第7話

「だれ? ねぇ、だれよ?」

「なんだよ、引っ張るなよ。袖が伸びるだろ?」


 杜崎が俺のシャツの袖をグイグイと引っ張って、ついでに耳元でこっそりと優希が誰なのか聞いてくる。ちょっと近いよ。何気ない良い香りが漂ってくるから近づくな!


「いいからっ、だれこの可愛い子は?」


「こいつは俺の幼馴染の松末優希まつすえゆきって子。彼女は幼稚園の頃から小中高とずっと俺と同じの腐れ縁みたいなやつだよ」


 今は違うが、以前は自宅も歩いて数分という近所だった。優希が子供の頃は男勝りなお転婆でよく二人で野山を駆けずり回ったものだった。


「じゃ、あれだ。子供の頃はお風呂に一緒に入っていたとか、大きくなったらソーマのお嫁さんになるのーとかやったやつだね」


「風呂は確かに小学校の低学年くらいまでは入っていたような気がするな。お嫁さん云々はないんじゃないか。あいつまるで男子みたいだったし」


 それが今や優希は杜崎とはまったく違う系統の、黒髪清楚なお嬢様といった様相になっている。ちょっと丸顔なのも目がクリクリしているのもとても可愛らしい。

 男子顔負けに活発だったのは小学生までで、中学生以降はどんどん女の子らしくなっていって、中三のときなどは文化祭でのミスコンで一位を取るくらいになっていた。


「ゆっくん。マッチング、残念だったね」


「そうだな。優希とだったら良かったのにな」


 実は俺が心のなかで思い浮かべていた相手は優希だった。


「えっ! あっ、その……それって」


「優希とだったら気心知れているし、無駄に緊張したり、無理したりもなさそうだろ? うちの事情も知っているしな」


 優希とはただの幼馴染というよりも家族のように近しい関係と認識している。それ故に面倒な学習プログラムを卒なく熟すにはベストだと考えていた。


「……そうよね。ゆっくんとなら今までの延長線上でできるもんね。そうだよね、ゆっくんだもん」


 優希は花が咲いたような笑顔だったのだが、一瞬能面のような無表情になった気がした。はて、気の所為だったのか?


「なんだそれ。まぁ、叶わなかったんだから言っても仕方ないけどな」


 何故か杜崎のほうが俺との相性が良かったってだけだもんな。機械の選択に文句をつけ始めたらきりがない。


「それより、ゆっくんの結婚のお相手さんってそちらの方なのかな?」


「ああ、そう。同じクラスの杜崎だ。えっと下の名前って何だっけ?」


 これまでじっと俺と優希の話を聞いていただけだった杜崎を紹介しておく。早々に名前を知らずしくじったけど。


「ち・は・る。杜崎千春よ。よろしくね、松末さん」


「よろしくお願いします。杜崎さん」


 ふたりともニコニコしているんだけど、なんだろう、変な『圧』を感じるんだよね。気の所為だと思うけど。


「そういや、優希の相手っていないの?」


「いるわよ。今、おトイレに寄っているから直ぐに来ると思うの。あ、噂をすれば来たわね」


 爽やかなイケメンが教室に入ってきた。身長は俺より高い。一七五、いや一八〇はありそう。すらっとしていていながらも必要な筋肉も付いています、って感じ。

 短めのミディアムは黒髪。天パじゃなくてちゃんとパーマかけていそうなイケてる髪型。切れ長の目に高い鼻梁、薄めの唇にも嫌味がない。


 要するにマジイケメン。と言う部類のやつだった。


「こんにちは。僕は柳井薫やないかおる。今回優希さんと夫婦をすることになったんだ。僕のクラスは優希さんと同じE組だよ」


「ああ、俺は相馬結月。C組だ、よろしくな。優希とは幼馴染なんだ。こいついい娘だから泣かせるようなことはするんじゃないぞ。まぁ、わざわざ俺の言うことじゃないけどな」


「もうっ、ゆっくんはお父さんみたいなこと言わないでよぉ。恥ずかしいじゃない。薫くんもゆっくんの言うことは聞かなくていいよ」


 ほうほう。すでにお互いに名前で呼び合っている、と。パートナーの名前すら分かっていない俺とは段違いの差だよな。

 くだんの我がパートナーさんの方を見るとまたもや静かになっている。ただし挙動不審で、視線もあちこち向いて定まらない様子なのは先程との違い。


 どしたの? ちはるサン。



※―※

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