第40話
「いや、自分で食べられるって」
「いやいや。病人は食べさせてもらうのがデフォでしょ?」
「そんな仕様聞いたこと無いぞ」
「ウチの中ではそうなんだから、つべこべ言わないで食べさせられるの」
病人だからってそこまでしてもらうことはないのだが、どういうスイッチが入ったのか分からないけど余計なほどの世話焼きになっている千春。
「わかったよ……」
「はい。あーん」
「……あーん」
また熱が上がりそう……。
食後に飲んだ薬が効いてきたのか眠くなってきた。
「ごめん、寝るよ」
「どうぞ。ウチはあっちにいるからなにかあれば呼んでね」
「さんきゅ、おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
次に起きたときは熱が下がっているといいな。
目が覚めた。
寝る前までに感じていた強烈な怠さは感じない。心なしか身体も軽い。
「でもなんだコレ。汗だくじゃないか……。気持ち悪い」
寝ている間に汗をたくさんかいたお陰で熱が下がったのだろう。絞れば滴るんじゃないかと思うほどシャツがびしゃびしゃだ。
(これは拭いてどうなるもんじゃないな。シャワー浴びたい……)
「おーい。もう7時だぞって、起きたの? どう、体の調子は?」
「おかげさまでだいぶ良くなっている感じがする。ほら、立ち上がれるし」
「ちょっとぉ~無理しないでよ」
「おっけ。ちょっと汗かいたからシャワー浴びてくるよ」
「ん。じゃあシーツ替えておくね」
「ありがとう、助かるよ」
「いえいえ。お互い様だし、夫婦は協力しあわなきゃだからねー」
「夫婦も……いいもんだな」
「ん? なにか言った?」
「いや。体温計の計測終わったみたいだ」
「熱は37度3分だね。まだ少し高いね」
「医学的には37度5分以上が発熱だって聞いたことあるから、それならもう平熱だな。治った!」
「そんなわけないでしょ。薬で熱が下がっているだけだろうから、まだちゃんと休んでいなきゃ駄目だよ」
「へーい」
喉がやや痛いだけで、くしゃみ鼻水鼻詰まりみたいな風邪の諸症状は出ていないから、ほぼ治ったと言ってもいいと思うんだけどなぁ。
「そっかー、まだ熱が残っていると思って温まる食事を用意しちゃったんだけど、逆に暑いかもしれないね」
「今夜のご飯? 何を用意したんだ」
千春が用意してくれたのは豆乳生姜鍋。風邪にいいって言う食材を一度に摂れる料理として体も温まる鍋にしたんだって。
「真夏に鍋はいくらなんでもしくじったかなぁ~」
「そんなことないだろ。『夏は熱いものが腹の薬』っていうじゃないか。夏風邪引いている俺にはちょうどいいよ」
「ほんと? ならすぐ用意するね」
「とは言ったもののもう一度はシャワー浴びないといけないかもな」
「はい、タオル」
「さんきゅ。マジ汗だらだらになったな」
「ウチももう背中までびしょびしょだよ。それにしても、喉痛いだろうに辛味まで足しちゃって大丈夫なの?」
「いやいや、ラー油入れてみ。かなり美味いから。絶対に合っているよ」
「ふふ。結月に食欲が戻ってよかったよ~」
看病してくれた千春のお陰だけどな。俺一人だったらこうまで回復はしていなかったかもしれない。
「ありがとうな」
「どういたしまして~。でもウチは大したこともしてませんよ―」
「そういえば、柳井の試合はどうなったって聞いたのか?」
「……うん。接戦だったけど負けちゃったって」
「そっか。残念だったな」
3年生はこれで引退だろうけど俺等はまだ2年生だからな。もう一回はチャレンジできる。来年またがんばって貰えばいいじゃないかな。
「しょうがないよね。多分今頃優希ちゃんと残念会をやっていると思うよ。鍋は囲んでいないだろうけど」
「日中の気温が35度超えている日に鍋パするのはうちぐらいしかないんじゃないか?」
「は⁉ バカにしてるの」
「してないって。してたら完食なんてしないからな?」
もとよりそんなに量は多くなかったけど、二人で完食してしまった。ご飯もおかわりしたくらいだ。朝はバナナ半分が限度だったなんて信じられないな。
「アンタももう元気なら、洗い物よろしくね。ウチはもうシャワー浴びてくる。このベタベタは我慢出来ないよー」
「うぃ~、洗ったら俺もシャワーするから早く出てくれよ」
「じゃぁ、アンタも一緒に入る?」
「入るか、ボケ」
んなことしたらまた発熱するだろ?
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