第34話
「結月って三者面談は誰が来るの?」
「姉ちゃんしかいないけど」
本当に一部の親戚を除いて親類とは両親の葬式のあと縁を切ったからな。
「お姉さん帰ってくるの?」
「まあ、有給休暇取って帰ってくるな。帰ると言っても実家はもうないから近くのビジホにでも泊まることになるだろうけど」
「ウチも会いたいな。そして、ビジホに行くくらいならこの家に泊まってもらいたいです」
それは姉ちゃん次第だけど、千春にあまり会わせたくないな。気乗りしない。
うちの姉ちゃんものんびりした雰囲気のくせに俺と真逆の陽キャの人。ネガティブ全開になりそうなシチュエーションでも陰気を跳ね飛ばして何気なくガンガン前に進んでいく様なやつだからな。
ある意味千春の気質に似ているとも言える。二人が会ったら相乗効果でかなり陽気なキャッキャウフフ空間が生まれるだろう。
そして、むやみに弄られるのが俺というわけ。
「ウチの家族にも会わせているんだからアンタは家族にウチを会わせないってことはないよね? ないよね?」
三者面談は3日間行われ、俺は初日で千春は最終日。出席番号順なのでこうなった。
「で、なんで帰らないんだ?」
「だってお姉さん、来るんでしょ?」
「うちに泊まりに来るのは確定なんだから、家で待ってりゃいいだろ」
「そんなの待っていられないしー」
三者面談中は午前中授業なので用事のない千春は帰っても問題ない。
早く会っても遅く会っても何も変わりはしないのにな。ただの俺の姉ちゃんだぞ? 会っても何も面白くないと思うのだが、違うのだろうか。
姉ちゃんは朝一東京を発って、昼前辺りにこっちに着いたらまずはめれんげに寄ってくるって言っていた。
マスターには世話になっているし、こっちでの保護者的な立場にもなるのでいの一番に挨拶して当然だよな。本音としては詩音と久々に会いたいってことなのかもしれないけれど。
「アンタも一人で待っているの嫌でしょ?」
「……まぁ、暇だよな」
「なら、いいじゃない?」
「誰もだめだって言ってはいないし……」
俺の順番はたぶん3時間後くらい。一度帰宅してもいいんだけど、一度帰ってまた戻ってくるのが面倒なので帰らないつもりでいる。
千春はそれを知っているので、気を利かせて一緒にいてくれようとしているんだよな。
「あと一週間で夏休みだよねー」
「あっという間だな」
「アンタは夏休みの計画ってなにかあるの?」
「これまでと一緒の週2~3回バイトに入るくらい。朝一から入るからそこが違うくらいか?」
「ふーん。つまんないわね」
つまらんとか言われても、シフト的にそうなっているだけだし。
「お前は実家に帰るんだろ?」
「んー。どーしよっかなぁ~って思ってる」
「なんで? お父さんなんか娘が帰ってきたら大喜びだろ?」
なんとなくだけど、千春のお父さんって千春のことを溺愛しているって感じなんだよな。世の父親はみんな同じかもしれないけどさ。
「だって、ウチがいない間、アンタの食生活が無茶苦茶になりそうなんだもん」
「…………ま、まぁ否定は出来ないかもな」
「でしょ? 毎日通うのもいいけど、それなら逆に土日だけ実家に帰れば済むのかなって思って」
お父さんがお休みの日だけ実家に帰宅するってことね。まあ平日は夜しか会わないことになるからな。
「お盆の時期も帰っていていいぞ」
「どーして?」
「俺は墓参りしたあと仏壇に線香あげに姉ちゃんのところ行くから」
両親の眠る墓所自体はこっちの土地にあるのだけど、仏壇と位牌は姉ちゃんが持って行っているので東京にある。
「俺一人で墓参りして、両親を迎えに行くんだけどその足で新幹線に乗って東京まで行く予定なんだ」
「お迎え提灯をずっと持っていくの?」
「去年はLEDランプの蝋燭をバッグに忍ばせてだな……」
「お盆の情緒があるんだか無いんだか」
そこはもう父母たちにも目を瞑ってもらうということで。
「あ、そうだ。ウチも東京に行くよ。旦那様の里帰りなんだから一緒に行くのが当たり前でしょ?」
「どちらかというとこっちが里なんだけど?」
「細かいことはいいよっ。後でお姉さんに相談しないとね!」
お前、ただ単に東京へ行きたいだけじゃないのか?
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