第28話

「あんなにも女には興味がないみたいなこと言っておいて、遊びに行くのに奥さん連れてくるとはオンナが変われば変わるものだね」


「ウルサイ、えれな。黙っておけ。俺が連れてきたんじゃなくて、こいつが付いてきたの! そこ大事だからっ」


「あたしのことは振っておいて、振った女の前に懇ろな披露をしてくるとはいい度胸だよね」


「だからっ! ゆっこもわかってて言ってんだろ? あと振ってないし、懇ろでもないしっ」


「結月酷い。昔の女と今の女、浮気の女と三つ巴にして何が楽しいのっ」


「意味わかんないノリで意味不明なこと言うんじゃない。千春は特に黙っておけ」





 会って5分も経たないうちに俺のライフはほぼゼロだよ。


 友達同士の軽いノリと言ってしまえばそれまでだけど、出会って秒で打ち解けているなんて千春のコミュ力にはお手上げだよ。


「まーまー。ゆづを揶揄うのはこの辺してカラオケに行こうよ」


「だね。ゆっきーはうちのお店のマスコットだからいくらでも後で弄れるし、まずは部屋を確保しよう」


 俺いつから店のマスコットになったんだ? 聞いていないぞ⁉


「凛さんと貴子さんがゆづ人形作っているって話だけど?」


 あの二人のマダムは趣味でハンドメイド作家やっていてぬいぐるみとか作るのが得意なんだよな。えっ、俺、ぬいぐるみ化しているの?


「沙苗さんもゆっきーを主人公にしたBL漫画をツレッターに描いているとかなんとか?」


 俺の肖像権が裏で自由に取引されている気がしてならない。


「良かったね。アンタ、みんなに愛されているみたいじゃーん」


 おもちゃにされているの間違いじゃないですかね?





 6人部屋が丁度空いていたので少し余裕のある部屋に入れた。女の子の香りがすごいのでさすがの俺でもきゅうきゅうな部屋は身が持ちそうもなかったからな。


 女3人よれば姦しいとは良く言ったもので、さっきからこの3人は旧知の仲のように煩いくらいお喋りが止まらない。


「ねぇねぇ、ゆっこさん。お店では結月ってどんな感じなんですか?」


「誰とも馴れ合わないぜっ、みたいな雰囲気醸し出しているくせに妙に優しかったり親切だったりで、年下なのにみんなが頼りにしているよー」


「美菜代さんなんか、『後4つ、せめて3つ若かったら結月に行っていた』って言うくらいモテモテだよね」


「やーやっぱハーレムじゃん! 結月の嘘つき! こっそりハーレム楽しんでいるんじゃないのー」


 俺はもうこいつらがテキトーに内容のない話で俺をダシに遊んでいることを認識している。なのでいちいち反応しないし、気にもしない。


「さーてなにを歌うかな? 最近の歌は知らないからちょっと古いのになるのはご愛嬌ってね」


 2~3曲歌えばあとはこいつらが勝手に盛り上がるだろうと踏んでいる。全面的に相手にしていたら疲労しか残らなそう。



 案の定、呼び水で歌った俺の後に続けとゆっこ、えれな、千春と競い合うようにポップなメロディーが流れ続ける。


 延長を2回繰り返して、「もう延長はできません」とお店の人に言われるまで歌いまくった。もちろん女性陣がね。


「お腹すいたー。ゆっきー、もうボーリングはいいよね。カフェもこのお腹には物足りない気がしてきたよ~」


 4時間も歌えばボーリングなんてもう要らないだろう。俺も結局は予定よりも歌わされたので腹は減っている。


「おお! この近くに焼肉屋があるよ。クーポンもあるからちょっとだけだけど安くなるよ」


 えれながスマホを見ているかと思ったらそんなことを言い出した。


「ゆっこさん、えれなさん。ここは行くしかないでしょう?」


「「だねっ」」


 女の子だけで焼肉屋に行くのは抵抗があったようで(何故に?)、ここに男がいるので躊躇なく焼肉屋に突撃できるという話になった。


「そういえば結月。焼肉屋に一緒に聞く男女は深い仲なんていうじゃなーい?」

「そうなの? 俺は知らないけど」


「あたし、ゆっきーとなら深い仲でぜんぜんオッケーなんだけどー」

「あーずるい。私だってゆづと深い仲になりたい~」


「ダメダメダメ! 結月はウチの旦那様だからあげないですっ」

「「キャー‼ 奥様ぁ~お許しを~」」


 店の前で変な茶番は止めていただきたく。

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