天才魔導師の助手(アシスタント) ~大切なきみとの37日~
小熊ネコ
七年前の某日(1)
「待てっっ」
一人の少年がそう叫びながら夜の校舎を駆け巡る。
少年の十数メートル先には蜘蛛のような形をした生物が一匹。
蜘蛛のような、と形容したのは、その体躯が胴体だけで二メートル、足の長さも含めると約六メートル近くもあるからだ。
昆虫とは異なる八つ足を有し、その全身は体毛で覆われている。一般的なサイズでも十分に人の嫌悪感をあおるものだが、その巨体も相まって、そいつはさらに人の生理的な拒否反応を誘っていた。
「
少年の名前を呼ぶ声が彼の後方から聞こえてきた。
「あー、もう、わかっているってば」
タイムリミットが迫っていることに焦っているのか、彰は若干イラつきながらそう答えた。手元の小太刀を強く握る。その小太刀の刃体は、彰の魔導によって、漆黒の粒子で覆われていた。
体の文様が紫と黒のまだらであるため、闇夜に紛れやすいのだが、その両の目が人の血よりも鮮明な赤色であるため、見失うことはない。
走っている最中、彰は目の前にプレハブ倉庫とそれの倍近い高さの樹木があるのを見つける。プレハブ倉庫は校舎の壁に沿うように設置され、道を挟んで対局にある樹木との距離は二メートルほどか。
彰はさらに加速する。彼と
次の瞬間、彰はプレハブ倉庫の目前で強く地面を蹴った。さらに、プレハブ倉庫の側面を蹴り、今度は樹木へ。最後には、手近な太い枝を強く揺らして、
突然、追跡者が自身に肉薄してきたことに対し、
「っっ」
彰は、携えていた小太刀を勢いよく振り下ろす。
体毛に覆われたかぎ爪が宙を舞う。
「○×●◆□※※▼▲▼●~~~~~」
直後、
耳が割れるような奇声に全身が襲われながら、彰は地面へと着地する。
闇夜でも怪しく輝く赤目が彰をまっすぐに射貫く。それだけで常人であればすくみ上ってしまうだろう。
「ふん、ようやく落ちやがったか」
しかし、彰はそんな相手方の威圧に物怖じすることはなく、小太刀を逆手に持ち中段に構え直しながら、そう吐き捨てた。
互いに睨み合う一人と一匹。
生暖かい夜風が両者をなでる。
先に動いたのは、一匹の方だった。
「うわっ」
とっさに後方へジャンプすることで、その何かを躱した。
蜘蛛が吐き出すものといえば糸が思い浮かばれるが、それは気味の悪い紫色の液体だった。それに付近の草が一瞬で腐敗している。
「毒か……」
彰が目線を戻すと、また
「っっ」
彰は地面を蹴る。次で決める、と言うがごとく、その小太刀を強く握りしめながら。
直後、
しかし、彰はそれらの弾道を見極め、左右に跳ねることで回避する。着地地点の草木がドロドロに腐っていく。
十数メートルの距離はすぐに縮まった。
迫りくる前足を左に跳ぶことで彰は回避する。そしてすぐに、その前足を小太刀で切り付けた。
再び鳴り響く喚声。同時にバランスを崩した土蜘蛛は、その胴体を地につけた。
「これで、終わりだっ」
彰は
そして、その眉間に小太刀を突き立てた。
「○×●◆□※※▼▲▼●~~~~~」
これまでとは比較にならない喚声を
小太刀から
「○×●◆□※※▼▲▼●~~~~~」
刺創部から
最終的には、
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