第6話

「止めちゃダメだよ、それは。確かに今はショックを引きずってはいるけど、今だけだから」


 俺とマッチングしたのがそんなにショックなら絶対に引きずり続けるだろうし、表面上もとに戻られても嬉しくもなんにもない。


「無理だろ? 俺のことがそんなに嫌ならとっとと諦めて不成立の手続きしちまったほうが早いんじゃないのか?」


「相馬のことが嫌? それってどういうこと? ウチはソーマのこと嫌じゃないよ。自分を持っている感じで大人っぽいし、見た目だって全然悪くないと思うよ」


「なっ、なんでいきなり褒める……」


「褒めたつもりはないけど、思ったまんまかなー」


 完全に俺とマッチングしたのが気に入らなくて不貞腐れているのだと思っていた。違うのか? 違うことはないよな?


「じゃあなんでそんな態度でいるんだよ。本当は気に入らないだけなんだろう? 取り繕うだけ無駄だと思うけどな」


「ソーマは好きな人、いる?」


「や、藪から棒に何だよ。そんなのはいないよ」


「じゃあ、質問を変えるけど。マッチングの相手でこの人って思い浮かべた人はいる?」


 マッチングの相手としてこいつだったら、というのは――


「いなくは……なかったけど、それは好きとかいうのとかとは――違うぞ」


「でもその人となら結婚生活を送れるって思ったんでしょ?」


「それは……。いまは関係ない話だろ? 俺のことはいいんだよ今は杜崎の方だろ?」


「実際のマッチングの相手がその人じゃなくてがっかりしなかった? 相手がウチで」


 がっかりまではしなかったが、少し残念には思ったことは間違いない。それよりも俺の相手がギャルな杜崎だってほうがインパクトありすぎだったからな。


「つまりは、杜崎には想っていた奴がいて、そいつがマッチングの相手じゃなかったから落ち込んでいたってわけか?」


「そう。だから、ソーマが嫌だってわけじゃなくて、その人じゃなかったのが残念だったってだけなんだよ」


 それらの何が違うのだか俺にはさっぱりわからないが、俺のことは『次点としては問題ない』っていうようなレベルの話でいいのか?

 それに若干上から目線でモノを言われているような気もしなくもない。ハイカースト陽キャさんの言うことは謎が多いな。


「よくわからないけど、俺も杜崎じゃきっついなって思ったからお相こだな」


「ウチは褒めたのになにげに酷くない? ねぇ、ちょっと酷くない? ソーマー‼ きっついって何よぉ~」


 やっと普段の杜崎の60%位には調子が戻ってきたのかもしれない。別に戻さなくても良かったんだけどな。


「ねぇ、ソーマって陰キャじゃん。陰キャって普段何しているの? いつも一人ぼっちで、こそこそアニメ見たり、図書室の隅で本を読んだりしているの?」


「はぁっ? 俺、本職の陰キャじゃねぇし。確かに杜崎みたいな陽キャじゃないけど、陰キャって言われるほど陰の人じゃないからな?」


 本職っていうのは拓海みたいなやつのことを言うんだよ。コミュ障で、オタで、友達あんまりいないやつ。でも拓海はいいやつなのでセーフな陰キャな。


「ふ~ん。ウチ、そういうのぜんぜんわかんないから今度ソーマに教えてもらわないとね」


「まあ、おひとりさま好きなのは否定をしないけど、それは陰キャとは違うから、な」


「一人なのは好きなんだ。なにか理由でもあるの?」


「…………ん、まあ、ちょっとな」


「そうなんだね。わかった。もしシミュレーションが始まってもソーマが一人になりたいことがあったら遠慮なく言ってね」


「お、おう。ありがとう……」


 陽キャギャルっていってもただ馬鹿みたいに騒いでいるだけじゃないんだな。やっぱコミュニケーション能力は高いんだろうな。

 それとも杜崎自身がいろいろと考えるタイプなのかもしれない。見た目と違って。そう、見た目とはぜんぜん違って。



「なんか楽しそうだね。こんにちは、ゆっくん」


 教室の後ろのドアから入ってきた女の子に急に声を掛けられた。


「おっ……。優希ゆきか」


 黒髪の乙女がそこに佇んでいた。



※―※

週1投稿ってところに落ち着きそうです。

よろしくお願いします。

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