キメラフレイムの謎とき動画:妖怪配信編3
さて一つ目の質問はグダグダになりつつもさばけたので、次の質問にうつる事にした。二つ目の質問は「妖怪って何を食べるの? 人間を喰い殺す事はあるの?」である。前者はさておき、後者については大分盛り上がるのではないかと穂村は踏んでいた。
妖怪は人間を喰い殺すのか。その辺はやはり人間にとってもかなり気になる所であろう。現に穂村だって、雷獣が人間に喰い殺された話などは、恐ろしいと思いつつも調べようとしてしまうのだから。
「お次の項目は妖怪の食生活と人間との関りについてでしたね。
まず視聴者の皆様が気になっている所からお話ししましょう。妖怪が人間を喰い殺す事があるのか。これはまぁ、ほとんどありませんね。少なくとも、僕や僕の親族や知り合いの中で、人間を喰い殺したって話は聞きませんし」
『通りすがり:ほとんどありませんって事は、たまにそう言う奴もいるって事なのか(震え声)』
『オカルト博士:妖怪は人間を襲う事は絶対ありませんって嘘つくよりも良心的だゾ』
『絵描きつね:キメラ君も素直な良い子だもんね』
『だいてんぐ:まぁ人を喰ったような言動の妖怪もいますし』
『きゅうび:ノーコメントで』
『トリニキ:きゅうびニキが戸惑ってるのが見える見える』
『りんりんどー:何故戸惑う必要があるんですかね』
コメントが良い感じに集まったのを見計らい、六花が口を開いた。中の妖である雪羽はかなりフリーダムに発言しがちであるが、もはやそれは致し方ない事だった。
「そもそもからして、アタシらの感覚では人間に対して悪さをする事自体がクソダサい行為なんだよな。アタシらに較べたら格段に弱いし。ただでさえそんな感じだから、襲った挙句に喰い殺すっていう考えには至らないって感じかな」
『見習いアトラ:ヒューマン的に嬉しいような悲しいような意見やな』
『隙間女:ユッキー☆君が人間には無害な妖怪と見做されている真相』
『ネッコマター:確かに六花ちゃんは弱い相手をいびるタイプじゃないもんね』
『サンダー:雷獣でそういう奴がいたら見逃せないなぁ』
『絵描きつね:サンダー兄貴こわ』
『ペガサスニキ:アタシらって言うのが雷獣の事なのか妖怪の事なのかはっきりしろ』
開成からのコメントに穂村たちが気付く。ミハルは兄らを一瞥してから口を開いた。
「皆様もご存じかと思いますが、妖怪も様々な種族の者がいるんですよね。人間への関心の強さとかも、種族によってまちまちなんです。特に雷獣は、人間への関心が薄い種族になるんですよね」
「僕たち雷獣は人間の寄り付かない深山幽谷か、さもなくば無機質なコンクリートジャングルとかで暮らしているんです。しかも昔は人間に捕まって食べられたり、見世物にされた挙句に殺されてミイラにされたりしていた事もあるそうなのです。もしかしたら、そういう事が雷獣たちのDNAに蓄積されていて、それで一層人間とは距離を置くようになっているのかもしれませんね」
やや長々とした説明になってしまったが、背後にちゃんと一覧表を出しておくことは忘れない。種族ごとの、妖怪と人間との関りを記した一覧表である。もちろん、同じ種族でも個体によって違う所はあるだろうから、あくまでも後ろの表は平均的な物であるけれど。
その表に気付いた六花が、ちらりと一覧表の方を見やりながら言葉を紡ぐ。
「おおっ、キメラ君はちゃんと一覧表まで用意してくれたんだな。サニーの言ってたように、妖怪と言っても種族ごとに人間との関りは違うんだけど……この表の項目って人間に対して友好的かどうかじゃなくて、関りが深いかどうかになってるんだな」
六花のツッコミは、ある意味視聴者の疑問を代弁しているかのような物だった。この辺りも特に仕込みとかではなく即興で雪羽が考えて語ってくれている所である。
友好的か否かよりも、むしろ人間と関りがあるか否かの方が、むしろ妖怪と人間との関りを紐解くには解りやすいだろう。穂村は一覧表についてそのように解説を行った。
「そもそも友好的に振舞うかどうかというのも、その根っこに人間に関心があるかどうかって言う事がありますので。人間に関心の高い種族だと、良くも悪くも人間との関りがあるって事です。その中でも特に、良い意味で関心がある場合は人間に友好的って言えるかと思いますね」
「成程なぁ……」
六花は穂村を見やりながら頬のあたりを撫でていた。六花もとい雪羽は人間への関心が薄い。五十歳足らずながらも中級妖怪クラスの力を持ちつつも、人間たちが彼を危険視しないのもそのためだった。
「兄さんが言ったとおり、私たち雷獣は人間とは関りが薄い種族になるわね。逆に人間に関わりの深い妖怪と言えば、妖狐・化け狸・猫又辺りかしら。この三種族は、それこそ人間に対して友好的なヒトたちも多いと思うの」
『オカルト博士:おお』
『きゅうび:やっぱり狐は人間と関りがあるってはっきりわかんだね』
『りんりんどー:そっちの世界では猫又も人間と関りがあるんですね』
『トリニキ:猫又は普通の猫に擬態して人間を下僕にしている事が多いんだゾ。術者たちの中でも癒し枠として人気だゾ』
『見習いアトラ:戦力じゃなくて癒し枠なのが草』
『月白五尾:てことはうちの右腕は働き者よね』
『ネッコマター:せやろ(ドヤ顔)』
『サンダー:ここでドヤ顔をするのか(困惑)』
猫又が人間とは関りが深い。その辺りに幽世の面々も興味を持ったようだ。もしかしたら、トリニキの語る猫又の姿と幽世での猫又のそれが異なるという事もあるのかもしれない。
「あ、皆さん猫又に結構興味を持たれたみたいですね。僕たちの世界でも、猫又は長生きした猫が妖怪化したり、猫又の親から生まれたりするんです。
それで……猫と言えば人間界には結構怖い話もあるみたいなのですが、猫又自体は実は怖くは無いんですよね。と言いますのも、猫が恨みを持って妖怪化した場合は化け猫と呼んでいて、猫又とは区別していますので」
穂村はそう言って右手を上げた。化け猫の文字が赤丸で囲まれる。しかしながら、化け猫と記されている場所もまた「人間との関りが高い」という場所だった。
「そんな訳なので、猫又になっている猫妖怪たちは、積極的に人間を襲う事は無いみたいです。トリニキさんが仰っていたように、普通の猫のふりをして人間の許で暮らしている事が多いようですね。妖狐や化け狸のように人型に変化したり、積極的に働いたりする事は少ないようですが」
『燈籠真王:思っていた以上に猫で草』
『絵描きつね:ワイも猫になりたい……』
だけどさキメラ君。何かを思い出したかのように雪羽が口を開いた。
「猫又ってああ見えて仲間意識が強いんだよな。だから地域猫とか保護猫の活動には力を入れるやつが結構多いんだ。アタシの知り合いにもリアル猫又がいるけれど、保護猫活動に勤しんだり近所の野良猫たちを教育して安全に過ごせるように頑張ってるんだってさ」
雪羽はここまで言うと、ニヤリと笑いながら言い足した。残念ながら、六花ちゃんのアバターでは雪羽の良い笑顔は再現できなかったが。
「ちなみにそう言う猫又たちは、地元の猫を虐めた連中を決して赦さないんだってさ。そりゃあそうだよな。猫又たちにとってそう言う猫は仲間だし、何となれば子孫なのかもしれないからさ」
『ハチミツキ:六花ニキからホラー展開を仕掛けるとは珍しい……』
『ラス子:猫又は危ない。ガチで殺しにかかって来るからな』
『ネッコマター:ラス子ちゃん何をしたん……?』
『隙間女:アライグマって獰猛だから仕方ないね』
『だいてんぐ:アライグマ妖怪って化け狸と殺し合ってるみたいだし多少はね?』
『しろいきゅうび:現世も世知辛いなぁ』
『見習いアトラ:それはそうと、猫又の猫たちへの教育って?』
物騒な方向に話が流れつつあるのを変えたのは、見習いアトラの言葉だった。もちろん雪羽はこのコメントに気付いていた。
「アトラさん、質問ありがとな。アタシもまた聞きだから全部は知らないけれど、とりあえず危険を避ける方法とからしいんだ。横断歩道を渡れば大丈夫だとか、外敵に襲われない寝床のありかとか、悪意を持った人間の見分け方とかさ」
『見習いアトラ:コメントあざーっす。解りやすかったです \200』
『りんりんどー:猫又の教育内容がほっこりしました』
『きゅうび:猫又と猫が集まってる所に行きたいなぁ』
猫又と言うか、猫ってやっぱり人気なんだなぁ。ほっこりとしたコメントが流れるのを見ながら、穂村たち兄妹はしみじみと思っていた。本来であれば妖狐や化け狸の話もあるのだが、もうこれだけでかなり流れていきそうでもある。
そんな風に思っていると、先程までとは毛色の違うコメントが流れてきた。
『モッチー:そうなると、俺を喰い殺そうとした猫妖怪は化け猫やったんやな』
「……!」
告白めいたこのコメントに、穂村は驚きつつもすぐには言葉が出てこなかった。モッチーというのは今回初めて目の当たりにした視聴者の名前である。コメントがガチなのかネタなのか判断しかねたのだ。
コメントの主がトリニキやオカルト博士等であればガチコメントだと判断しただろう。通りすがりという匿名(そしてデフォルトでもある)であったならば、ある種のネタだと思ったかもしれない。
その事について穂村が問いかけるよりも先に、他の視聴者がコメントを投げていた。
『オカルト博士:そう言えばその話は部下から聞いたかも』
『見習いアトラ:あーありましたねそういう事が』
『トリニキ:アレは化け猫というより猫鬼なんだよなぁ。ちな犬神の猫版』
『きゅうび:そんなのに出会って生きて帰ったモッチーニキ凄い』
どうやら、先のモッチーの発言はガチコメントだったらしい。
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