第33話
「あ、そうだ。詩音に聞いてみよう。あいつなにげに食べ歩きとか大好きだからイタメシ屋の一つや二つぐらい知っているだろう」
「詩音さんてアンタのお姉さんの幼馴染の?」
「そ。姉ちゃんの幼馴染だけど俺とも生まれたときからの知り合いだからな。あれも一種の姉ちゃんみたいなもんだし」
一人暮らしを始めた直後は、詩音とマスターと奏ママにものすごく世話になったから、俺としても殆ど家族みたいに思っている。だから、お礼じゃないけどできるだけめれんげには貢献したいと思っているんだ。
「えっと『お祝いを千春としたいと思っているんだけど、いい感じのイタリアンレストランって知らないか?』っと。送信」
もう既読が付いた。時間的に店も閉店した後だからのんびりでもしていたんだろう。
『二人でのお祝い事なら、小さい店だけど駅挟んでうちの店の反対側、駅西口から300メートルくらい行った先にレストランテ ラ・ルーナってとこがおすすめかな』
ラ・ルーナ、ね。スマホのマップで評判を確認してみる。
「お、田舎のイタリアンにしては評判がいいぞ。写真も出ているけど、美味そうだ」
「どれどれ。おお、本当だ。ウチはイタリアンなんてピザとスパゲティくらいしか作れないからそっちにも興味ある〜」
「じゃ、次の土曜の夜にでも予約しておこう」
「やたっ! お祝いだー」
土曜の午後は夕方までバイトがあったので、電車で来る千春とは駅で待ち合わせにした。
「おまたせ。ごめん、待たせたかな?」
「大丈夫だよー、ウチもついさっき着いたばかりだもん」
「そっか。じゃ、行ってみますか?」
「おうっ、れっつごー」
目的の店はとても分かりにくい場所にあった。通りから路地を通って入っていく感じ。事前に地図で調べてないと迷いそう。
「隠れ家的な感じで雰囲気いいね」
「だな。詩音にはお礼を言っておいたよ」
「メッセージでもお礼言って、顔を合わせてもお礼を言って。アンタのそういうところ尊敬しちゃうよ」
「そうかな? まあ親の教育の賜物みたいな」
木製の可愛らしいドアを開けるとそこはイタリアだった。行ったことないけど。
民族音楽みたいなマンドリンの調べがうるさくない良い感じで流れていて、なんとなく牧歌的で落ち着いた雰囲気がとても心地良い。
「いらっしゃいませ」
「予約した相馬です」
「お待ちしていました。詩音ちゃんの弟分さんね。歓迎しますよ」
如何にもイタリア食堂の女将みたいな人に案内されて席につく。
「結月って詩音さんの弟分だったんだねー」
「いつの間にかそうなってたんだな。まあ似たようなもんだから否定はしないけどね」
ここのお店の息子が詩音と高校の同級生だったそうだ。ならうちの姉ちゃんも知っているかと思って聞いたけど女将さんは知らなかった。
息子さんは修行でいまイタリアに行っているんだって。本格的だよね。
料理が出てくるまで千春と雑談。
「結婚シミュレーションが一月って言うけど、俺ら結婚生活っぽいことなにかしていたっけ?」
「全くこれっぽっちもいちゃついていないしね」
俺は恋愛に否定的だったし、千春は柳井という想い人がいるわけでいちゃつくような要素は全く無いもんな。当たり前かも。
「同居とか同棲っていうよりも、ルームシェアのルームメイトって感じだよね」
「同居人とルームメイトは同義語だけどな」
「そーゆーことじゃなくてーっ」
「わかってるて。揶揄っただけだよ」
こういうところが夫婦って感じではなく、友だちっていう感覚になる要因だろうな。
「おまたせしました。5種のアンティパストです。おふたりほんと仲良しさんですね」
「え? そう見えます?」
「はい。とても仲睦まじく見えますよ」
「あはは……。だってさ、結月」
「仲は……悪くはないからな。そう見えることもなくもないだろうって」
「照れるな、照れるな」
「うっさい」
この一月、喧嘩もなかったし言い争いになりそうなときでも、冗談にして茶化したり、笑いに変えたりしてお互いに譲歩しながらうまくやって来れた。
やっぱりそれなりに相性はいいのは間違いなさそう。
AIも侮れないな。
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