第5話

 マッチングの通知書が送付された翌日が両者の面会日とスケジュールされていた。


 知り合い同士がカップルになるとは限らないので、別途マッチングした相手との顔合わせが必要らしい。

 なんとも親切なことだ。ただ顔合わせもなく、『どうぞ今日からあなた方は夫婦です』と言われても困るしかないけど。



 もしかしたら杜崎の方から早々に声をかけてくるかと思ったけど彼女の方にはまったく動きは全く無かった。


 俺も何もしなかったので杜崎と同じと言えば同じだけどな。


 それがなぜなのかは知らないし、もしかしたら俺のことが気に入らなくて無視決め込んでいるだけかもしれないが。


 一方の拓海は、相手のいる高校に自ら出向いて行っている。隣町の高校って言うからそう遠くはないのが救いなのかも。

 ぜひとも拓海の望みに叶うような女の子であることを祈っているよ。




 この面会の日から結婚シミュレーションが開始されるまでの2週間が、一般的に言う恋人期間にあたる。世間ではこの期間のことを婚約期間なんていう言い方をしているらしい。

 この期間中に疑似夫婦になる二人で意見のすり合わせを行い、結婚生活に向けて歩み出すのが定番らしいのだ。


「同居とか面倒だよなぁ……。俺には他人と一緒に住むなんて想像もできないぞ」


 周囲では顔合わせのために相手の教室に向かう者、逆に対面するためにこの教室に来た者と出入りが激しくなっている。


 俺はというとまだ自席から全く動いていない。立ち上がってもいない。つっか動けないでいるっていうのがホントのところ。


 気が重い。


 しかし、周りではカップルが初々しく挨拶を取り交わしていたりするので、いつまでもウジウジしている場合じゃない。


 ――覚悟は、決まった。


「よし。行く……か」


 俺のマッチング相手の杜崎の席までは徒歩数秒。道のりは10メートルもないと思う。

 ただこの時間この距離のなんて長いこと長いこと。短い人生の中で一番の長さだったんじゃないかな。


「えっと……、杜崎……。ちょっといいか?」


「あぁ、相馬。マッチングだよね……。よろしく」


 元々テンションの低いことを自覚している俺をも下回るようなローテンションな受け答えをしてくる杜崎。


 クラスでも騒がしい陽キャギャルだし『うっひょー‼ ソーマちゃーん、ヨ・ロ・シ・ク‼ 楽しんじゃおうぜっ』くらいは言われるかと思っていた。かなりの偏見ではあるけれど。


「……とりあえず、俺のこと認識してくれていたようなので安心した」


「うん。同じクラスだし、一応はね、知ってはいるよ」


 陽キャの極みの杜崎と仮性陰キャの俺とはクラスメイト以外の接点がない。お互い認識はしているが知り合いとは言い難い。これは紛うこと無い事実。


 多分まともに会話をしたのはこれが初めて。なので、会話が盛り上がるわけがない。盛り上げようとも思っていないけど。


 初めての会話で意外なことに意気投合してテンション爆上げ、なんてことはありえないな。二人して見事に地面スレスレの低空飛行。正しく相性ぴったり息がぴったりじゃないか⁉


「………」

「………」


 話すことがなくなった。さてどうしたものか。


「……相馬も座れば?」

「あ、ああ、うん……」


 杜崎は立ち上がることもしないので、俺のほうが彼女の前の席――確か伊知地くんの席だったはず――に座る。


「……はぁ」


 俺の方も向かず、机に突っ伏したままため息をついている杜崎なのだが、俺の方こそため息をつきたい気分だ。


 やりたくもない結婚シミュレーションのために膨大な設問に真面目に答えて、結果、俺の性格とは真反対そうな女とカップリングさせられる。

 しかもその相手からはあからさまにうらむ感情が漏れ出ていて、盛大なため息までつかれてんだぞ? やっぱり気に食わなかったんだな。


「あのさ、杜崎」


「ん?」


「止めようか? シミュレーション。そんなんじゃ、どうせ続きやしないだろ?」


 杜崎はちらりと俺のことを見上げる。美人は得だよな。そんなやる気のない仕草でさえ可愛らしく見えるんだから。


 まあ、それでも俺には全く関係ないとは思うけどね。


 もういいだろう。自分の席に戻って、カップリング不成立の始末書でも書いて早々に提出してしまおう。


 そうすれば俺もまたソロ活動に戻れるからな。


※―※

これ以降、ゆっくり更新になりますので気長にお待ちいただけると助かります。

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