ユメカイの森

5 現場レポート

　はい、こちら現場です。

　はい？

　音声入ってます？

　入ってる？入ってる？

　えー、スタジオさん、よろしいですか？

　はい？はい、えーはい。

　はいそれでは、現場からお伝えします。

　こちら昨日から少年が行方不明になっているテング山キャンプ場です。

　ご覧の通り、規制線が張られておりまして、我々はこれ以上中に入ることができません。

　見えますでしょうか。右手にキャンプ場のサイトが並んだその先、緩やかな山道の先にやや大きい桜の木があります。

　妹さんを追いかけて木立の中に入っていく少年の後ろ姿を、お母さまが最後に目撃したのがあの辺りです。

　こちらの場所は東京の奥多摩。都心から車で２時間ほどの距離で、山と川に挟まれた、手軽に自然を楽しめる人気のキャンプスポットです。

　昨日も好天に恵まれ、多くの家族連れなどで賑わっていたということです。

　行方不明になっている少年の写真がこちらです。ご両親からお借りしました。

　少年の名前はユメノ カイトくん。

　１１歳。ヒカリ小学校の５年生です。

　カイトくんはお父さん、お母さん、妹さんと共に、昨日のお昼１１時頃、このキャンプ場に訪れ、そのわずか３０分後に姿が見えなくなりました。

　昨日はお父さまの１１０番通報により、警察による捜索が行われましたが発見できず、日没により捜索は午後７時前に打ち切られています。

　今朝は午前６時から警察官、地元の消防団など１００人体制で捜索を始めていますが、今のところ少年発見に至っておりません。

　発生から丸１日以上が経過していますが、依然としてカイトくんの行方がわかっておらず、遺留品なども発見されていません。

　カイトくんが最後に立ち入ったと思われる木立の中には、小川が流れていますが、水量は決して多くありません。

　足のくるぶしぐらいまでしか水がありませんので、川での事故というのは考えづらいと思われます。

　また、ご両親の話によると、カイトくんは慎重で怖がりな性格なので、見知らぬ人についていくようなことは、絶対にないだろうとのことです。

　行方不明となった時間には多数の家族連れなど、多くの人目があった状況から、第三者による誘拐や拉致等は考えづらいのではないかとの声を、私も取材の中で数多く聞きました。

　カイトくんは本当に一瞬の間に、忽然と煙のように消えてしまったのです。

　カイトくん、無事でいますでしょうか。ご両親や妹さん、そして多くの人々があなたの無事を祈っています。

　いま辛い状況にいるかもしれません。しかし、決して諦めず救助の手が届くまで、あともう少し、どうかがんばってくださいね。

　えー、昨日この辺りの最高気温は２８度まで上がったということですが、夜間はさすがに山間部ということで、１３度ぐらいまで気温が下がったようです。

　また低気圧が近づいており、今夜からは雨の予報となっています。

　カイトくん失踪時の服装は、半袖Ｔシャツ１枚に下はハーフパンツという軽装ですから、体力の方が非常に心配です。一刻も早い救助を願っています。

　カイトくん、本当に本当にがんばってください。

　それとこれは未確認の情報で、お伝えすべきかどうか迷ったのですが。

　最後まで一緒にいたと思われる妹さんが、カイトくんは「テングさんに連れていかれた」と泣きながら話したとのことです。

　５歳のお子さんの証言で、その信憑性に関し、我々も慎重に取り扱う必要があることは、重々承知しています。

　しかしキャンプ場があるこの辺りの場所は、古くは山岳信仰の修験場に近く、神隠しや様々な伝説が残る地域だということです。

　そして３年前にもこのキャンプ場で、８歳の女の子が行方不明になったまま、未だ発見されていない未解決事件も起きています。

　地域に伝わる伝説と過去の事件、そして少女の証言を、簡単に結びつけるのは危険だとは思います。荒唐無稽な話に仕立て上げるつもりもありません。

　しかし、行方不明の手がかりが何も見出だせない現状では、謎が一層深まるばかりです。

　昨日このキャンプ場近辺にいらっしゃた方々、もしくはこのテレビをご覧の方々で、何か少しでも思い当たることがございましたら、警察もしくはご覧のテレビ局までご連絡をください。

　電話番号はいま画面に出ています。そうです、こちらです。

　どうかこの番号までご連絡をお待ちしています。

　どんな些細なことでも構いません。皆さんからの情報をお待ちしています。

　最後にカイトくんの写真をもう一度ご覧ください。

　ユメノ カイトくん。１１歳。

　身長１４５センチ、体重は３７キロ。

　小学五年生の男の子としては平均的な体格だと思われます。

　失踪時の服装は、黄色の半袖Ｔシャツにカーキ色のハーフパンツ。

　右の目尻に小さなホクロがあります。

　皆さんからの情報をお待ちしています。

　えー現場からは以上です。

　スタジオさん、お返しします。