キメラフレイムの謎とき動画:ゴヲスト・パレヱドのレビュー編③
「それじゃあ気を取り直して本筋に戻りますね。ペガサス、ここまでで僕たちが話した大事な事って何だったっけ?」
「キメラ兄さんが六花姐さんのユニコーンだって事っすね」
「何でや、今は六花姐さんは無関係やろ!」
すまし顔で応じる開成に対し、穂村は関西弁丸出しのツッコミを入れてしまった。確かに穂村も六花の事ばかり話しているという自覚はあるにはある。しかし今は、ゴヲパレのレビューの為の配信である。
『サニー:もうやだこの兄たち』
『きゅうび:ペガサスニキのツッコミが的確過ぎて笑う \400』
『ユッキー☆:六花ちゃんも交えての特別配信を企画してもええんやで? \900』
『絵描きつね:特別配信……参加したいなぁ……』
『りんりんどー:ボケとツッコミが交互に入れ替わるのが斬新かも』
『隠神刑部:やっぱり関西圏の妖怪やな』
『しろいきゅうび:関西は魍魎が少ない可能性が微レ存……?』
「まぁ言うて
「確かゴヲパレでの魍魎って、俺たち妖怪をひとくくりにした魑魅魍魎じゃなくて、負の感情が結晶化したバケモノなんすよね」
「そうそう。もう純粋に妖怪とか人間とか生き物を襲う事しか考えてないから、とっても危険なんだよね」
穂村がそう言った所で、またしても画面が切り替わる。ドラマの冒頭、漆宮燈真が魍魎と闘っているシーンである。この魍魎は小ぶりであるが、さりとて一尾の妖狐を喰い殺しているのだ。穂村も開成もミハルも多分やつのおやつになってしまう事であろう。
「でも負の感情で魍魎が産まれるって怖いなー。それじゃあさ、家族にデザートを取られたとか、箪笥の角に小指をぶつけたとかで発生するあの感情からも、魍魎とかが誕生しちゃうんかな」
「そ、それは流石に無いと思うんだけど……皆さんはどう思われますでしょうか」
開成のボケに穂村は困惑した。弟の言葉が狙ったものなのか心からのものなのかすぐに判らなかったためである。だがすぐに、ウケ狙いではなく本心からの問いだと気付いてしまった。何せ弟は、思った事を素直に言動に示す、雷獣らしい雷獣なのだから。
穂村もまた、素直に解らぬ事を視聴者に丸投げする事にした。自分も雷獣で、それにまだ子供なのだから。
『オカルト博士:そんな事で魍魎が発生するんなら現世は世紀末やで』
『隙間女:ちょっとした魍魎なら捕食できますんでご安心ください』
『りんりんどー:発生する前提での話はやめろ(本音)』
『月白五尾:マジな話、世界を滅ぼしたいとか誰かを破滅させたいとか、そう言う強い念が魍魎を生み出す訳だから……多分セーフ』
『絵描きつね:魍魎を浄化するために、面白い配信動画を作らなきゃ(使命感)』
『トリニキ:ワイも怪文書の制作を頑張らなきゃ』
『きゅうび:トリニキさんさぁ……』
「ペガサスが言ってたような事じゃあ大丈夫って言う感じですね。そう言えば、魍魎にも強さのランク付けがされているんです。ゴヲパレの世界では等級と呼んでいて、それでどれくらい強いのか、祓葬しやすいかどうかの指標になってるんですよね」
「ちなみにさ、その等級って魍魎だけじゃなくて、魍魎を狩る側の退魔師とか、妖術を悪用する呪術師にも付いているんすよね」
開成の言葉を皮切りにまたしても画面が切り替わる。それは表計算ソフトで作り上げたかのような一覧表だった。等級、保有する妖力量のおおよその目安、討伐するためにいつような武器や装備、そして該当する者たち。そうした物が整然と一つの表でまとめられていたのだ。
該当者はもちろんゴヲパレに登場した妖怪たちや常闇之神社に住まう神使たちの名が記されている。その中にしれっとユッキー☆だとかきゅうびニキなどと言った名前が混入しているのもまぁご愛敬だ。
「等級は下から順に五等級から一等級、そしてその上の上等級、準特等、特等級の全部で八段階あります。五等級って言うのは見習い退魔師がまずなる等級らしいのですが、業績を上げたりより上位の等級の魍魎とか呪術師をやっつける事が出来ると判明したら、昇格していくシステムらしいんですね」
『ネッコマター:くわしい』
『おもちもちにび:わかりやすくてヨシ!』
穂村の用意した表と説明は神使たちにも好感触だった。心の中でガッツポーズしていると、開成が補足だとばかりに言い添える。
「あ、でもさ兄さん。最高等級は特等級だけど、上等級より上は強すぎるっていうか特殊な術師しかなれなくて、一等級になれたら退魔師として御の字だって話じゃあなかったっけ」
「実はそうなんですよね、良い指摘をありがとうございます」
アバターとしてのキメラフレイムは喜んだように頬を赤らめたが、現実の姿としての穂村もまた、その頬を喜びに火照らせていた。
「えへへへへ。実は視聴者であり僕の事を熱烈に推してくださっているユッキー☆さんやそのご友妖であるきゅうびさんは、実は現時点で一等級相当なんですよね。ええ、誇らしい事です」
「まぁ、キメラ兄さんやサニーは五等級相当、俺はちょっと頑張ってるから四等級はあるかなぁって思ってるんだけどね。まだ一尾だししゃあないか。
実は二尾の弟もいるんだけど、あいつも実戦経験からして四等級……もうちっとで三等級になるかなって感じっすね。ゴヲパレの光希君は二尾で三等級だったけど、ドラマの中でも大分闘い慣れていた感じだったし」
「やっぱり幕末の侍だったお方がお姉さんですし、幼いころから武芸の手ほどきを受けていたのかもって僕は思ったんだ。七インチ(約十七.八センチ)のナイフを武器として使ってましたし」
やっぱり兄姉が弟妹に何かを教えたり継承させる事って良いよなぁ。穂村がしんみりと思っていると、開成も頷きつつ口を開く。
「うんうん。呪術師の一人だった女カマイタチと闘った時も、ナイフをメインウェポンとして使ってたよね。だけどさ、毛針千本って言う技も俺は興味深かったかな。まぁあれは、光希君の得意技というよりも、獣妖怪が扱える技って事だったけれど。
あの飛ばした毛針を避雷針代わりにして相手に雷撃をぶつけたりするのが、何と言うか頭脳戦っぽいなぁって思いました」
「……ペガサスも兄さんも、親戚の
やっぱり、同じ種族だったとしても個性とか得意・不得意は違うから、得意分野で頑張っていくのが大事なんだなぁと思いました」
果たして自分はそれが出来ているのだろうか。コメントを眺めながら穂村は思った。雪羽や六花の事を必要以上に称揚するのは、おのれが雷獣としての能力に恵まれなかった事の綺麗な裏返しなのではないか。そんな考えが脳裏をかすめる時がままあったのだ。
「まぁ結局は光希君も女カマイタチを噛み殺すしかなかったんだよね。あの二人の闘いの間のやり取り、言葉と言葉の殴り合いも中々凄かったから、そろそろその辺りの話をしようよ」
少しばかり物思いにふけっていた穂村は、開成の呼びかけで我に返った。マイペースで唐突なボケに困惑する事もあったが、中々どうして絶妙なタイミングでの声掛けではないか。
「そうだねペガサス。もちろん呪術師サイドの主張も個人的にはグッサリと来た訳だから、その辺りももちろん解説するよ。だけどまずは、件の呪術師が何を企んでいたのか、その発端になる事件から順を追って説明していくよ」
「発端になる事件って、確か秋祭りで竜胆君が攫われかけた事件だっけ」
ここでまたしても画面が切り替わる。三尾の化け狸の女――ちなみに彼女は二等級相当らしい――が、静かに手を引いて稲尾家の妖狐・稲尾竜胆を連れ去ろうとするワンシーンである。
ちなみにこの時化け狸は「稲尾の男児を使えば稲尾家の血筋を引く者を量産できる」という旨の供述をまず行っていた。血筋ゆえに狙われ、時に拉致される恐れがある事は穂村も痛いほど解っている。だからこそおののいたのだ。
「――簡単に子孫を作ってって所が結構怖かったですね。結局のところ、新たに生まれた仔を何に使うかまでは明言されませんでしたが、呪術師の所で生まれるという事を考えれば碌な事にならなさそうですし」
『トリニキ:そりゃあ赤ん坊の頃から洗脳して優秀な手駒として育て上げるんでしょ』
『オカルト博士:しかも母親が呪術師だから、そう言う意味でも成功率が高そう』
『だいてんぐ:※雉鶏精一派でもやってました』
『燈籠真王:初手から物騒なやり取りだな』
『しろいきゅうび:昔影法師に子供を奪われた事もあったからの……』
『きゅうび:やっぱり九尾の子孫って狙われやすいんだ。とづまりしとこ』
『月白五尾:しかもこっちの妖怪は成長速度が速いから尚更よね』
「そういえば、月白五尾さんの所のお子さんも、人間で言えば五歳くらいの子供に育っているらしいですね。ユッキー☆さんたちから話は聞きました」
「マジで! 月白五尾さんの所の息子さんって、こないだ生まれたばっかりでしょ。それでもう五歳児ぐらいって……凄いなぁ」
幽世、というよりも椿姫たちがいた世界の妖怪たちの成長速度の速さに、開成は驚きの声を上げていた。穂村たちが桜花に出会った時、たしか彼は人間で言えば二、三歳児ほどだったと思う。だがそこから二か月ほどで五歳児ほどに育ったとは。開成のみならず穂村も多少なりとも驚いていた。
ちなみにこちらの現世では、純血の妖怪であれば五歳児ほどに育つまでには十年ほどかかる。長命である為に、乳幼児である期間も人間や他の動物よりも長いのだ。もちろん、後天的に妖怪化した者は歳の取り方は異なるが。
魍魎のいる世界では、外敵からの脅威ゆえに幼少期が短く、ある程度まで育つと今度は成長や老化が恐ろしいほどに鈍化するのだという。
「そうなると、尚更トリニキさんが仰ってた手駒として利用する説も濃厚になりますよね」
「本当だよね兄さん。後々になってから、呪術師たちも決意ガンギマリだって事が判っちゃったしさ」
「それでは引き続き、敵対した呪術師の事について説明しようと思います」
ここからが折り返し地点であろうか。そんな事を思いながら、穂村は深く息を吐いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます