第29話

「楽しかったぁ~ 部活とかしてないから年上と知り合う機会ってなかったんだよね」


 千春はゆっことえれなとLIMEのIDを交換して友だちになっていた。陽キャってすごい。あっという間に友だちだもんな。


「それは良かったけど、お前、明日大丈夫なのか?」


「大丈夫。ちゃんと起きられるし」


「いや、それは大丈夫だろうけど焼肉食って今も多分だいぶ臭いと思うんだけど……」


 焼肉の油煙にたっぷり入ったすりおろしにんにくのガツンとくる臭い。


「え? そんなに臭うかな? アンタの臭いもそんなに気になんないんだけど」


「そりゃそうだろ。二人して同じ臭いしているんだもの。わかるわけ無いじゃん」


 俺は明日のバイトがないので、家で来月上旬にある期末テストの勉強でもしようと思っていたので無問題なのだが。


「えっ、えっ、ええええ? ほんとうに? ウチ、臭い?」


 にんにくに拠る口臭自体は3時間ほどで消えるっていうから寝ているうちに消えるだろうけど、体内で吸収されたにんにくの成分の臭いは48時間ほど体内に留まるって聞いたことがある。

 マスターがペペロンチーノをまかないで作ってくれたときに聞いた話だ。


「はっきりとは言えないけど、明日はかすかにでもニンニク臭はする可能性が否定できないかもな」


「ええーっ、どうしよう~」


 汗をいっぱいかくと臭いが薄れるからサウナとか入浴、運動が良いって話も聞いたことがある。


「もう12時近いしな。サウナはないし、運動は近所迷惑だから風呂に入るのがベターかもな。水もいっぱい飲めとここのサイトには書いてあるよ」


「でも明日は暑いって言うし、体育館だし、一人だけ離れて応援するのも変だし……」


 汗をかいて臭ったら嫌だってことだよな。でもしかたなくない?


「明日は8時だっけ。つーことは後8時間。飯食っていたのが1時間ちょっと前ぐらいだし、多く見積もっても10時間くらいしか経っていないことになるな」


「マジ困るんですけどー」


「今夜と明朝も風呂入って、ちょっと濃いめのコロンでも振っておけばバレないんじゃないのか?」


「もうっ、他人事だと思ってテキトーなこと言わないでよー」


 一応まともなこと言っているつもりなんだけどな。多分だけど、臭いはゼロじゃないにしろそこまで酷いことにならないと思うんだ。


「応援に行かないって選択肢はないんだろ? だったら試してみるしかないじゃん」

「……だよね。調べてくれてありがと。お風呂入ってくる」


 ガックリと肩を落として風呂場に向かう千春を見送る。まあ、自業自得だし、さっきまで相当はしゃいでいたんだから諦めるしかないよね。



『帰宅ったー』

『帰宅ったー』


 続けざまにゆっことえれなから帰宅の報告をもらう。夜も遅かったので帰宅したらスタンプ一個でいいから連絡がほしいと言っておいたので送ってくれたようだ。


「ふたりとも今日はありがとう! すごく楽しめたよ。千春も喜んでいたようだし、今後もなにかあったら誘ってもらいたな……と千春が申しております。今夜はほんとありがとうね」


 二人にメッセージを飛ばし、お休みスタンプをお返しに貰う。


「さて……。暇だな。腕立て伏せでもしていようか」


 風呂も入らずに臭いままベッドに横になる勇気はないのでリビングに居るわけだが、テレビも見る気がしないし、千春もそうそう早く風呂を上がるとは思えない。


 筋トレは日課とまでは言えないけど、そこそこの頻度で行っている習慣だ。

 いつもなら自室でするんだけど、臭いをベッドどころか部屋に持ち込むのも憚れるので(何しろ俺の部屋には窓がない!)、リビングの隅でトレーニングすることにした。



「……99……100。ふう、疲れた」


 腕立て伏せ、腹筋運動、スクワット各種を騒がしくないようにゆっくりとした動作で100回ずつやって一休み。息が上がるし汗もかいた。


「たぶん今、俺はすごく臭いんだろうな……。窓開けて換気しておこう」


 いつもなら千春の入浴時間は30分ほど。

 だけど、今日はまだ出てこない。予想は当たったみたいだな。


(汗をかけばいいなんて言わなければよかったかも……?)


「もう眠いんですけどー」

 これは俺が風呂に入れるのは深夜1時すぎかもな……。やれやれだぜ。

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