九尾の末裔シリーズこぼれ話 その2――あるいは、雷獣列伝
斑猫
キメラフレイムの謎とき動画:ゴヲスト・パレヱドのレビュー編①
十月末。秋も深まったこの時期にキメラフレイムの謎とき動画が一本アップされた。この度の動画は、ドラマ「ゴヲスト・パレヱド」のレビューだという。
内容としてはあやかし学園と同じく学生が主人公の妖怪ファンタジーである。先だってパート1が完結して一区切りがついたのだが、ハロウィンの手前でこの配信をするという所にも、キメラフレイムの洒落っ気が反映されていた。
今でこそコスプレの大イベントとして認識されているハロウィンであるが、ハロウィンの仮装には跋扈する魑魅魍魎の目を欺くという意味合いがある。
穂村たちはむしろ魑魅魍魎の側に分類されるのだろうが、とはいえハロウィンと
ついでに言えば、今回は新メンバーを交えての初配信でもある。そう言う意味でも穂村は意気込んでいた。
「はい皆さんこんばんは。キメラフレイムの謎とき動画のお時間でーす!」
「はいどうもこんばんは。今日から準レギュラーになったスターペガサスでっす」
画面の両脇に、二体のアバターが顕現した。一方は黒くて鱗を四肢と尾に生やした異形のレッサーパンダのキメラフレイムである。
そして新顔であるスターペガサスもまた、不可思議な容姿の持ち主だった。背中に一対の翼を生やした仔狐のような姿。これがスターペガサスのアバターだった。
見た目の異形らしさは、キメラフレイムよりも控えめかもしれない。しかしペガサスと名乗っているのに仔狐のような姿であるのだから、視聴者は混乱するかもしれない。キメラフレイムこと雷園寺穂村はそんな風に思っていた。
しかし有翼の仔狐にペガサスの名を冠する事は、スターペガサスもとい雷園寺開成自身の希望に他ならない。開成は仔狐や仔犬に似た姿であるし、諸般の事情でペガサスをハンドルネームにしたいと言っているのだから。
ちなみに開成は翼を保有している訳でもないし、所謂六足の雷獣でもない。普通の四足獣ではある。しかし開成の両脇にはルーズスキンと呼ばれるたるんだ皮が発達しつつあり、開成はそれを翼や三対目の脚に見立てたりしているのだ。
ルーズスキンという腹部のたるんだ皮は、主にネコ科獣に見られる特徴であるらしい。しかし雷獣にもルーズスキンが発達する場合があり、それ故に六足の雷獣や、翼を持つ雷獣がいると思われるのである。
ともあれ、新顔の登場にコメント欄が湧いた。
『ユッキー☆:ペガサス君初参加祝い \1000』
『絵描きつね:ペガサスなのに犬……?』
『きゅうび:中国の天馬は翼の生えた犬の姿をしているので、多分そっちにちなんだのでしょう』
『月白五尾:きゅうび君の博識マジで助かる』
『トリニキ:博識パンチはきゅうびニキの必殺技でもあるからな』
『りんりんどー:そう言えばサニーさんは?』
「妹のサニーはイメチェンをする予定なので、今回はコメント欄の方からお邪魔する予定です。ええと、僕ら三兄弟がそれぞれライオン・キメラ・ペガサスを名乗っているので、サニーもアナグマからラーテルにジョブチェンジしたいみたいでして」
『きゅうび:ユッキー☆がライオンを名乗ってるのほんと草』
『だいてんぐ:ユッキー☆君はまだ仔猫なんだよなぁ。でも背伸びしている所がほんとすこ』
『燈籠真王:ユッキー☆君はきっとネメアのライオンかもしれない(断定)弟たちがギリシャ神話由来だからさ』
『オカルト博士:ギリシャ神話は雷神が最高神やから、雷獣ブラザーズは好きそうやな』
『絵描きつね:ラーテルってギリシャ神話に出てきてたっけ?』
『サニー:ライオンとタメを張れる動物って事で、どうぞ』
「あ、そう言えばスターペガサスの紹介がまだでしたね。ええと、彼は僕の弟で、今裏方に回っているサニーの兄にあたります」
ペガサスこと開成の紹介がまだだった事に気付き、穂村は簡単に彼の紹介を行った。ペガサスは嬉しそうに右前足を上げ、翼を動かすモーションまで行っている。
「そうなんですよ。キメラ兄さんとサニーとは、リアルに兄妹なんすよね。これまでは兄さんたちが配信をやってるなぁって思ってただけなんだけど、まぁ色々あって参加する事になりました」
『絵描きつね:キメラ君の弟だったのか……やっぱりな♂』
『ユッキー☆:し っ て た \300』
『隙間女:というかさっきしれっと三兄弟って言ってましたもんね』
『おほほなみ:紹介せずとも視聴者たちも気付いていたみたいですがこれは』
『サンダー:回を重ねるうちに雷獣兄弟のオールスターになるんかな(小並感)』
『きゅうび:四兄妹で仲良くコスプレ&女装してたからありえそう』
『ネッコマター:さらっときゅうび君がとんでもない事を言ってて草』
『サニー:まぁ別に、スポンサーから許可は貰ってますんで』
「ああ、その、最近始めたコスプレについてのお話は、また今度やりますね。この後ゴヲパレのレビューも控えてますし、その前にペガサスの紹介もしないといけないんで……」
「言うて視聴者のヒトたちはもう俺の事知ってそうだけどなぁ」
「まぁコメント的にはそうだけど……」
ともあれ穂村は、キメラフレイムの謎とき動画に登場するのは雪羽からミハルまでの四兄妹だけであり、他の弟妹が登場する事はないという事を視聴者たちに説明した。時雨は雷園寺家の次期当主候補として修行の真っ最中であり、異母兄姉の行う動画配信などに顔を出し、周囲からイメージを損ねてしまっても問題があると穂村たちも彼らの親族たちも考えていた。
また、他の弟妹である深雪や銀雨はそもそも幼すぎるために、やはり配信に参加させる事など難しいだろう。人間に換算すれば深雪は七、八歳ほどの童女であり、銀雨に至っては三、四歳ほどの幼子なのだから。
それに時雨たち三兄妹はつまるところ異母弟妹なのだ。雷獣としての鍛錬や勉強ならばいざ知らず、そうでないシーンで彼らを巻き込むのは穂村としては気が引けた。開成やミハルは、穂村ほど神経質に考えてはいないようであったのだが。
「さて、それではゴヲパレ……ゴヲスト・パレヱドのレビューに移りたいと思います!」
「ちなみにゴヲスト・パレヱドって百鬼夜行って意味らしいんすよ。キメラ兄さんはハクビシン姿の雷獣とかお狐様とか狼系雷獣とかに注目してたんすけど、確かに色々な妖怪が登場するのが印象的だったかな」
『絵描きつね:キメラニキ、雷獣にばっかり注目してるのほんと草』
『りんりんどー:兄さんだって狐好きでしょ』
『おもちもちにび:おいろけもふもふが好きなんだよね』
『よるは:後でちょっと話があるんだけど』
何故か絵描きつねが弄られる展開になりつつも、キメラフレイムは更に感想を続ける。
「こちらのお話はアクションシーンが充実していましたので、妖怪同士の闘いを見るという意味でも勉強になりました。それにやはり……同じ種族でも世界が違えば大分違うんだなぁ、と思いましたし」
「うんうん。俺も妖怪同士がワーッとぶつかり合うようなバチボコのアクションは大好きだから、結構楽しめたかな」
『サニー:私も血肉が飛んだり臓物がばらまかれるシーンには耐性があるから全話楽しめました☆』
『ユッキー☆:サニーちゃんさぁ……そういう事言うとお兄ちゃん困るんだよなぁ(困惑)』
『見習いアトラ:流血とかグロシーンは女子の方が耐性が高いって説もあるから多少はね?』
『トリニキ:雷獣くんがイタチネキの首を咬み切ったシーンとかナポリタン食べながら視聴しとったわ』
『ネッコマター:アトラネキの説が補強されてて顔中草まみれや』
『きゅうび:トリニキの挙動がもはや怪異のそれで草枯れる』
『絵描きつね:お酒も入ってたんじゃないの(凡推理)』
「そう言えばペガサスは六花姐さんが登場するあやかし学園はあんまり興味を持ってなかったよね。それってやっぱりアクションシーンが少なめだったからなのかな?」
ふとそんな事を思い出した穂村は、そのまま弟の開成に疑問としてぶつけてみた。ゴヲパレのレビューなのにあやかし学園の事について言及するのはルール違反であろうか。しかし他の配信でも、作品Aをレビューする際に過去にレビューした作品について言及するものもあったではないか。
ましてやあやかし学園とゴヲパレは「妖怪と人間が共存する世界で、学生である主人公が活躍する物語」という共通点がある。その上ゴヲパレを手掛けた夢咲監督と、あやかし学園の制作者代表の那須野監督(島崎源吾郎の事だ)は互いに兄貴分・弟分と呼びならわすほどに親交を深めている間柄でもある。
であればゴヲパレの関係者たる幽世の面々も気を悪くする事は無かろう。何となれば、あやかし学園を手掛ける雪羽たちの助けになるのではないか。そんな風に穂村は解釈していたのだ。
そんな風に自己解釈していた穂村であるが、開成の口から飛び出してきたのは思いがけぬ一言だった。
「うーん。アクションシーンが少ないというよりもさ、あやかし学園は女の子が出てくる事が多かったでしょ。六花姐さんとか京子さんとか、二人の女友達とかさ。そりゃあまぁ女の子が主役だから女友達が出てくるのは自然な事だけど、女の子ばっかり出てくると少女漫画みたいな感じがして、ちょっと……って思ったんだ」
「女の子ばっかりで少女漫画みたい、かぁ。成程ね、ペガサスはそんな風に思ったんだ」
穂村は平静を装ったまま、淡々とした口調でそう言っただけだった。実の弟である開成は、しかし穂村ほど六花を推してはいないのだ。むしろ何故そこまで六花を推すのだ、と思っている節すら感じる時がある。
だが、この二人のやり取りに対し、視聴者たちが見事に食いついたのである。
『だいてんぐ:六花ちゃんと京子ちゃんが本当の女の子みたいな言い方はやめろ』
『オカルト博士:女の子(漢と雄) \2500』
『絵描きつね:TSも男の娘も幽世じゃあ常識なんだよ!』
『りんりんどー:そんな常識は幽世にはありません』
『ユッキー☆:あやかし学園の舞台は幽世ではありません!』
『きゅうび:設定上、六花ちゃんも京子ちゃんも女の子なのでセーフ!』
『見習いアトラ:中の
『ネッコマター:ブロマンスを好む女子も多いし、そう言う意味では女子向けだった……?』
『トリニキ:だから二人とも女の子説が出るってそれ一番言われてるから』
「あ、あははは。何か物凄い反響が出てしまいましたが、あやかし学園の事はこれくらいにして、そろそろゴヲスト・パレヱドの紹介に移りたいと思いまーす!」
かくして盛り上がりを見せつつも、穂村は本題に入る事としたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます