第4話

 5月の半ばに差し掛かる日に結婚シミュレーションのマッチング結果がうちの学園にも届いた。


「うわぁーん! 結月~ オレの相手、この学校にいなかったぁ~」


「残念だったな。でも相手は隣町の学校にいたんだろ。拓海はまだ相手がいただけマシじゃないのか?」


 拓海は美少女ゲームが大好きで、理想の彼女はゲーム内の二次元美少女キャラクター。その彼が現実の人間でマッチング出来ただけでも奇跡ではないだろうか?

 通う学校の違いなんて些末なことに拘る必要はないと思うし、拓海の場合は生きている本物の人間とマッチしたことの方が何よりも重要なのだ。


「まあ言われてみるとそうなんだけどね。可愛い子だったらいいな~ そのまま本当に付き合えたら最高なんだけど」


 まだ顔合わせも済んでいないのに気が早い。そもそもコミュニケーション能力の低い拓海に初対面で会話できるだけのスキルがあるのかどうのほうが俺としては気が気じゃない。


「ふ~ん。せいぜい頑張って」


「ところで結月のお相手は誰に決まったんだ?」


「まだ見ていない。封筒開けてみるわ」


 封筒の中身はコピー用紙が2枚。送付案内状と相手の名前とマッチングの詳細が書かれている用紙だった。


「どうだった? まさかのマッチング不一致とか?」


「そう来たか……」


 俺には別段心に決めた誰かがいるわけではなかったが、俺の中でなんとなく思い浮かべていた女の子とは違っていた。まったく残念な気持ちがない訳では無いが、引きずることでもないと、あっさりと意識を引き離した。


 それにしてもと俺はプロフィールに記載された名前に嘆息する。俺の中では想定外も想定外の人物の名が書いてあったのだ。それこそ毛先ほども想像していなかった女子が俺の相手だった。


「誰だったんだよ? ヤベー奴だったんか?」


「あぁ。一瞬意識飛びそうになった。これなら不一致のほうがマシかもしれん」


「は? 誰だよ。まさか男とか?」


「さすがに男はないけど、まったく予想してなかったやつだった」


「で、だれ? 早く教えろよ」


「あ、ああ。うん。えっと、杜崎もりさきだった」


 俺がマッチングしたのは同じクラスの杜崎千春ちはる


 杜崎は、金髪に複数のピアス、ギャルメイクに制服は思いっきり着崩しているハイカーストな陽キャ。

 学園の自由な校則にも違反していないし、勉強などすべきことはやっているようなので文句の一つも出ることはないが、少し目立ちすぎではないかと日頃から感じていたのも事実。


 一方で男子からの人気がそれなりにあるようで告白されることも多々あると聞く。杜崎はたしかに顔がかなり可愛い。目鼻立ちも整っているし、ぽてっとしたくちびると目の下にある泣きぼくろも女性らしさを醸し出しているに一役買っている。


 しかもスタイルまでいいときている。出るところは出て引っ込むところはしっかりと引き締まっている。そのせいで男どもの視線も熱い。しかし言動が若干軽いこともあり、陰ではビッチという噂を聞くのも一度や二度ではなかった。告白されるのが多いのもこの噂に一因があるかもしれない。


「え? まじで? あいつビッチって噂あるじゃん」


「ああ、そうみたいだな。でもそんなのは所詮噂だし、どーせあいつにフラれた奴が腹いせに流している噂だろうな」


「そうなのか?」


「知らないけど、そうじゃないのか」


 これだけを聞くと杜崎のことを俺が擁護していのではないかと勘違いされそうだが、これは単純に俺が流言飛語の類を嫌っているに過ぎない。


 実際のことなどは本人しかわからないことで、他人が適当にあれやこれやと言うべきことではないと経験上感じているだけだ。


「ふーん。ま、オレみたいな陰キャには関係ない話だしな。それより本当にお前の相手はあの杜崎なのか?」


「ほれ、見てみろ。ちゃんと相手の名前と所属が書いてあるから。どうせなら間違いであってほしいけどな」


 俺は拓海と一緒にもう一度マッチング結果の通知を確認してみた。穴のあくほどじっくりと見ているが、最初に見たときと内容は変わってはくれない。

 同姓同名の他人との勘違いじゃないかと希望を僅かばかり胸に抱いたが、当然ながら無駄だった。


「えっと、ご愁傷さま?」


「煩いよ。拓海のマッチした相手がゴリラでありますように!」


「八つ当たりは止めろよな」


「……うっせーよ」


※―※

毎日投稿は明日まで。

どうぞよろしくお願いします。

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