キメラフレイムの謎とき動画:妖怪配信編1
三が日も過ぎた金曜日の夜。キメラフレイムの謎とき動画の時間と相成った。三が日を避けたのは穂村たちも何かと忙しかったからである。子供妖怪と言えども穂村たちも名家の子女には変わりはない。年末年始の行事やら大勢いる親族たちとの挨拶やらで年末年始三が日プラスアルファは費やされる形になった。
だが今は特別ゲストの梅園六花――厳密には六花の大本である雪羽なのだが――と一緒にいられるチャンスでもある。だからこそ彼は、三が日明けの金曜日に配信を行う事に踏み切ったのだ。
もちろん、話す内容は家族サービスの合間に兄妹たちと共に考えているし、配信の時間も夜の八時からに設定している。雑談配信と言えども自分たちも視聴者たちも余裕がある時間帯と言えるだろう。
今宵もまた、世にも奇妙な配信動画「キメラフレイムの謎とき動画」が世に配信されるのだった――
「はい。皆様明けましておめでとうございます。毎度おなじみのキメラフレイムでございます」
「今年は新年早々大変な事がありましたが、皆様は大丈夫でしょうか?」
まずもって姿を現したのは黒塗りレッサーパンダのキメラフレイムと、相方であるサニー(ラーテルのすがた)の二名だった。二人はそれぞれ新年の挨拶と、画面の向こう側にいる視聴者たちを気遣う言葉を口にしていた。
『絵描きつね:あけおめキメラ君! そう言えば君らも俺の焼きそば配信を見てくれてたよね。はいお年玉 \1000』
『きゅうび:明けましておめでとう。キメラ君たちも元気そうで何よりです』
『月白五尾:早速スパチャ飛んでるよ(呆れ)』
『おほほなみ:まぁ今回はスパチャ投げる太い客がいないから仕方ないね』
「さて今回は、前の配信でも紹介していました通り、妖怪の事について語りつくす配信となっております。そして年始という事もありまして、スペシャルゲストとのコラボでもあります」
「それではゲストの梅園六花さん、どうぞ!」
ミハルの掛け声とともに、第三のアバターが姿を現した。動物をデフォルメしたアバターである穂村たちと同じく、そのアバターもデフォルメされた動物姿だった。長毛種の猫のような姿だが、細長い二尾とセーラー服のリボンがチャームポイントである。彼女こそがスペシャルゲストの梅園六花だった。
「視聴者の皆見てるか~(煽り)あやかし学園きっての超絶美少女にしてメインヒロインである梅園六花だゾ☆ 今回は可愛い弟たちからのリクエストもあって、急遽スペシャルゲストとして参加したんだよな。キメラたちと盛り上下ていく予定だから、今回の配信はヨロシク☆」
「…………兄さんってば初手からテンション高いわね」
「うん……あ、でも六花姐さん。どんよりとした空気を吹き飛ばすような明るいご挨拶をありがとうございました」
梅園六花もとい雪羽のノリノリなセリフには、妹のミハルも若干引き気味であった。まぁミハルは弟妹達の中で比較的大人びた所があるから致し方なかろう。
『ハチミツキ:六花ニキどう見てもノリノリだな!』
『トリニキ:きゅうびニキの影響からは逃れられんかったんや』
『おもちもちにび:きょうこちゃんもわすれずに、どうぞ』
『モッチー:サニーちゃんが六花ちゃんの事兄さんって言ってるけど、それって大丈夫なの?』
『きゅうび:視聴者ニキたちは六花ちゃんの正体を知ってるからへーきへーき』
『絵描きつね:幽世の皆もこれくらいノリノリになって、どうぞ』
『ネッコマター:ワイの彼氏は女装に前のめりなんだけどなぁ』
『通りすがり:獣姿だったら超絶美少女も何もないだろ! いい加減にしろ(憤怒)』
『隙間女:ケモナーならセクシーな美少女だと思うのかもしれない』
「ちなみに普段の六花姐さんは人型なのですが、今回僕たちが獣姿なので、六花姐さんも獣の姿に合わせてくれました」
「まぁ何だ、キメラ君たちが獣の姿なのに、アタシが人の姿だったらなんか変な感じになるからさ……アタシだって本来は動物の姿だし、そんな訳で今はこの姿って事なんだ。でもそれでも、アタシの美少女っぷりを堪能してくれたら嬉しいぜ☆」
『ラス子:六花姐さんテンション高くない?』
『だいてんぐ:弟たちと一緒だからでしょ(適当)』
『月白五尾:おいろけもふもふ常連ゲストの風格』
『絵描きつね:六花ちゃんはどんな姿でも美少女だってはっきりわかんだね。というかモフモフしたいなぁ(願望)』
『きゅうび:六花ちゃんは筋肉の塊だから抱きしめてもカッチカチなだけなんですけどね……まぁ毛皮はフワフワですけれど』
『燈籠真王:きゅうびニキ迫真の解説はほんと草』
『ペガサスニキ:兄さんはそんな事言ってなかったなぁ』
ちなみに今回の配信では宮坂京子やトリニキはゲストではなく視聴者の側で参加している。というよりも、雪羽が穂村の兄で身内だからこそ、今回の配信にゲストとして召喚できたという方が正しいであろう。
未だに六花の登場で盛り上がってはいるものの、そろそろ潮時だ。そんな風に判断した穂村は、本題に入る事にした。
「前回の配信でも少しばかり紹介しましたが、今回は僕たち妖怪の事について色々と知ってもらおうと思い、この雑談配信を企画しました。人間の皆さんからは、僕たち妖怪って色々な事で誤解されたり恐れられたりしていると感じましたので、今回の配信で少しでも本当の事を明らかにしたいなぁって思いましてね」
「――もしかしたら、私たちみたいな妖怪もあなたのすぐ傍にいるかもしれませんよ?」
妖怪についての真実を一部とはいえ語る。妖怪の存在が半ば秘匿されているこの世界ではかなり大それた事をするように思われるかもしれない。しかしあくまでもキメラフレイムたちが妖怪であるという事は設定であると見做されている節もある。真実を語りつつも設定語りのお遊びと捉えてもらえれば良いと穂村は思っていた。
それにそうでなくとも、穂村の語る妖怪の設定と、世間で浸透している妖怪のステロタイプは異なっている。その点でも視聴者は楽しめるのではないかと踏んでいたのだ。
『絵描きつね:妖怪がすぐ傍にいるってこわいなー。とづまりすとこ』
『しろいきゅうび:天下の邪神様の台詞とは思えなくて草』
『隙間女:とづまりしててもやって来る妖怪もいるんですよね(にっこり)』
『トリニキ:隙間女ネキの説得力が半端ないなぁ』
『りんりんどー:とはいえ兄さんが怖がりなのも事実だし……』
『モッチー:設定なのか真実なのかこれもう解んねぇな』
『オカルト博士:それを解明するのがオカルトライターでしょ』
「まぁとりあえず、皆さんが妖怪たちに対して一番気になってる所というのは大体解っておりますので、その辺はあらかじめピックアップしています!」
穂村が言うと、画面の背景に箇条書きの文言が浮かんできた。記されている箇条書きはおよそこのような物である。
・妖怪たちは現代社会に適応しているの?
・妖怪たちって何を食べるの? 人間を喰い殺す事があるの?
・妖怪たちってどんな姿をしているの?
二番目の項目がいささかキャッチーではあるが、そこはまぁご愛敬であろう。というよりも、妖怪が人間を喰い殺すと信じる人間たちはかなり多いらしいのだ。妖怪を取り扱った物語では、度々妖怪による人間の捕食について描写される訳であるし。かつて穂村たち兄妹がコスプレをした某弾幕ゲームでも、妖怪は人間を襲うと明言されていたような気もする。
『月白五尾:二番目の項目がキャッチー過ぎてほんと草』
『オカルト博士:まぁ人間を喰い殺した妖怪の話とかもあるから多少はね? 玉藻御前もそんなのがあったし』
『きゅうび:僕はそんな事やってないです(全ギレ)』
『絵描きつね:ここできゅうび君がキレるのがほんとすこ」
『トリニキ:ちょい悪ムーブしてもええんやで』
「あははは、そう言えば皆さんも妖怪って事でコメントをなさっていましたね。はい、皆様も妖怪観についてご意見があったらどしどしコメントを入れてください!」
とまぁいつも通り長い前置きとなったが、雑談配信も本題に入る事と相成ったのだ。
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