キメラフレイムの謎とき動画(クロスオーバーあり)

クリスマス前の雑談回:1

 配信動画「キメラフレイムの謎ときレビュー」であるが、この日は夜ではなく昼の時間に配信が始まった。クリスマス目前の雑談回という事で、昼の時間帯に開始する事を決めたのかもしれない。

 もはや令和の世という事で祭日ではない。しかし丁度良く土曜日であったために、視聴者も多くなるだろうとも踏んでいるらしかった。

 午後一時三十分に配信が始まる。数秒間のタイトル表記と共に、モデリングソフトで作られた雷獣のアバターたちが画面に姿を現す。黒塗りのレッサーパンダと、翼のある仔犬のような姿のアバターである。異形のレッサーパンダがキメラフレイム、翼のある仔犬は彼の弟であるスターペガサス(通称:ペガサスニキ・ペガサス君)だ。

 二人は画面の向こうにいる視聴者に向けてあいさつした。


「はい皆さん、今日はいつもと違う時間帯ですが、キメラフレイムの謎ときレビューの時間となりました!」

「今回はクリスマス前って事なので、雑談回でみんなと楽しくワーッと流していこうと思ってまっす。それはそうと、皆さんメリクリ~!」


 メリクリとか言ってるけれど、今日はまだ二十三日なんだけどなぁ。ペガサスもとい開成の言葉にそんな事を思った穂村であるが、特にツッコミを入れる事は無かった。既に視聴者たちが集まっていて、更にコメントを投げ始めていたからだ。


『ユッキー☆:ちょっと早いけどメリクリやな。お兄ちゃんからキメラ君たちにクリスマスプレゼントやで🎁:¥6000』

『絵描きつね:キメラ君たち早速楽しそう:\500』

『きゅうび:ユッキーのあのスパチャは何?』

『りんりんどー:金欠の恐れは無いのかな?』


「どうしよ兄さん。早速ユッキー☆さんから高額スパチャが来ちゃったんだけど……」

「ほんまやな。兄さんも仕事とか修行とかで大変なのに」

 

 穂村も開成も、開幕一分にて投げられたユッキー☆からの投げ銭に当惑してしまった。ユッキー☆とは雷園寺雪羽の事で、つまりは穂村たちの兄である。この配信の熱烈で熱狂的な視聴者である事は言うまでもないし、高額スパチャとも言われる投げ銭を投げる事も珍しくない。

 コメントの通りクリスマスプレゼントという意図でもってまずスパチャを投げてくれたわけだし、何だかんだ言いつつ穂村が収益を他の弟妹に分けるのを見越した上での額なのかもしれない。それでもユッキー☆はポンポンと投げ銭を投げがちなので、弟としては彼の懐具合が心配になってしまう。

 しかもユッキー☆の投げ銭はこの配信でも一回きりではないだろうし、それとは別にお年玉も用意しているとさえ言っていた。そんな事を知っているから穂村は心配だったのだ。


「にいさ……じゃなくてユッキー☆さん。毎回毎回スパチャを送ってくれて本当にありがとう。だけど僕、兄さんの懐具合とか結構心配だから、あんまり無理してほしくないなぁって思ってるんだけど」


『月白五尾:キメラ君とユッキー☆君って本当に素直な兄弟やな』

『絵描きつね:素直な弟が欲しいなぁ』

『りんりんどー:何で僕を見ているんですか(半ギレ)』

『トリニキ:むしろユッキー☆はワイの弟分みたいなもんやし』


 穂村の呟きは、多くの視聴者ではなく雪羽に向けて放たれていた。それに他の視聴者がコメントを残し、それに出遅れる形で雪羽からのコメントが投げられた。


『ユッキー☆:俺の懐具合は大丈夫やで。副業とあやかし学園の印税で荒稼ぎしたから、むしろお金が余ってしゃあない位やし』


「あやかし学園……! 言われてみればあのドラマめちゃくちゃヒットしてたやん兄さん」


 雪羽の懐事情が明かされたところで、開成が驚いたように目を見開き、穂村を見やりながら何度か頷いていた。

 あやかし学園の事はもちろん穂村も知っている。那須野監督を代表とする同人サークル・ナインテイルズが製作している学園もののドラマだった。雪羽も梅園六花と言う名の雷獣少女として出演しているし、ドラマシーンの構図を考える役割も持っているという。

 小難しい事はさておき、あやかし学園が人気のドラマである事には変わりはない。何せ邪神系妖狐の夢咲蕾花によると、彼らの住まう世界でも視聴できるようにネット上で配信されているとの事なのだから。

 ちなみに穂村もこの円盤を十数枚ばかり購入済みである。視聴用と保存用が一枚ずつ、後の残りは布教のために親戚たちや使用人などの身近な妖怪にプレゼントしたのだ。

 世界は違えど幽世に住まう妖怪たちもまた、あやかし学園の物語や、梅園六花や宮坂京子と言った可愛い妖怪の姿に魅了されているらしかった。その辺りは先輩格に当たる蕾花の配信からもうかがえたところである。

 ちなみにあやかし学園はシーズン2を製作し、出来た所から都度放映しているという所である。もう少ししたら一旦ドラマは完結するという噂もあるが、そこはまぁ那須野監督の判断なので致し方ないだろう。


「そりゃあもうあやかし学園がヒットするのは自然な事だよペガサス。妖怪ものにも物語作りにも造詣の深い蕾花さん……じゃなくて絵描きつねさんだって絶賛なさっていたくらいなんだからさ」

「兄さんや絵描きつねさんがあやかし学園を大好きなのは、六花ちゃんが出てるからじゃないの? いやまぁ面白いと思うけど」


 ついついあやかし学園の話で食い気味になった穂村に対し、開成は何とも冷静な口調で返す。開成はそれほどあやかし学園に熱狂している性質ではなかった。穂村やミハルに勧められれば視聴はするし、つまらない等と言い捨てる事はない。しかし穂村やミハルと異なり美少女妖怪の誰かを推しにするなどと言う熱意は見当たらなかった。兄とその友達や仲間がドラマを作っているなぁ……と語る彼の口は何処までも醒めているのだ。


『絵描きつね:六花ちゃんと京子ちゃんはおいろけもふもふ決定戦の常連ゲストやしな』

『見習いアトラ:常連なのかゲストなのかはっきりしろ』

『オカルト博士:こいつら何処でも女子変化してるな』

『ネッコマター:それはそうとペガサス君の冷静な返しが草』

『きゅうび:そりゃあ実の兄がしてヒロインになりきってるんだから、普通の男子だったらえぇ……(困惑)となるのもやむ無しでしょう』

『ユッキー☆:どの口が言うんだどの口が(憤怒)』

『トリニキ:ブーメランぶっ刺さってますよ、の京子ちゃーん(煽り)』

『月白五尾:あの清楚な京子ちゃんが人妻ってウッソだろ?』

『きゅうび:先日恋人と結婚しましたので』

『だいてんぐ:その通りだけどそうじゃない(焦り)』


「ううむ、やっぱり六花ちゃんと京子ちゃんの話になると皆さん絡んできますね。まぁ、京子ちゃんが人妻になった事については……あとで紹介しますのでどうぞお楽しみに!」


 ちなみに今回の雑談回では、視聴者兄貴・視聴者姉貴から事前に話したいネタについてのメールを募集してもいた。その中に、源吾郎が先日結婚したという報告も入っていたのだ。その辺りは穂村ももちろん知っているが、源吾郎の報告を聞いて盛り上げるのが面白いであろう。


「それはそうと兄さん。そろそろサニーを呼ぼうぜ。イメチェンしてからの初登場なんだしさ」

「おっそうだな」


 開成に言われ、穂村も反射的に頷く。本来であれば、穂村と開成の二人だけが登場したという事で、誰かが「サニーちゃんはどうしたの?」と問いかけるのを待つ運びであった。しかし思いがけずあやかし学園とか六花の話で盛り上がってしまい、失念してしまったのだろう。

 だがサニーことミハルが長らく配信に登場していなかったのも事実である。その間は穂村と開成の二人で配信をやりくりしていたのだ。もしかしたら、この配信もキメラフレイムとスターペガサスの二人組だというイメージが定着してしまったのだろうか。

 だが今回はクリスマス規格であるし、トリオで配信を進めるつもりだ。そんな事もあり、穂村と開成は妹のミハルを召喚する事となった。


「それじゃあサニー、君も長らく続いたイメチェンが終わっただろうし、そろそろ登場しても良いんじゃないかな」

「ちなみにサニーの中の人は、自分の新しいアバターを再構築するのに自分の力でモデリングソフトを弄ってあれこれやってたみたいなんすよ。大体引きこもってたんで、俺たちも弟妹達も心配してたっす」


 何を思ったか開成は裏事情まで口にしたのだった。言い過ぎだと思わなくもないが、彼の言葉で身バレまでするわけでもないからまぁ良かろう。

 コメント欄でも「サニーちゃんガチ勢やな」「オタク女子だったし」などと言ったコメントが早くも寄せられている。

 さてそろそろサニーの登場である。キメラフレイムとペガサスのアバターは左右に退き、中央にスペースを作った。

 新たなアバターになったサニーは、画面のど真ん中をぶち破るような描写でもって飛び出してきた。何となくクリスマスっぽい画像にはひび割れが入り、その中でサニーのアバターはくるくると縦回転しながらゆっくりと下に向かっていく。


『サンダー:うおっまぶし』

『絵描きつね:第四の壁を破壊するとは……』

『トリニキ:予想以上に勇ましくて草』

『隙間女:妖怪は女子でも強い子はいるから多少はね?』


 度肝を抜くかのようなサニーの登場に、コメント欄もにわかに沸騰する。そんな中で、サニーの動きは止まっていた。着地したのだ。


「お久しぶりです皆様。見ての通りイメチェンを果たしましたが、これからも兄さんたちと一緒に配信を続けていこうと思います!」


 両肩や手足の先から稲妻を出すエフェクトを見せつつも、サニーことミハルは視聴者たちに挨拶をする。イメチェンという言葉に違わず、彼女の姿は刷新されていた。

 これまでの彼女は、茶褐色の毛並みと目元に縦長に黒い模様が走る、典型的なアナグマをデフォルメした姿だった。だが今のサニーは違う。全体的に黒く、しかし頭の上半分と背中側、そして尻尾などは輝かんばかりの白さを誇っている。ついでに言えば面構えも違っていた。アナグマ時代の愛嬌のある顔立ちとは異なり、かなり精悍な雰囲気になっている。本来は牙を剥きださんばかりの獰猛な姿にしたかったそうだが、それは穂村や開成の方から待ったをかけたのだ。

 白黒のツートンカラーと野性味あふれる姿。サニーがアバターとして参考にしたのは、ラーテルという獣だったのだ。

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