七年前の某日(2)
彰はゆっくりと小太刀を鞘に戻す。
「彰、終ったか?」
ちょうど区切りがいいところで、彰の父、
「うん、今終わった」
彰は振り返り、嵐が追いつくのを待つ。
嵐はすぐに彰の下にやってきた。
「彰も一人で
普段は厳しい嵐の目も、このときは珍しく子の成長を喜び、優しいものだった。
「それはそうだよ。だって、もう何年も父さんと一緒に怪異の討伐に出かけているんだから」
「ああ、そうだったな。ただ、まだまだ時間がかかりすぎだ。今日だって、夜が明けてしまうところだったぞ」
「いや、だって、こいつすごく、すばしっこかったし」
「言い訳もいいが、まずはもっと精進しなさい」
「……、わかった」
せっかく褒めてもらえそうだったのに、最後は説教じみたものとなったので、彰は少し頬を膨らました。
しかし、そんな彰に嵐は一瞥もくれず、
「さあ、もう夜明けだ。こいつも時期に消えるだろう。帰るぞ」
そう言って、校門の方へと歩き出す。
「うん……」
少しして、彰も嵐の後を追おうとした。
しかし、歩を進めた瞬間、猫の鳴き声が彰を引き留めた。
「え……」
野良猫だろうか、そう思いながら、彰は周囲を見回す。だが、肝心の猫の姿は見つからない。
「気のせいかな……」
そう思って、再び歩き出そうとすると、同じ鳴き声が彰を呼び止めた。
改めて、辺りをきょろきょろと見回す。すると、猫が隠れられそうな茂みを見つけた。彰は、ゆっくりと茂みに近づく。そして、耳を澄ましてみると、案の定、中から先ほどの鳴き声が聞こえてきた。
「なんだ、ここにいたのか……」
猫の居場所が分かり、気になっていたことも解決したので、彰は今度こそ帰ろうとした。
しかし、ちょうどその時、茂みの中から鳴き声の主が姿を現す。
「えっ?」
彰は猫の姿を見て目を疑った。
その猫は腹部が焼け爛れていた。火にあぶられたというわけではなく、強い酸性の液体をぶちまけられたような……
そこで彰ははっとする。
おそらくこの猫は先ほどの
猫はかなり衰弱していた。このままでは死んでしまうだろう。
彰は助けを呼ぼうとしたが、すぐに考えを改める。
こんな明け方近い時間に人がいるわけがない。それに、動物病院もこの時間はまだしまっている。
「僕がやるしかないのか……?」
彰は弱っている猫をじっと見つめる。一瞬だけ猫と目があった。人間が動物の言葉を理解することなんてできるはずがないが、このときばかりは、彰はこの猫が何を言っているのか理解できた気がした。助けてくれ、と、そう猫は訴えかけている。
彰はふう、と息をつくと覚悟を決めた。ゆっくりと猫の側に腰を下ろす。
猫は彰が側にきても逃げたり、怯えたりするそぶりを見せなかった。いや、もはやそんな体力すら残っていないのだろう。
彰は静かに目を閉じる。
小さいときに父から聞いたことがある。自分たちの一族が使う魔導は邪を浄化するものだと。自分たちはその力を使って、先ほどの
そうだとすれば、この猫の傷も土蜘蛛にやられたものだから、自分の使う魔導で浄化することができるかもしれない。
彰は猫の腹部に両手をかざす。
そして、
「――【
その詞を口にした。
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