個体数が少ないので、謎に包まれている部分もあるにはあるが。


「ええと、それでは半妖について更に説明していきましょう。実は、半妖って僕たちの世界ではとっても珍しい存在なんですよね。というのも、親が純血の妖怪の場合、妖怪の女性と人間の男性という組み合わせでないと半妖は殆ど誕生しません。まぁその……鬼とか天狗みたいな人間に近い妖怪の場合は、妖怪の男性と人間の女性という組み合わせでも半妖が誕生するみたいなんですが」

「あとね、獣妖怪って言うか、ともかく哺乳類の妖怪でないと人間との間に子供は出来ないんですって。いくら妖怪でも、あんまり種族が遠すぎると子供は出来ないから」

「言われてみれば、妖怪同士でも鳥妖怪と獣妖怪のハーフって言うのも聞かないもんなぁ。それに京子ちゃんとかきゅうび兄貴も、妖狐と人間の半妖だし」


 ちょっと難しかったりセンシティブな内容だっただろうか。だが、大人で紳士淑女な視聴者たちは、気にせずコメントを送っている。


『トリニキ:哺乳類言うても有胎盤類に限定されるんやろうなぁ。コアラみたいな有袋類とか、カモノハシみたいな連中との半妖は出来ないのかもしれない』

『月白五尾:生物学教師みたいなコメントやな』

『見習いアトラ:それはそうと、京子ちゃんってパパが妖狐だったじゃないか』

『りんりんどー:レアケースって事では?』

『きゅうび:敢えて現実には無い組み合わせの半妖にする事で、フィクションである事を示したかっただけです』

『隙間女:監督御自らの説明は草』

『だいてんぐ:昔は妖怪父×人間母の組み合わせの半妖もいたんですがね……』

『燈籠真王:半妖の出生も裡辺とは違うんやな』

『しろいきゅうび:そらまぁ世界からして違う訳やし』

『サンダー:そっちの世界って、雷獣の半妖とかもいるの?』


 ある程度ワイワイと盛り上がっていた視聴者のコメントを眺めていた穂村たちであるが、サンダーの質問に三兄妹揃って居住まいを正す。

 サンダーとは幽世の武闘派神使・大瀧蓮である。七尾の狼系雷獣であり、非常に強い雷獣である事は言うまでもない。雪羽たち四兄妹は、彼の事を雷獣の先達として尊敬の念を持っていたのだ。レッサーパンダやハクビシン、アナグマでは狼には敵わないという部分もあるのだけれど。


『ハチミツキ:そーいや雷獣の話もあんまりしてなかったし。俺ら、そっちの世界の雷獣の事ももっと知りたいんだけど』

『オカルト博士:言われてみれば、恒例行事の六花ちゃんトークも控えめだったよね(当社比)』


 その後もわらわらとコメントが流れてくる。穂村は咳払いしつつ口を開いた。


「そうですね……言われてみれば、僕たち雷獣の事はあんまり話していませんでした。何と言うか、僕らって元々雷獣なので」

「結論から言いますと、雷獣の半妖は私の知る限りでは聞いた事がありませんね」


 弁明する穂村の隣で、ミハルがサラッとした口調でサンダーの質問に応じた。


「少なくとも、私たちの一族には、雷獣の半妖はいなかったと思います。というか、うちの一族って昔は結構一族同士で縁組がデフォって感じだったので、あんまり余所者の血は受け入れないって雰囲気だったし」

「でもさでもさ、キメラ君たちの一族もそれで二千年続いてるんだしさ、それはそれで凄い事だよな」


 六花(中身は雪羽である)の無邪気で誇らしげな言葉に、コメント欄が沸き上がるのは言うまでもない。


『絵描きつね:キメラ君の一族って二千年の歴史があるの!?』

『ネッコマター:有史より続く雷獣一族』

『きゅうび:俺の一族は四千年だからな、イキってんじゃねーよ、雪羽!』

『トリニキ:荒ぶるきゅうび兄貴のコメント、何処にツッコミを入れたらええんや』

『しろいきゅうび:二千年って、妾の年齢より五百年も長い……』

『月白五尾:こっちもこっちで凄い事言ってて草』


「ただまぁ、アタシら雷獣は、鵺と近縁種なんだよな。だから鵺と結婚するって事もたまにあるかな。まぁ雷獣的には鵺もほぼ同族って感じなんだけど」

「そうそう。それに純血の雷獣でも、僕みたいに鵺っぽく生まれる場合もあるんですよ。それを逆手にとって、僕はフレイムと名乗ってもいる訳ですが」


『りんりんどー:キメラというよりも、むしろレッサーパンダでした』

『ネッコマター:レッサーパンダなキメラ君は可愛かったなぁ』

『ハチミツキ:ハクビシンな兄にレッサーパンダな弟か。俺もリアルキメラ君は見て見たいかも』


 ハチミツキことハクビシン系雷獣の光希の言葉に、六花が目を輝かせるのを穂村たちは見た。

 穂村とミハル(そして開成も)は光希に会った事はまだない。だが、長兄たる雪羽は光希とは面識があるのだ。妖力の保有量や体格差には諸々の違いがあるのだが、だからこそ互いに興味を深めているらしい。その一方で、互いに似通った部分もあるという事だから尚更だろう。

 あ、と思う間もなく、六花は口を開いていた。


「ミツ……じゃなくてハチミツキ兄貴! アタシの可愛い弟妹たちに会いたいってか? うん、アタシも久々にハチミツキ兄貴とかサンダー大先輩と会って遊びたいなぁって思っていたからさ。というか、アタシの叔父貴もサンダー大先輩に会いたがってるんだよ。一度本気でガチンコ勝負……じゃなくて力較べしたいってさ」

「え……」

「ゆきは、兄さん……?」


 つらつらと紡がれた六花の、というよりも雪羽の言葉に、穂村もミハルも唖然としてしまった。途中で兄の話を止めるべきだったのだろう。しかし興奮した雪羽を止める手立ては、残念ながら無力なる雷獣兄妹には無かった。


『きゅうび:流れが変わったな』

『だいてんぐ:ユッキー☆君には休暇明けにお話があります』

『トリニキ:あっ(察し)』

『よるは:これもう放送事故でしょ』

『燈籠真王:だいてんぐ兄貴の圧が凄い』

『絵描きつね:ユッキー☆君を更生させたヒトやからなぁ』


「うーん、ええと……さ、さっきのはちょっとしたアドリブと言うか、ほ、放送事故なので気にしないで下さいませ!」


 すかさず穂村はフォローを入れる。何かを察したミハルが、引きつった笑みを浮かべながらも言葉を続けた。


「まぁその、今のこのやり取りも、雷獣の特徴かもしれませんね。若い雷獣って、特に突発的な行動が多いので。があんな事を言ったのも、それでキメラ兄さんが慌てちゃってるのも、雷獣ゆえの事なのです」


『見習いアトラ:サニーちゃんが上手い事まとめててほんと草』

『きゅうび:六花ちゃんの正体まで晒してるのがほんと草』

『オカルト博士:サニーちゃんが一番配信に適しているのでは(凡推理)』

『ネッコマター:大人の雷獣は突発的な行動はせんのかな?』

『だいてんぐ:個体にもよります』


 しばらくコメントが流れたのち、しばし沈黙していた雷獣たちからコメントが入ったのだ。


『サンダー:確かに、俺もMIKU♡兄貴とか六花ちゃんたちには会いたいかも \600』

『ハチミツキ:ユッキー☆君とは俺らも雷獣同盟を作った仲やしなぁ』

『りんりんどー:ガチンコ勝負については?』

『だいてんぐ:私が許しません』

『おほほなみ:てんぐ兄貴即レスほんま草』

『サンダー:喧嘩も妖怪の華って言うし、ドリームマッチは気になる所なんだよな』


「おおっ。何かよく解りませんが、とりあえず好意的な感じに受け取ってもらったようです」

「良かったね兄さん。一時はどうなる事かと思ったけれど」


 安堵の声を漏らすミハルの隣で、六花は豪快に笑い始めていた。


「ま、昔から雨降って地固まる、って言うしさ。アタシの発言もそんなに悪くなかったって事さ!」

「ええと、もしかしたら、次回は雷獣同盟のお話になるかもしれませんね」


『隙間女:もう既にオフ会になる前提なのが笑う』


「あ、もちろんサンダーさんやハチミツキさんたちの予定もありますけどね。何処で会うかもありますし」


『だいてんぐ:ちなみにMIKU兄貴は幽世行きは当局で禁止しています。大暴れされたら困りますので』

『しろいきゅうび:幽世行きの妖選じんせんを考慮する管理者の鑑』

『絵描きつね:やっぱり危険だったんだ。現世の妖怪ってこわいなー』

『よるは:まぁいざとなれば私がどうにかするんだけど』

『燈籠真王:こっちもこっちで物騒なんだが』


 気が付けば、配信の雑談は世界をまたぐ雷獣たちのオフ会の日取り云々の方へとごく自然にシフトしてしまっていた。雷獣の生態とか食性とかその辺の話は出来なかったのだが、雷獣の話を行っている事には変わりはない。

 いずれにせよ、狼系雷獣である大瀧姉弟や、ハクビシン系雷獣の尾張姉弟(光希には姉がいるそうだ)が、現世に遊びに来る運びになってしまった。穂村にしては少し申し訳ない気もしたが、こちらの面々を考えれば致し方ない事だろう。

 かくして、新年の配信は幕を下ろしたのである。

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