キメラフレイムの謎とき動画:ゴヲスト・パレヱドのレビュー編②

「それではゴヲスト・パレヱドのお話の簡単な紹介を行います。

 主人公のいな……間違えました、漆宮燈真君は、謂われなき暴力事件の主犯に仕立て上げられた挙句、実の父親から勘当されてしまいました。この濡れ衣・この屈辱を晴らすために、彼は最強の退魔師となる事を決意し、生前の母がお世話になっていた妖怪屋敷、あの(皆様ご存じ)稲尾家の内弟子として修行を始めるのです。

 人妖入り乱れる若者たちの青春と活躍、そんな彼らを、というか世界そのものをあざ笑うかのような呪術師と魍魎の邪悪なる振る舞い、そしてこの両者のぶつかり合い。まさに数奇な物の怪録と言うにふさわしいでしょう」

「うんうん。最強を目指すって言うと、やっぱりめちゃくちゃエネルギーが必要だと思うんすけど、燈真君にはきちんと相応の理由があるって言う所も良いよね。ついでに言えば、燈真君の境遇に、俺たちもめちゃくちゃシンパシーを感じちゃったし」


 シンパシーを感じると言った開成の言葉には、珍しくしっとりとしたものが籠っていた。無理からぬ話だ。漆宮燈真の境遇と、穂村たち四兄妹のそれは確かに似通っているのだから。幼くして実母と死別し、実父からの冷遇を受けた。それは穂村たちも同じ事だった。

 もっとも、穂村には実の弟妹という心強い味方にして庇護すべき仲間がいたし、長兄の雪羽は叔父夫婦に(相当甘やかされたらしいが)大切に育てられた。それよりも過酷な半生を辿ったであろう燈真の事を思うと、穂村は胸が苦しくなってしまう。


『ユッキー☆:ワイも燈真ニキと相通ずる所はあるなぁって思ったやで』

『月白五尾:この前の温泉旅行でも意気投合してたもんね』

『隙間女:雷獣ブラザーズの心の隙間が見える見える……』

『きゅうび:燈真ニキは女の子をホテルに連れ込んだりしないだろ! いい加減にしろ(憤怒)』

『サニー:え、兄さんそんな事までやってたの……?』

『トリニキ:女の子(きゅうびニキの変化した姿。つまり男)』

『だいてんぐ:ホテルと言っても連れ込み宿じゃないのでセーフ』

『ユッキー☆:妹に誤解を招くような発言をされた。訴訟も辞さない』


「何かめっちゃコメント欄が盛り上がってますけれど……次にゴヲパレの魅力について語っていこうと思います。

 僕たちが魅力的だ! と思ったのはこの三点ですね」


 穂村の言葉と振り上げた右前足を合図に、背景に簡素な表が浮き上がる。箇条書きにされた三つの項目だった。


「妖怪たちの生き生きとした描写、妖怪たちの生態や特性を踏まえた上でのアクションシーン、そして闘いの中で描かれる、敵味方を問わない心理描写。これがゴヲパレの魅力だと僕は感じました!」

「俺たちはもちろん妖怪にはちょっと詳しいけれど、それでもやっぱりゴヲパレの妖怪たちはこんな感じなんだなーって思う所が結構あったんすよ。やっぱり兄さんも俺も妹も、妖怪たちの大きさとか重さに注目しちゃったっす」

「そうそう! 雷獣もお狐様も化け狸もカマイタチも、めちゃくちゃ大きかったですよね。あ、大きいって言うのは僕たちの基準で、という事ですけれど」


 スターペガサスの翼が動き、キメラフレイムの周囲に暗雲が集まっていく。その間に再び画面が切り替わった。左右に並べられた二枚の写真には、どちらも獣妖怪の画像である。一方はゴヲパレでのワンシーン、他方は本来の姿に戻った穂村たち兄妹の写真である。

(ここから先は何度かゴヲパレの映像が映し出されるが、事前に夢咲監督より許可を貰っているものである)


「左はゴヲパレ第十二話にてハクビシン系雷獣・尾張光希さんが本性に戻った時の姿でして……右は僕とサニーの本来の姿です。ちなみに体重差はこんな感じですね」


 画像の下部に、雷獣たちのおおよその体重も表記される。光希という雷獣少年は三十キロ。一方の穂村とミハルはそれぞれ三キロ強である。妹のミハルよりも穂村の方が三百グラムほど軽いのだが……まぁ女児の方が男児よりも成長が速いという事もあるので致し方ない所だ。

 余談だが異母弟の時雨は四キロ弱と穂村よりもいくらか大きかった。二尾で妖力の保有量が多いとはいえ、弟の方が発育が良い事には少し複雑な気分でもある。


『サンダー:同じ雷獣でも大分違うんだな……』

『おもちもちにび:ねんれいさもあるのかな?』

『ユッキー☆:ちなみにワイは十キロ台やで』

『きゅうび:ワイは五十キロ台後半なので(ドヤ顔)』

『トリニキ:きゅうびニキはヒトベースだからでしょ(無慈悲)』

『月白五尾:キメラ君もサニーちゃんも軽すぎィ! 息子より小さいじゃん!』

『見習いアトラ:三十キロのハクビシンってこれもう猛獣じゃないか』

『ラス子:ラス子は二十五キロあるのだ~』

『オカルト博士:警察犬が二十五キロ~三十キロ程度だもんな』


「ちなみに、三十キロ台の光希君はゴヲパレの獣妖怪の中では比較的小柄な妖怪みたいなんですね。彼が闘ったカマイタチの少女は四十キロオーバー、猫又忍者の万里恵さんも同じくらいあるとの事でしたから!」

「そもそも竜胆君も三十キロ程度の大狐で、その彼をさらった化け狸も八十キロの巨体だったんすよ」


 そして更にここで画面が切り替わる。映し出されたのは本性に戻った獣妖怪たちの写真である。四十キロ前後はあろうかというニホンイタチに黒猫、そして八十キロほどの巨体を誇る化け狸だ。化け狸に至っては、一トンを超える乗用車を弾き飛ばすほどの膂力の持ち主だったではないか。

 ゴヲパレの世界では、ここまで大きな獣妖怪たちがいるのが普通の事なのか。なまじ妖怪の事を知っている(というよりも穂村自身も妖怪なのだが)為に、穂村たちの驚きは強かった。

 穂村たちの周囲にいる獣妖怪の重量は、数キロから十数キロ程度の範囲に収まる者がほとんどだ。父や継母は成妖し妖力の保有量も多いが、それでも二十キロから三十キロ弱だったはずだ。叔父の三國は雷獣ながらもを誇るが、それは八尾のだからに他ならない。

 とはいえ、この世界での鬼は軽量級のものでも二百五十キロはあるというし、ドラゴンなどに至っては数トン単位の存在になるという。圧倒的だった。


「しかもその巨体と重量、そして妖怪としての身体能力をフルに生かしてぶつかり合うんですよね。ええ、ええ。ド迫力ですよ」

「やっぱり俺たちも男子だから、物理攻撃とかでガチンコ勝負するのを見るのは面白いなぁって思うんすよ。実を言えば、妖怪同士とか妖怪と術者の対決で、物理攻撃で決着をつけるって言うのはこっちでは案外少ないんで」


 しまった、語彙力が乏しくなっている……! 自身のコメントに愕然とした穂村であったが、それは上手い塩梅に開成がフォローしてくれた。マイペースで何を言い出すのか解らない危うさを感じる時もあるにはあるが、配信動画の相棒としては中々どうして機転が利くではないか。


『しろいきゅうび:魍魎退治は物理攻撃が一番だから、そっち方面に妖怪も力を付ける訳』

『よるは:だからこそ武闘派神使が重宝されるのよね』

『ユッキー☆:物理攻撃はワイもやってるけどなぁ』

『きゅうび:君は物理攻撃に全振りし過ぎなんだよなぁ……』

『トリニキ:きゅうびニキの攻撃力もえぐいってそれ一番言われてるから』

『サンダー:確かに二人は見込みあるぜ』


「ペガサスにサニー、よく見てよ! サンダーさんから兄さんが見込みありって言われてるよ。凄いよね、嬉しいね!」

「……ちょっと兄さん話が脱線してるよ」


『サニー:きゅうびさんも一緒に見込みありって言われてるのも伝えないとフェアじゃない気がするんですけれど』


 興奮気味の穂村に対し、開成もミハルも何ともクールな返しではないか。まぁ弟妹にしてみれば、雪羽がダントツに強いというのは当然の事だから、特段驚くまでの事も無いのかもしれない。

 そんな風に穂村が解釈しているうちにも、他の視聴者がコメントを投げかけていた。


『燈籠真王:ペガサス君のツッコミが冷静で何か草』

『絵描きつね:キメラニキ、まさかのボケ枠なのか……?』

『りんりんどー:真面目だけど大ボケをかますキメラさんと、ふわふわしていてフランクだけどちゃんと軌道修正をするペガサスさんは結構ナイスコンビかもですね』

『月白五尾:サニーちゃんとはまた違ったリアクションだから面白いかも』

『トリニキ:ペガサスくんは可能性の獣だった……?』

『見習いアトラ:もしかして:ユニコーン』


「ユニコーン? 俺、角も生えてないしペガサスキャラで通してるんだけど……もしかして別の意味があるのかな?」


 見習いアトラの意味深なコメントに、開成が首を傾げる。人間で言えば爽やかなスポーツ少年に近い開成は、穂村やミハルと異なりネットスラングには疎いのだ。

 もちろんユニコーンが一角の幻獣である事は開成とて知っているだろう。しかしネット上、とみに配信関連ではまた異なった意味を持つ事もあるのだ。

 とはいえ解らない事を解らないと聞くのは素直で良い事だと穂村は思っている。


「そうだねペガサス。ユニコーンと言えば一角のアレだけど、配信の世界では主に女性配信者のファンの中で、『男の人との絡みなんてご法度です!』という考えを持った人たちの事になるかな。多分アトラさんはそう言う意味を踏まえた洒落を寄越してくれたのかもしれない」

「って事は、うちだったらサニーが男性キャラと絡まないか目を光らせてるやつがユニコーンって事? ううむ、そんな視聴者のヒトっているのかな?」


 自身の配信でユニコーンが登場する。そんな懸念は穂村の頭の中にはこれまで存在しなかった。サニーは確かに女の子である事は公言しているが、獣姿のアバターなので、おいろけ要素が特に無い。そもそもであるキメラフレイムと共に出演しているのだから、初めから男の絡みはある訳だし。


『サニー:私まだ子供だし、男子との恋愛には興味ありませーん!』

『オタクくん:サニーちゃんたちの可愛さは、むしろ弟とか妹みたいな感じかな \500』

『絵描きつね:むしろキメラニキが六花ちゃんのユニコーンでは(凡推理)』

『りんりんどー:爆弾発言はやめろ』

『きゅうび:申し訳ないがその通り過ぎて草』

『トリニキ:隙あらば六花ちゃんの事を話そうとするもんな』

『見習いアトラ:ワイの発言がとんでもない事になってて草』

『ユッキー☆:六花ちゃんは男の人とはくっつかないのでご安心ください \900』

『だいてんぐ:その通りだけどそうじゃない』


「ねぇ兄さん。軌道修正しようと思ったら更に脱線しちゃったんだけどこれは……」

「ううむ、やっぱり配信って難しいなぁ」


 六花姐さんの事は色々と語っているのに、未だに語るべき事が見つかってしまう。おのれの裡に潜む謎に知的好奇心を抱きつつも、穂村はシナリオ通りに話を進めようと今一度決意を固めたのだった。

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