キメラフレイムの謎とき動画:妖怪配信編2

「それでは一つ目の質問について解説しましょう! 一つ目は『妖怪たちは現代社会に適応しているの?』ですね」

「結論から言えば、私たち妖怪は現代社会にゴリゴリに適応しているわ。現に今も、パソコンとか機材とかを使って配信を行っている訳だし」


 妖怪は現代社会に適応できずに数を減らしているのではないか。科学技術や文明によって正体を暴かれると妖怪は消滅してしまうのではないか――創作物で流布される妖怪に対するイメージに、穂村たちは真正面から喧嘩を売ったのだ。

 実際には妖怪たちは科学技術の繁栄ごときでは揺るがない存在なのだが……画面の向こう側にいる人間たちにはいささか衝撃的だっただろうか。

 そう思いながら、穂村は流れてくるコメントを確認した。


『きゅうび:し っ て た』

『ネッコマター:し っ て た』

『絵描きつね:そういや妖狐の俺も配信やってるし』

『だいてんぐ:科学技術は妖術のだってそれ一番言われてるから』

『オカルト博士:一説には魔術って自分以外の力にて行われる事らしいゾ。そうなると、電気とか外部エネルギーに頼っている科学技術も……?』

『ハチミツキ:オカルト大先輩の迫真の推理』

『トリニキ:もしかして:料理は魔法』


「あれま、皆さん常連過ぎて驚いてないですね」

「よくよく見れば人間の方のコメントもありますが、そのお二人もをご存じの方もいらっしゃいますし」

「ここってもしかして、ペガサス辺りに仕込みを入れておいた方が良かったんかな?」

「流石にそれはマズいですよ六花姐さん」


 予想に反し、妖怪たちが現代社会に馴染んでいるという穂村たちの意見にはそれほど驚きの声は見られなかった。コメントを投げた視聴者たちは種族も属する世界自体も異なる面々であるが、そもそも妖怪だったり人間であっても妖怪に詳しい面々だったりするので自然な事であろう。

 というか人間と言えるのはトリニキだけだ。オカルト博士こと島崎女史は、あの島崎源吾郎の実姉であり、薄くとも妖狐の血を受け継いでいるのだから。


「ええと、結構妖怪ものの漫画とかを見ていると、『妖怪は近代化が進むにつれて生きづらくなってる』ですとか『科学技術が発展すると幻想の象徴たる妖怪は現世で過ごす事が出来ない』ですとか、果ては『妖怪は人間に信じて貰えないと生きていけない』みたいな設定が多いんですよね」

『見習いアトラ:某弾幕ゲームをキメラ君たちが意識しているってはっきりわかんだね』

『きゅうび:そりゃあ、そのゲームのキャラのコスプレをしてたんですから。僕も一緒にしたけれど』

『月白五尾:きゅうび君がしれっととんでもない事言ってて草』

『絵描きつね:キメラ君たちのコスプレについての配信をキボンヌ』

『りんりんどー:兄さんってばまた絡んでる』


 穂村の言葉に反応し、幾つかコメントが流れてくる。それを見やりながらミハルと雪羽も言葉を続けた。


「もちろん、最近は妖怪ものも多くなってバリエーションが増えたから、キメラ兄さんが言うような話ばかりじゃあないわ。でもやっぱり、昔ながらの話って事で兄さんの言うような雰囲気って言うのがある話も目立つかなって思うの」

「とはいえ、アタシら妖怪の存亡が、人間サマの意識云々で左右されるって話自体が爆笑ものなんだけどな」


 六花扮する雪羽は、おかしな事だと言わんばかりの勢いで言い放った。「妖怪はそんなにな存在じゃあねぇっての! 特に雷獣はな雷獣は」とも言い足したのである。

 この発言に視聴者が反応したのは言うまでもない。


『絵描きつね:六花ちゃんめちゃくちゃ強気で草』

『トリニキ:力強さを感じさせる妖怪の鑑やな』

『きゅうび:しかも六花ちゃんって妖怪が公になっている世界の住民だしね』

『サンダー:同じ雷獣として頼もしい限りだぜ』

『ハチミツキ:しかもいつでも自由に空も飛べるみたいだし』

『ペガサスニキ:ワイたちはスピッツにならずともいつでも空を飛べるんやで』


「まぁその……人間社会では妖怪ブームって昭和の頃から十年おきにやって来るんですよね。元々からして妖怪がもてはやされていたのって江戸時代の頃だったりするんで、その頃のイメージが僕たち妖怪に定着しちゃって、妖怪=古風=近現代にマッチしない、みたいな感じで連想されるのかなって僕は思うんです」

「妖怪ブームって不景気な時に起きるって説もあるけれど、平成に入ってからも妖怪ブームって何回かあるのよね。あのボルモンのモンスターたちも妖怪の一種って言えるし」

「まぁ昭和だの古風だの言うてもさ、そもそもアタシらって昭和後期の生まれだよな? 後々キメラ君たちも話してくれると思うけど、妖怪的にはまだまだヤングな子供だし、実は昭和だった頃の事ってアタシもあんまり覚えてないんだよ。キメラやサニーもそんな感じじゃあないの?」

『トリニキ:六花ちゃんの単語のチョイスにジェネレーションギャップががが』

『ネッコマター:六花ちゃんの事だから狙ってるんでしょ』

『オカルト博士:昭和生まれのワイ、サニーちゃんと同い年』


 六花もとい雪羽の指摘に、穂村もミハルも顔を見合わせた。雪羽たち四兄妹は確かに昭和後期の生まれである。雪羽は昭和五十二年生まれであり、穂村とミハルはそれぞれ昭和五十三年・昭和五十八年生まれになる。

 昭和五十年代生まれの穂村たちであるが、昭和の雰囲気を覚えているかと言われればそれは怪しかった。穂村たちの中では雪羽が雷園寺家を去った前後――昭和六十二年の事だった――で幼い日々の出来事は分断されていたし、何より平成を迎えた頃の彼らは。それもまた、妖怪としての特徴なのだが。


「そうだねぇ……僕やペガサスはともかく、サニーは平成の頃の事しか覚えてないんじゃあないかな。ええと、僕たち妖怪って歳をとるのが人間に較べてゆっくりだから、その分幼少期も長くなるんですよね」


 兄妹たちとの会話になりつつあったので、視聴者たちを置いてけぼりにしないように穂村は注意しつつ言葉を紡ぐ。まぁ妖怪の年の取り方については後々話す予定だったのだが、それが前倒しになっただけに過ぎない。

 今回は雪羽を交えた配信になっているのだが、弟の開成や妹のミハルとはまた調子が異なっていた。表向きはゲストなのだが、ホストたる穂村の進行度合いや顔色を窺うという事がまずないのだ。そこは兄と弟妹の違いなのかもしれないと、穂村は密かに思っていた。兄も兄で、単にはしゃいでいるだけなのかもしれないが。


「私ら妖怪にはきちんと成人年齢は決まってないけれど、それでも生後百年で肉体的に大人って見做されるもんねぇ。ただ、心も身体も大人になったって思われるにはもう百年かかるみたいなんだけど」

『絵描きつね:だからサニーちゃんたちは四十歳児とかって言ってるんやね』

『見習いアトラ:某幼い吸血鬼の影響でしょ(適当)』

『トリニキ:その吸血鬼は五百歳やし、あの世界の妖怪は千年生きてようやく大人って感じやで』

『しろいきゅうび:その世界に興味がでてきたんやが』

『月白五尾:えぇ……(困惑)』

『よるは:千年とか二百年とか誤差の範囲でしょ』

『だいてんぐ:六百歳越えのうちの上司も少女だった……?』

『隙間女:それならそうでうちら全員キッズって事で』

『きゅうび:それはそれで困ります』


 やはり何となく話があちこちに取っ散らかっている感はある。だが、昭和生まれや平成生まれの妖怪がいる事を伝える事には成功した。それはある意味新しい世代の妖怪が誕生している事とも同義であろう。そう言った意味では、妖怪たちは現代でもたくましく、元気に奔放に生きているという事なのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る